03 皆さんは強いですから!

能力値がオール1のため戦力外の僕。


それでも3人は優しく、冒険者としての彼是を教えてくれた。

最初は何もできなかった僕は、素材を採り出す解体方法や食事の支度を教えてもらい、少しづつではあるが成長を感じていた。


だがレベルは10になったが、元々の能力値が1のためやはり能力値は全く増えない。もしかしたら増加値が普通じゃない可能性も、と思っていたがそんな奇跡は起きてはいなかった。


頼みの綱だったスキルも何も覚えないので、相変わらず役立たずのままだった。


そしてその夜。

夕食を3人と一緒に宿の食堂で食べた後、いつも泊めて貰っているザックさんとニックさんの部屋に、レイリアさんも来ている。


「なあアレス…ちょっと話があるのだが、いいか?」

ザックさんが気まずそうな表情でそう話しかけてくる。


ニックさんとレイリアさんの表情も暗い。

僕もなんとなくだが察している。


「俺たちは、王都に向かおうと思っている」

「王都、ですか」

そうだろうなと思った。


最近はこの地方都市クールビレの近くの迷宮では、物足りない様子であった。

僕と言うお荷物がいるにも関わらずだ。


「そう、ですよね。皆さんは強いですから!」

不安はあるが笑って見せる。


レベルも上がった。今までも生活できるように配慮してくれた。

何より、冒険者としての基本と教えてくれたのだ。


「色々教えて下さりありがとうございました」

「アレス…」

3人が驚いた顔をしている。


「ごめんね。アレスちゃんが悪いって訳じゃないのよ?私たちも、夢を捨てられないから…」

「こんな僕をお世話してくれて、ありがとうございました」

レイリアさんに抱きしめられ、その柔らかい肌を感じ、自分一人の力でまた頑張るという決意を胸にした。


その後、遠慮する僕をレイリアさんが「大丈夫大丈夫。何もしないから遠慮しないで」と言って部屋に連れ込まれた。

ドキドキしながらも狭いベットで眠る。

そっと抱きしめられ、頭をポンポンとしてくれるレイリアさんの肌はとても柔らかくて、いい匂いがした。ドキドキで中々眠れなかったが、恥ずかしかったので布団をかぶり、気付けば眠れていた。


「おはようアレスちゃん」

「おはようございます」

朝からレイリアさんの声で目が覚める。


すでに支度を終えたレイリアさんに、子供のように起こされ…いや、僕はまだ10才。子供でいいのだ。と思いつつも着替えを手伝おうと手を伸ばすレイリアさんに「すみません。自分でできますので…」と断った。


危ない。

流されてしまうところだった。


もちろんちゃんと自分で着替えた僕は、レイリアさんと一緒に隣の部屋の2人と合流して、朝食をとってから冒険者ギルドへ向かう。

みんな言葉少なだった。


◆◇◆◇◆


「そう。残念ね。でも3人は王都でも頑張ってね。アレスちゃんは何かあったら私に相談してね」

そんなローラの言葉を嬉しく思いつつ、ギルドカードを提出し、リンク機能を解除する。これで僕はまたボッチ冒険者になった。


「出発は今日の午後ですよね?」

「あ、ああ」

ローラさんの確認の言葉に短く返すザックさん。


そうか。今日なんだ。

ギリギリまで言えなかったのかな?と思うとなおのこと3人の優しさを感じた。


「本当に、ギリギリまでありがとうございました」

その言葉に3人がやさしく抱きしめてくれる。


ザックさんは少し硬くて男っぽく、ニックさんは少し男くさい匂いがした。やっぱりレイリアさんが一番心地よい。なんて余計なことを考えられるのはこの3人に面倒を見て貰ったからだろう。

レベル1で何も分からないままの僕なら、すぐに死んでいたかもしれないのだから…


その後、王都に行く準備として買い出しをする3人に同行した。


当然王都へ向かう3人を見送りたいが、一人で行動するのも中途半端な時間だからお願いしてみた。

何より見送りでみんなに渡すような物を購入するほどの余裕もない僕に、荷物持ちなどで少しでも恩を返したいという思った。もちろん3人と少しでも長く一緒に居たいという思いが一番ではある。


「じゃあ、元気でな」

「無理しないで、少しづつ頑張れよ」

「また会いに戻ってくるからね」

3人の言葉に心が暖かくなる。


「皆さんも、お元気で。絶対に強くなってみせます」

僕の柄にもない強い言葉に3人が笑顔で返してくれた。


そして護衛対象の馬車の荷台に乗り込み、3人は行ってしまった。


「行っちゃったね」

「はい…」

同じく見送りにきていたローラさんに頭を撫でられ、僕は涙をこらえられなかった。


実家を追い出された時にも泣かなかったのに…

いつものほほんと生きてきた僕が、適当にごまかして生きてきた僕が、こんなに悲しいと思ったことは今まで無かった。


強く生きよう。そう思った。


ローラさんがギルドへと戻り一人取り残される僕。

暫く考える。


手持ちは金貨4枚程。

最初に持っていた5枚の金貨から1枚は、短剣と皮の軽鎧に着替え用の古着数点、それらを入れる腰巻きの袋に使った。宿や食事を提供してくれる3人に遠慮してお金は受け取ってはいなかった。


今後はひよっこ冒険者らしく薬草採取にでも挑戦してみるか。そう思っていた。


冒険者ギルドに戻り、常時掲載されている依頼書を念のため確認する。

3人にも教えてもらいながら、採取したことはある森に生えている、イヌマキ、トクサ、ヨウテイの3種類の薬草。


それらの特徴のメモ紙をローラさんから受け取った。


------------------------------------------------------------

ザック

地方都市、クールビレ男爵領で活動していたCランク冒険者パーティ『風の旅団』のリーダー。戦士クラスで剣を使って前衛を務める。頼れるお兄さん的存在。


イヌマキ 暖かい土に生えるうっすら赤い木の実。甘酸っぱく胃腸薬になる。

トクサ 日の当たらない涼しいところに生息する細い茎で纏めて生えている。血止めなどの効果がある。

ヨウテイ ジメジメしたところに生える紫の小さな花の薬草、採取は根の部分で下剤などに使われる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る