第45話 僕はお見合いをした。
35歳の僕は初めてお見合いをした。僕が30を過ぎた辺りから僕の婚活が始まり、婚活パーティーに参加してきたが、母親も親戚で「良い人がいないか」と探してくれていた。やっと見つけてくれたのが大分県に住む遠い親戚の五馬花子(イツマ ハナコ)という女性だ。釣書によると31歳で「家事手伝い」とあるが実家の畜産業を手伝っているらしく、健康で働き者という触れ込みだ。写真を見ると顔は“中の下“で、体型は衣装のせいかもしれないがメリハリが無いずん胴型で、ドラム缶のような女だ。5年間探しても「この程度しか見つからなかったのか」と気が進まないが「イクヤだって容姿は自慢できるものじゃないんだから」と母親に説得され会うことになった。でも僕がこんなに女性関係で苦労しているのは不細工に産んだ両親のせいでもある。
花子さんの方が大分から飛行機で大阪に出て来てくれるので、大阪のホテルで会うことになった。「ホテルグランドピアノ大阪」の日本料理レストラン「舟橋」。花子さんとそのご両親は前泊しているので、午前中からお見合いである。僕も両親と一緒にホテルのレストランへ行くと、花子さんは着物姿で両親は田舎者なりの小綺麗な格好だった。僕はスーツ姿で両親も黒系のスーツだった。
レストランの個室に入ると、うちの親も親戚筋で遠縁となる五馬家はよく知らず、料理をいただきながら家族全員の紹介やエピソードトークをお互いの親同士が一時間くらい話して、「あとは若い二人で…」と個室に二人残された。親ばかりが喋って僕も花子さんもあまり積極的に会話に加わらなかったので、やっと落ち着いて話ができる。
「綺麗なお着物ですね。」一応男である僕から話しかけた。
「ありがとうございます。ばあちゃんから貰った着物なんです。」田舎者のイントネーションだ。
「花子さんは普段は牛のお世話をしているんですね。」
「はい。牛も馬もおって、クリクリした瞳が可愛いかよ~。イクヤさんは役場にお勤めで凄かね。私は勉強ば出来んかったけん、羨ましか~。」
「大したこと無いですよ。」
「イクヤさんは休みの日は何ばしとっと?」
「大阪に出てご飯を食べたり、買い物したりかな。」ほぼ毎週風俗遊びをしているが正直には言えない。
「良かね~。美味しいお店やオシャレな所もようさんあろうに、私も連れて行ってほしか~。」
「粉もの屋さんやうどん屋さんとかだけどね。」
「私は修学旅行でしか地元から出たこと無かけん、大阪も今回が初めてなんよ。」
「じゃあ花子さんは普段は何をして遊んでるんですか?」
「車で「ジャオンモール」に行ったり、地元の集まりに出たりやね。バーベキューしたり、宴会したりしおんよ。ばってん幼馴染とか近所の知り合いばかりで毎回同じようなメンバーやから、出会いが少ないんよ。」
「花子さんはこれまでもお見合い経験があるんですか?」
「私は1、2回程度です。イクヤさんは?」
「僕は初めてです。」
「おかあやんが30歳過ぎてお役人さんとお見合いできるチャンスなんて二度と来んのやから頑張れって言ってたんよ。」ブスのくせに上目遣いで媚びてきやがる。だが、僕の方が立場が上なのは思っていたとおりだ。
「ところで花子は処女?」
「え?何んな?」
「処女か?って聞いてるの。」
「んにゃ。ばってん私も30過ぎやし…。」小さい声で答え、上目遣いを止めて俯いている。
「ふーん、僕は清楚で若い処女が理想なんだけど、なかなかそんな女性いないよね。」ブスのくせに中古品だ。美人でも若くもないんだから、せめて処女でいてほしかった。それに、僕には出来なかった恋人が花子には出来たことがあるというのも癪だ。
「そうやね。お互い歳も歳やし…。イクヤさんも今まで彼女いたことがあらはるやろ?」さも当然と言わんばかりに花子が聞いてくる。
「僕?そりゃあそうさ。まぁ7人くらいかな。」彼女どころかデートすらしたことが無い僕は、見栄を張って素人とヤった人数を咄嗟に答えた。5人は児玉鈴ちゃんやHarakoさんを含め「YORIMITI」で穴に入れた女で、もう一人は墓野くんへの復讐で襲った芋村亜紀さん、さらにもう一人はネルソン編集部の積山道代ちゃんだ。
「すごか~。さすがお役人さんはモテおるね。」
「そうかな、大したこと無いよ。花子の経験人数は?」
「え~、秘密ばい。」生意気にも照れ笑いで誤魔化された。
「仮にだけど僕に嫁ぐとして、子供が何人ほしいとかある?」
「急に聞かれてもうまく答えられんけど、子供は欲しかね。」
「じゃあ、結婚が決まったらすぐに仕込まないとね。」
「はぁ…。」花子がポカンとした表情になる。
「あれ、知らない?30過ぎた女が健康な子を産むには一日でも早い方が良いらしいよ。花子の好きな性感帯はどこ?僕は床上手だよ。ぐふふ。」
「は、話は変わるばってん、イクヤさんは年収どのくらいあると?」
「年収?350万円くらいかな。」
「じゃあ、しばらくは共働きして、しっかりお金貯めんと家が建たんね。」
「大丈夫だよ。うちの家に一緒に住めばいい。母親が家の事をしてくれるし、花子もバイトに出たらいいよ。」
「いきなりイクヤさんの両親と同居ですか…。」
「あ、夜の営みが心配かな?親の方が早く寝るから大丈夫だし、花子が運転できるなら車でラブホに出てもいいよ。」
「そうやのうて…。」
「そうだ。先に言っておくけど僕は趣味にお金を使いたいから、給料全部を嫁に渡して夫はお小遣い制ってのは無理だよ。だから変な期待はしないでね。」
「趣味って何なん?」
「それは結婚するまでの秘密。ぐふふ。」
「二人とも話が弾んでるようね。」僕達二人が残されて40~50分過ぎた頃、母親達が機嫌良さそうに部屋に戻って来た。五馬一家は今日の午後にも大分へ帰るのでお見合いは終了である。お互いの意向は後日電話で返答する事にして解散となった。
僕が花子に点数をつけてやるとしたら55点くらいだ。妥協に妥協を重ねて「仕方ないから貰ってやるか」というのが僕から母親への回答だ。本来、四年制大学卒で公務員という僕ほどのポテンシャルがあれば、もっと若い時に20代前半の可愛い処女と結ばれて、今頃子供がいてもおかしくないと思うが、周りの女性が遠慮して僕をデートに誘ったり交際を申し込んでこないので、今のような状況になってしまった。世間体もあるし、職場の同期や後輩でも配偶者や付き合っている相手もいないのは僕を含め数少ないので、この辺で手を打とうと思った。
公務員と家事手伝いで、こっちの方が格上だから花子に「貰ってやる」と言えば確実に結婚できるだろう。ブスのくせに処女じゃないのは面白くないが「お互い歳も歳やし」という花子の言う事も一理あるし、僕の嘘の経験人数7人を「凄い」と言っていたのだから花子はそれより少ないのだろう。趣味というか生き甲斐でもある風俗遊びと並行してたまに花子も抱いてやったら、そのうち子供も産めるだろうし、花子が健康で働き者というのも間違いなさそうだ。
次の日に母親から五馬家に電話で「婚姻希望」の意向を伝えたが、五馬家からの返答は、まさかの「お断り」だった。驚いた母親が理由を問い質したところ、五馬の父親は「初対面の女性に処女か確認したり、経験人数を聞いたり常識が無い」、「その上、はやく仕込もうとか、自分は床上手とか頭がおかしいのではないか」、「年収も大したこと無いくせに娘を見下した態度が失礼だ」、「有尾の両親と同居な上、趣味にお金を使うから嫁に給料も渡さないらしいぞ」、「娘はあの後、帰り支度をしながら泣いていた」、「とにかくあまりにも無礼だ。イクヤ君のことを親戚中に言いふらしてやる」と激怒していたようだ。
僕は何も変な事を言ったつもりは無いし、花子も上目遣いをしながら会話に乗って来ていた。風俗以外で女性と1対1であんなに長時間会話したのは初めてだった。それなのにお見合いでの会話内容を告げ口されて、30過ぎのブスの非処女には何の落ち度も無く、僕だけが悪いかのように怒られた。「親戚中にイクヤの悪い噂が広がる」、「もうお見合いで相手を見つけるのは無理だ」、「イクヤが結婚したいなら自分で何とかしろ」と母親は泣き、父親も暗い表情になって匙を投げた。
こちらが妥協してやったのになぜ僕がフラれたのだ?「異世界転生したらワクチンだった件」のマンガを読みながらむしゃくしゃする。この異世界の主人公のように僕とセックスをして精液を中出しされないと病気で死んでしまう様な世界ならば、きっと花子のようなブスは選ばない。女性達は先を競って僕に抱いてほしいと誘惑して来る中でわざわざ不細工の相手をする必要はないのだ。しかし、現実世界ではそんな女から僕はフラれた。自尊心が傷つき、2時間後にはまた風俗店へ駆け込んていた。
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