#3、異常
午後の授業、エイミは全く集中できなかった。
もちろん、後ろの席に座っているエイジのせいである。
高校の知識が目新しいのか、学ぶことが多いのか、本人も無意識のうちに「へー」とか「おもろいな……」とかエイミにしか聞こえないぐらいの声量で口に出していてうるさい、というのもあるが、とにかく昼休みでの出来事がずっと頭の中で渦巻いている。
(なんなんですか、ほんとに……命への危機感が無さすぎます。強いのは分かってますが、それに慢心しているのならば命を落とす前に大怪我させてでもこのクラスを辞めさせるべき……? いえ、でもその前に確認しなければ……)
エイミはぐるぐると回る思考を何とか一つにまとめ、左手首につけている腕時計、正確には腕時計に扮した魔力測定器に目をやる。
(一般人のの平均は50~100。私でも12000マギア。なのに……)
もう一度、「Error」と表示されている液晶を見る。
(計測不能、そしてError……一体何者なんですか……?)
エイミが結論の出ない問に頭を悩ませるうちに、その日最後の授業が終わり、そのままホームルームが始まる。
(決めました。多少手荒になりますがこれしかありません)
ホームルームが終わる頃にエイミは結論を出す。
「エイジさん、このあとお時間ありますか? まだ案内してない所があります」
「ん? おぉ、いいけど……?」
エイジは少し緊張感のあるエイミの声に疑問を持ちながら、エイミの誘いを受けるのだった。
「――ここが、私たちが使う演習場のひとつです。案内のために先程学園長に申請しておきました」
ホームルーム終了後、エイジが連れられてきたのは幾つかある円形の演習場のひとつだった。だいたい、直径100メートルぐらいはあるだろうか。まぁまぁ大きい。
「へー、ここで授業の時とかに魔法の撃ち合いしたりするのか。そういや、俺が実技試験受けた時もこんなとこだったか」
「そうだと思います。ちなみに、この中では怪我をしても外に出れば治ります。実際に命を落とさない限り」
「そりゃ便利、というかすげぇな。どんな魔法だそれ」
エイジの知る限り、回復魔法は現段階ではそこまで発達していない。魔法文化華々しい現代でも、他人の肉体を復元したり治療するのは難しく、未だに医療技術の方が上だ。
「魔宝具です。魔宝具『#24、幻想ブロック』の効果に回復魔法の魔法陣を組み合わせることによって、不可逆的な出来事以外、中での出来事がリセットされる効果が発揮されています」
「へー、魔宝具ね……そっか。だから体育館しか無かったのにこんなドームが存在してるわけか」
魔宝具、というワードが出た瞬間それまで興味深げに当たりを見回していたエイジの表情が消える。
「じゃあ、それもか」
そうしてエイジが見つめる先、エイミがいつの間にか弓だけを構え、そしてなぜか純白のランドセルを背負っている。
エイミの幼い見た目も相まって小学生のようにも見える。
「はい、これが私の魔宝具『#3、天使の弓』と『#14、天使の羽』です。平エイジさん、これからする私の質問に答えて下さい」
矢の番えられてない弦に指をかけ、狙いをつけるエイミに今日エイジが見た笑顔や愛らしさは無い。
「質問って?」
「エイジさん、貴方には今魔宝具の違法所持と身元不明の危険人物の疑いがかけられています」
危険人物と言われ、エイジは驚く。
「それって今朝の魔宝具ハンターか否かみたいな話か? それならもう疑いが晴れたと思ってたんだけどな……」
「はい、その疑いは晴れています。正確には保留にして気にしない、という感じではありますが」
「じゃあなんでだ? 心当たりは無いんだがな……」
「今朝、エイジさんが私の後ろの席に座った時からずっと魔宝具保有者特有の反応が出ています。……その反応がかなり異常ではありますが」
「それで?」
「ただの端末の故障であればそれで良いです。しかし、もしあなたが魔宝具を違法に所持しているならば……」
「ならば?」
「魔宝具管理部隊No.14:エイミ・アンジェラの名において、その魔宝具、回収させていただきます!」
そう言って、エイミは天使の弓を再び構え直す。
「そうか、じゃあ……」
エイジは少し考える間を置く。今、素直に要求に応じ、エイジの「目的」から遠ざかるリスクと、抵抗して今後の学生生活を平穏に送れなくなるリスクを天秤にかける。
「うん、抵抗するか」
仕方ないな、と後頭部を掻きながらため息を吐く気だるげにも見えるエイジの仕草に、なぜかエイミは例えようのない危険を感じる。
「っ! 『神罰の矢』!」
その危機感のまま、エイミは
「へー、オリジナルか。やるな」
「あくまで不壊・不朽の性質を持つ魔宝具あっての魔法ですが。並の弓ではこの魔法に耐えられませんし」
そう言葉を交わす間に、エイミの目線の先、矢の上あたりに金色の光が現れては収束し、現れては収束しを繰り返している。
「なぁ、一応聞くけどその輪っかなんだ?」
「チャージです。1秒ごとに威力が増していきます。今のでだいたい15秒ぐらいでしょうか」
「へー、そりゃやばそうだ……」
エイジはそう呟くと同時に反転して全力で逃げようとする。
「無駄です。『ロック:対象の右腕』17秒ぐらいのチャージです。かするだけでも半身が吹き飛びます。それにっ……」
エイミは言葉を紡ぐ前に矢を放つ。
「天使の弓の効果で外れることはないので」
「やっべ、必中効果。やっぱ残ってたか!」
エイジの顔に初めて焦りの色が見えた。しかし、エイミがそれを認識するより前に、雷の矢は亜光速の速さを持ってエイジの右腕を捉える。
「くっそ……」
その瞬間に発せられた悔しさと後悔が混じったようなエイジの呟きは雷鳴に掻き消され、エイミに届くことは無かった。
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