100の思い出、巡り巡って、終わりまでプロット#2

武内将校

#1、21歳の高校1年生

「――平エイジ、21歳です。皆さんより年上ですが気楽に接してください。これから3年間よろしくお願いします」

 かっちりとした、しかしなんの面白みもない自己紹介にぱらぱらと拍手が起こり、そしてそれ以上に高等部という場所にそぐわないその年齢に好奇の視線が集まる。

 エイジ自身もそれを自覚、もしくは覚悟していたのかにっこりと笑ってその視線を受け止める。

「エイジさんの席は窓際、1番角の席です。本来なら筆記、実技の成績によって席順が決まるのですが、エイジさんはその基準が無いので一旦はその席になります。視力は大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

 教師が一通り説明した後、エイジは席に座る。

「よろしくー」

「あ、はい。よろしくお願いします……」

「あ、あぁ。うん、よろしく……」

 エイジが、前と右の席に声をかけるも応える声はぎこちない。

 (まぁそりゃそうか。こいつらにとって年上なら俺にとっては圧倒的に年下だしなぁ……)

 予想通りの反応にエイジは少し残念がりながらも仕方ないと納得する。

 その後、いくつかの連絡事項が話されたあとホームルームが終わり、案の定、クラスのほとんどがエイジの周りに集まってきた。ある者は変わらず好奇の視線を向けながら、ある者はエイジの正体を怪しみながら。

「えっと……エイジ、さん? はなんでこのクラスに? いや、年齢がどうって訳じゃないんだけど……」

 皆が口を開けては閉じるを繰り返す中口火を切る少年に、クラスの中で1番社交性がありそうだ、とエイジは思う。実際、ワイシャツにその茶髪に金色のインナーカラーが入れられ、その両耳にはイヤリングと見るからにチャラそうという言葉が似合う見た目ではある。

 (いや、見た目で判断するのは良くないか)

「エイジでいいよ。これから3年間……2年半か、編入だし。一緒のクラスなんだしそんなに畏まらなくてもいいよ」

 少しでも雰囲気を和らげようとにこりと微笑む。

「あ、あぁ。分かった、エイジ。それで……」

「理由か? 簡単な話だよ。家庭の事情で高等部に行けなかった、それだけだ」

 気にされないようさらっと言ったつもりだったが、何人かがやってしまったという顔をする。

 しかし、その中の1人が声を上げる。

「それ、本当にそんな理由なのかい?」

「ちょ、おい、お前何言ってんだよ!」

 いかにも真面目で他人に厳しそうと言った雰囲気の少年がエイジに疑いの眼差しを向け、それをチャラ男が慌てて咎める。

「どういうこと?」

「過去に、この学園ではないが他校の魔宝具課の生徒が生徒のふりをして潜入した魔宝具ハンターに襲われた事件があった。確かに年齢に関してとやかく言うのは本質では無いが、僕たち高等部の1年生に対して君の年齢は些か異質だ。疑うのは当然だろう」

(こいつクッソ真面目だなー……眼鏡に七三分けってこいつこそほんとに高校生かよ)

 エイジは内心でうへぇと顔をしかめるが表には出さず、笑顔のまま言い返す。

「別に疑うのは構わないし、この年齢で高等部の1年生なんて不自然にも程があるって言うのもわかる。でも俺は本当に高校生活がしたかっただけなんだ。まぁ、ここは普通の高校生とはちょっと違うかもしれないけど。そこはほら、将来のためだし」

「だが、それはなんの保証にもならない。そもそもこのクラスにだって大なり小なり家庭の事情がある生徒はいる。そんな珍しくもない理由が理由になるとでも?」

「あー、もうめんどくせぇな。結局理由は俺の歳だろ? だが俺は正規の手順でここにいる。筆記の成績はちょっとアレだったが、そこは実技でカバーしてる。その上でここにいるんだ。そんなに文句言いたきゃここの理事長にでも言ってこいよ。合格出したのはあいつだぞ?」

 さすがにいちゃもんを付けられすぎてエイジも我慢できなかった。口調が変わり、理事長をあいつ呼ばわりするが、エイジの気持ちは分かるのか咎める者はいない。

「あーもー、散った散った。そんなことが聞きたいならもうちょっと考えてから質問しに来てくれ」

 その合図を皮切りに他にも質問したそうな生徒達もばらばらと散って行った。

(くっそ、やらかしたな……大人しくしてるつもりだったのに……)

 エイジはため息をつくが、剥がれてしまった皮は貼り直せない。

「はぁ…… 」

「大丈夫、ですか?」

「うぉっ」

 頭を抱えるエイジはいきなり声をかけられ、驚いて声を出す。

「あ、ごめんなさい。前の席のエイミ・アンジェラです。よろしくお願いします」

「あ、うん。よろしく……今のやり取りの後によく声かけられるな」

 傍から見てかなり性格が違って見えるだろうという自覚があるエイジは、そもそもしばらく声をかけられることは無いだろうと覚悟していたので、少し反応に困る。

(あと結構可愛いな)

 金髪を短いツーサイドアップにし、その透き通った碧眼で心配そうに覗き込む姿は、年の離れたエイジでも素直にそう思ってしまうような小動物的な可愛さがあった。

「いえ、桐生さん、最初に声をかけた方ですね。は、ともかく、三輪さんはかなりとげとげしかったので期限を損ねるのも無理はないかと……」

「まぁ、結構しつこかったしな。なんかあったのか?」

「いえ、特に何も。ただ、責任感が強い方なので、他校で起きたことがここでも起きたら大変だという心配が勝ってしまったみたいですね」

「なるほどね、真面目そうなのは見た目だけじゃ無いってか」

 強すぎる責任感が故に排他的になってしまう、何とも年相応だ、とエイジは思う。

「ま、仕方ないと思うことにするわ。そもそもこの歳で高等部の1年だ。絶対何かしらの因縁は付けられると思ってたからな」

「大人ですね」

「そうか? そんなもんだろ」

 21歳だしな、と笑って返すエイジにそういえばそうですねとエイミも笑って返す。

「せっかくですし、お昼休みにでも校舎の案内しましょうか?」

「いいのか? じゃあ頼む。1回自分で追い払ったからしばらく誰も声かけてくれなさそうだし。助かる」

 半分は三輪のせいもあるが、もう半分は我慢できず追い払ったエイジのせいでもある。今も気まずそうにエイジとエイミのやりとりを横目で見る者がいるが、しばらく声をかけてくることはないだろう。

「分かりました、よろしくお願いします平さん」

「エイジでいいよ。エイミ」

「はい、エイジさん」

 ほっと一安心するエイジににっこりと笑って返すエイミ。こうして初っ端からトラブルはあったものの、なんとか1人になることはなくエイジの学生生活が再び始まった。

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