#2、なんで?

「ここが玄関です」

「知ってる、今朝も使ったしな」

「ここが職員室で……」

「知ってる、てか手続きとか色々しに来てたし」

「ここがお手洗……」

「知ってる、てか女子としてそれを紹介するのはどうなんだ?」

 結論、エイミの学校案内はあてにならない。と言うより、困り果ててトイレを紹介するあたりかなりポンコツである。

「いや、もっとこう、あるだろ。食堂とか図書館とかさ。なんでそんな紹介するセンスねぇんだよ……」

「あぁ、そんな所でいいんですね。そういったメジャーな所は逆に抑えてるのかと思ってました」

 呆れてため息をつくエイジに、ぱんっと手を叩いて微笑む。

「だとしても今のチョイスはねぇだろうよ……」

「じゃあちょうどお昼ですし、食堂に行きましょうか」

 最初からそれで良かったのでは、とエイジは思ったが流石に意地が悪いので口に出すのは控えた。

 食堂、と言っても学校なのだからちょっと広めの学食程度だろうとエイジは思っていたのだが、実際の食堂は想像していたより何倍も立派なものだった。

「すげぇな……食堂というよりフードコート、いや、そう言うとなんか安っぽいな……」

「どうです? 我が校自慢の食堂です。ここは私たち高等部の生徒の利用がほとんどですが、人数の多い大学部に行くともっとすごいんですよ」

 ふふん、と自慢気に言うエイミ。ただの一生徒のはずなのだが。

(だがまぁ、気持ちは分かるな。教室こそ普通の感じだったが、学園内を歩けば規模のデカさがよく分かる。俺も高校生とかの時こんなとこ通いたかったな……)

「なんかおすすめとかあるのか?」

「うーん、悩みますね。見ての通り、日替わりも含めて料理の種類が沢山あるので。噂によると3年間で全部食べるのは無理なのだとか」

(さすがにそれは盛ってるだろうな。噂だし)

 だがそういった噂が出るほどの設備と質なのだろう。

「じゃあとりあえず席決めちゃいましょうか。いつまでも眺めてるだけだとお腹がすいてしまいます」

「あぁ、そうだな。そんで、おすすめは?」

「あ、そうですね。私のおすすめは……オムライスですかね。卵がとろっとろで、チキンライスが甘めの味付けで美味しくてほっとすると言うか……なにより上にかかってるデミグラスソースが美味しくてもう……」

「へー、そりゃ美味そうだな。じゃあ俺もそれにするか」

 興奮しながらもうっとりするという器用な口調でエイミが語るのでエイジも俄然オムライスの腹になる。しかし、学食というので、てっきりこだわったカレーとかボリューミーな丼ぶりとばかり思っていたので、オムライスという可愛げのあるメニューは少し意外だった。

(いや、女子にボリューム求める方がおかしいか)

 そう思いなおし、エイミと共に注文用のタッチパネルの列に並ぶ。

「へー、ここで注文したらそのままオーダー行くようになってるのか。便利だな」

「そうですか? 今時、だいたいこんな感じだと思いますけど」

「ジェネギャってやつか……」

 エイジはこんな学食の注文1つ取っても世代の乖離を感じるとは、と1人小声でショックを受ける。

「あんまり歳変わらなくないですか?」

「……そうだな」

 気遣いか本気か、エイミがそう言うがエイジの返事は歯切れが悪い。

 そうこうしてるうちに注文していたオムライスが提供され、2人はそれをトレーに載せて席を探す。

「そういや支払いしてなくないか?」

「あぁ、私たちのクラスだけ特別なんです。活動内容上、命の危険があったり家に帰るの遅くなるので食堂が無料なんです」

「え?」

「え? どうしました?」

 食堂が無料、その理由にエイジは思わず声が出る。エイミはその反応にキョトンとするだけだったが、ある可能性に思い当たり顔が青くなる。

「……もしかて、エイジさん何も聞かされてないんですか?」

「いや、俺が聞いてないだけかもしんない。1回座るか?」

「で、ですね。え、そんなことってありますかね……」

 2人して想定外の自体に慌て始めるが、いつまでもトレーを持ったままという訳にはいかず、とりあえず近くに空いていた席に座る。

「えーっと、エイジさん。まず、私たちのクラスが特別なのは理解していますか?」

「あぁ、魔宝具に適性があると認められたもの、そして将来的に魔宝具を持った相手と渡り合えると判断された強者だけが集められるクラス、だろ?」

 エイジは編入試験前に受けた説明を思い出しながら答える。

「はい、あっています。では私たちが授業以外に行う活動については?」

魔宝具管理部隊カタログと連携した魔宝具の回収、または被害の防止、それ以外に通常の治安部隊では鎮圧できないほどの相手が出てきた際の対処、だった気がする」

「ええ、正解です。では本題です。それに伴うリスクについては……?」

 エイミが緊張からか声をワントーン落として尋ねる。

「……怪我?」

 エイジが恐る恐るそう答えた瞬間、エイミが終わった……とでも言うように頭を抱える。

「どーしましょう……え、合格した時遺書とか書きませんでした?」

「書いた、かも?」

「何でそんな大事なことが『かも?』なんて曖昧なんですかー!!!」

 エイミの叫びに周りの生徒がなんだなんだと横目で見る。

 それに気づいたエイミは顔を真っ赤にして声を潜めながらエイジに尋ねる。

「どうします? まだ編入したばかりなら一般クラスに入れるかもしれませんよ? ね? 命のリスクは知らなかったじゃ済まされませんから」

 どこか懇願するようにエイミに、エイジはにっこりと笑って答えた。

「大丈夫、俺死なないから」

「自信の問題ではありません! そもそもこんな大事な話も聞いてないような人に務まるような活動ではっ――」

「まぁまぁ。俺、怪我もしないからさ。ほら、食べないとオムライス冷めるぞ」

 これ以上話す気は無いのか、それともただ単にはぐらかしたい事があるのか、いずれにせよエイジは会話を打ち切るように冷め始めたオムライスに手を付ける。

「お、ほんとだとろっとろじゃん。てか冷めても美味いな」

「わかってますよ、そんなことは……」

 エイミはまだ何か言いたげだったが、エイジの態度にこれ以上話しても無駄だと諦めオムライスを食べ始める。

(なんか、味が薄いです……)

 美味いと言って食べ進めるエイジとは対照的に、エイミはもったりとしたペースで食べ進め、その後無言のまま昼休みが終わるのだった。

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