06 これが、大盗賊の力…

ギルド近くの武器屋に入る。

そして何が良いか考える。


拳を守るのだから…ナックル?

それとも剣や槍をしっかり握りしめればそれで突くようになるのかな?もしかしたら剣を握ったまま拳で…なんてことも考えられる。


まだ試行回数が足りないなと感じてしまう。


店内を眺め安い部類であろう剣を見る。安いのでも金貨2枚か…

ナックルなら…それでも金貨1枚はするようだ。


よし!諦めよう!

まずは検証をしよう。そう思い一つだけ小物を買い宿へと戻った。


翌日、検証を始める。

体力と魔力と外殻も十分だ。


僕は剣の代わりに太めの枝を拾う。

これなら…


獲物は、どこだー!

また少し変なテンションになってしまう。


獲物を求めて慎重にではあるが歩き回る。

途中でトクサを見つけてしっかり刈り取っておく。


おっ!こっちにはヨウテイだ!今日は運が良いのかもしれない。

探していない時に限って見つかる謎理論。


そんな僕の前に遂に角兎が…

なんで森ウルフまで一緒なのだ…


躊躇するが覚悟を決める。

手には枝と言う名の武器もある。万が一には安物で心許ないが短刀もあるし…


僕はまず森ウルフにターゲットを向け、こっそり近づき枝を力強く構えて走り出す。そして感づかれたと同時に[突く]。

瞬間、森ウルフに向かって枝が真っすぐ伸び、バキバキという音と共に砕け散り、拳の痛みと共に森ウルフは吹き飛んでいた。


「いってー!」

痛みをこらえ横目で角兎を見るが、まだこちらを睨むだけで動いていないようだ。


素早く能力板スキルボードを出し体力と外殻のみ確認すると、どうやら体力は5減っている。もちろん外殻は全損で0だ。これは…もう一度は無理だ。

短刀を抜きつつも身構える。


枝が破壊されたように短刀だって破損して、ダメージをそのまま食らう可能性がある。残り体力は15。受けるであろうダメージは15。


普通に死ぬな…


恐らく倒したであろう森ウルフの肉は惜しいが命には変えられない。そう思って逃げる準備をする。


短刀を構えつつ後ずさるように距離をとると、角兎はぴょんぴょんと跳ねながら逃げて行った。もしかしたら僕の森ウルフへの攻撃で危険だと判断したのかもしれない。

何はともあれ助かった。


僕はその場にへたり込み呼吸を整えた。

心臓がバクバクと自己主張しているのをなんとか鎮め、森ウルフを解体することにした。そして気づくのだ。森ウルフの亡骸の上に、シャボン玉のように浮かぶ例のアレに…


―――スキル[疾風]を覚えました。


「やった!やっぱり初めて狩る魔物のスキルが奪えるんだ!

 これが、大盗賊の力…」

シャボン玉をつんした僕は、あまりに嬉しくて飛び上がる。


[疾風/Lv1/風のように早く駆ける]


能力板スキルボードに刻まれた新たな力に頬がゆるむ。ついでにレベルは12になっていたが、能力値に変化はないのでそれは良いかと気にしないし、気にならない。今はまず新しいスキルの確認だ。


「疾風!」

思わず声に出し[疾風]を使った。


瞬間、イメージした方へと駆けだそうとして一気に場所を移動するような感覚を覚えた。

距離にして2m程だろうか?短いが咄嗟に使うのはいいのでは?


有頂天になり2度、3度と繰り返す。

そして気づく。

魔力が9(20)となっていることを…


「えーと、[突く]で15、そこから[疾風]が3回で…消費魔力は2か…」

便利なスキルだが多用はできない。あまり使いすぎると[突く]が使えなくなってしまう。


だが咄嗟に使うには本当に便利だ。

森ウルフもドンドン狩らなきゃ、と思った。なにより森ウルフのお肉は良い収入源になる。何よりお肉は美味しいので売らずに食料にしても良い。そう思い早速解体を始めた。


毛皮を剥ぎ、肉を切り分ける。角兎より微妙に大きい魔石もしっかり取り出した。

それなりの量となった。

魔法のバッグ、とは言わないがせめて1m立法ぐらいの量が入る魔法の袋ぐらいはほしい。今は素材を持ち運ぶのも一苦労だ。


僕は肉を袋にくるむと、布バッグに毛皮や魔石と一緒に入れる。結構な重さだ。銀貨3枚にはなるはずだ。

そして僕はさらに解体済みの森ウルフの前に座り込むと、その口の部分を丁寧に解体してゆく。


本当は角兎の角でやりたかった事。

僕は丁寧に外した上顎を確認する。そして昨日購入した裁縫用の針と糸を使い、合わせて切り取った10cm四方ほどの顔の毛皮に縫い付ける。

外側に大きな牙が向くように不格好だがグルグルと縫い付けて行く。


さらに毛皮の端通しを縫い付けて輪にしておいた。

右手にそれを装着して簡易ナックルの完成だ。


もちろん手の甲にあたる部分が少しヌチョっているが、気にしている場合ではない。我ながら良くできたものだと思う。


暫く休憩しながら回復を待つ。

警戒しながらも1時間近く休むと、体力は17、魔力は11、外殻は10に回復した。


それを確認しおえ、置いてあった布バッグを持って立ち上がろうとした時。先ほどの角兎が戻ってきたのか、はたまた別の個体かは分からないが、角兎がひょっこり現れた。

目と目が合う。


僕は立ち上がると咄嗟に[疾風]を使い距離を縮め、[突く]で角兎を打ち抜いた。

拳の痛みは…ない!


「ギュー」と変な鳴き声をあげ飛んで行く角兎を見ながらも、能力板スキルボードを出す。外殻が5になっていた。

一応ダメージは受けるようだが、これなら戦える!


そうは思ったが、右手の手作りナックルの森ウルフの牙が破損して地面に落ちているのを見て、やはりこんなものかとため息をついた。


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森ウルフ

モレノの森で出会った濃紺の狼。素早い動きで飛び掛かり、上顎の大きな牙で一気に骨までかみ砕く。普段は群れで生活するが、狩りは単独で行う習性がある。

固有スキルは[疾風] 消費魔力は2。2m程度の距離を一瞬で移動できる、中々使い勝手の良いスキル。

素材は肉と毛皮、小石ほどの魔石を合わせて1匹銀貨3枚。そのお肉は食べ応えのあるこってり味。冒険者ギルドの食堂などで肉料理にも使われている。

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