第42話 僕は妄想を投稿した。
朽木エリカ。僕が一目惚れした最初で最後の女性。僕が思い描く理想、すなわち上品な可愛さ、穢れ無い清純さ、優しく甘い声、常識と高い知性があり、たぶん処女。これら全ての要素を詰め合わせて神様が現実世界に具現化してくだったとしか思えない完璧な女性が朽木エリカだった。実際にお会いして、お近づきになりたい。もしも可能ならお付き合いして、結婚して、セックスもして僕の子供を産むパートナーになってほしかった。
嬉しい事に朽木エリカと僕はニアミスしていた。僕が風俗で遊ぶ前に腹ごしらえしている難波の「粉もの屋ベア」。このお店にエリカが来て、お好み焼きを食べた事があるようだ。お店に飾られているその時の写真とサインを見ると20xx年4月xx日となっており、殺されてしまう少し前に来たようだ。自分が利用しているお店を好きな芸能人も利用していると聞くと親近感が湧くが、単なる偶然ではなく「粉もの屋ベア」の大将の娘、熊川ヤドリと朽木エリカが大学時代の友人だったのがエリカが「粉もの屋ベア」を訪ねて来た理由だった。
4月下旬のゴールデンウイークに入る前、朽木エリカがマネージャーの室崎ユリエと「粉もの屋ベア」へ足を運ぶ。
「すいません。ベアセット2つください。」エリカが店前の行列に並ぶ客に申し訳なさそうにお辞儀しながら、カウンターの横側から熊川ヤドリに声をかける。
「ちょっと、お客さん。ちゃんと列に並んで……って、エリカやん。」
「クマちゃん久しぶり。」エリカが伊達メガネを外して手を振るとヤドリがお店のカウンターから飛び出してきてエリカに抱き着く。
「どうしたん?ここ大阪やで。」
「も~分かってるって。大阪での撮影が終わって、これから新幹線で東京に帰るんやけど、せっかく近くまで来たからクマちゃんに会い来てん。」
「ほんまに~。ほんなら中に入って待ってて、ウチが魂込めて“お好み”焼やいたるわ~。こっちこっち。」ヤドリがエリカの手を引いて店内の空いているカウンター席に案内をする。周りのお客さんは「モデルのエリカだ」、「めっちゃ綺麗」、「顔、小さー」と声が漏れ、スマホをエリカに向けて動画や写真を撮り始めるが、エリカは堂々としたもので撮られているのを気にせず目の前でお好み焼きを焼くヤドリとおしゃべりしている。
「えらいベッピンさんやな~。」と大将が言うと
「何ヘラヘラしとんねん。オトンは早うセットの肉、焼いてや。」とヤドリがツッコミを入れ、
「あんた、こんな綺麗なお嬢さんをカウンターに座らせて~。油跳ねるし、匂いも付くで。」とヤドリの母親が言うと
「匂いや雰囲気もご馳走ですから、お気遣いなく。」とエリカが笑顔で答えて好感度が一段と上がった。
「はい。ベアセットお待ち~。どや美味しいやろ?」
「まだ食べてへんって。……アチッ。」エリカがホフホフしながらお好み焼きを食べ始める。
「ははは、ヤケドせえへんようにゆっくり食べ。」
「同じ大学の同じ学部に通わせたのに、うちの子と何が違ったんやろね。」と母親が笑顔で見守り、
「ウチがおかしいんやなくて、エリカが特別なの。」とヤドリがふくれ、
「今座ってはる席を「エリカシート」って名付けて、特別チャージ料を取ったらどや。」と大将が冗談を言うと
「ええなあ、100円くらいやったらチャリンチャリン気軽に払いおるで。」とヤドリが答え
「せやけど、こんなベッピンさんやったら、席の座るとこに頬ずりする様なおっさんがおるかもしれんぞ。」
「え~、エリカの後、何人もその席に座るし、毎日掃除してるんやで。そんなキモい奴がいたら出禁にしてや。」とヤドリが笑いながら言っている。
エリカとユリエの食事が終わるとエリカが色紙にサインをして、エリカとヤドリのツーショット写真の他、大将と母親も加わった写真も撮り、この4人の写真がサインに添えられ飾られている。この来店から1ヶ月も経たない内にエリカがこの世を去るとエリカ本人もベアの皆さんも思っていなかっただろう。4人とも楽しそうな笑顔で写真に写っていた。
僕の話に戻る。「オカズ大喜利」に投稿されている妄想や、エリカが出ている雑誌の画像とエロ画像を組み合わせて誰かが加工して作ってくれたエリカの裸画像をオカズにして何度オナニーをしたか数えきれない。僕もアカウント名を「電池男」と名乗っていくつか妄想をスマホで投稿してきた。
信也達が東京ミッションから関西に戻って来た後、報告を聞かせてもらった中で「朽木エリカが実はパパ活をしていた」と教えてもらった時は驚いたが、「不潔だ」と思うよりも「僕にもエリカを抱くチャンスがあったかもしれない」という思いの方が強かった。もしも僕にもチャンスがあったら、例え一晩だけでも、全ての銀行口座のお金を掻き集めるでもエリカの言い値を支払っただろう。
僕は新情報を加えた新しい妄想を「オカズ大喜利」に投稿した。
「妄想No235031:エリカちゃんは芸能生活の隙間時間に僕が利用しているデートクラブで売春をしている。僕がデートを申し込むとエリカちゃんは30万円欲しいと言った。僕は銀行でお金を下ろしてエリカちゃんを買った。エリカちゃんは本当にセックスをさせてくれて気持ち良かった。」
「妄想No235600:僕がある朝に目を覚ますとナゼか有名プロ野球選手のIさんになっていた。その日の特番で共演した朽木エリカと収録後にホテルへ行き、セックスをした。エリカは貧乳だったが具合が良く、僕は入れるとすぐにイってしまった。3回くらいエッチした。」
しかし、僕が投稿したエリカの新しい妄想は、翌日信也がわざわざ京都から僕がいる奈良の実家に乗り込んできて削除させられた。僕はネタとして軽い気持ちで書いただけなのに「なんで東京ミッションで知った秘密を書き込むんだ?」、「「クレイジータートル」に対する信用が無くなり、最悪の場合メンバー全員が殺されるぞ」と激怒され、「アカウントのIDとパスワードを言え」と胸ぐらをつかまれ、僕がアカウントのIDとパスワードを教えると、信也自らが僕の投稿を目の前で削除した。さらに、部屋にあったノートパソコンを取り上げられ処分された。「金輪際スマホ以外で連絡や検索をするな。いいな!」、「「bug」の映像を見たり音声を聞くのも全てスマホでしろ」、「他のデバイスではアクセスできないようにしたからな」と命令された。
あんなに怒った信也を見たのは初めてだった。僕は数少ない味方であり、困った時に助けてくれる弟の信也にまで嫌われたり怒られるのは嫌なので、全て信也の指示に従い、スマホのみを「クレイジータートル」の連絡手段とし、「オカズ大喜利」では妄想を投稿するのを止めて“読み専”に戻った。
僕が投稿した妄想は全て削除されたが、「オカズ大喜利」のチャット掲示板での書き込みだけは見逃してくれた。
「電池男:エリカちゃんとセックスするのって、いくら払えば出来るのかな?」
「名無しの君:清純を売りにしているのに、そんな事するはずないだろう。」
「電池男:そうかな~。若くて可愛い風俗嬢もたくさんいるよ。それに最近「エリカ」って源氏名の嬢も増えてきた。」
「名無しの君:知らねえよ。じゃあ風俗に行け。」
「電池男:真面目そうな嬢でもお店では何万円かで裸になってエッチな事させてくれるんだぞ。エリカちゃんもさせてくれたら良いのに。」
「名無しの君:そんな話をしたら「キモい」って逃げだすと思う。」
「電池男:んふ~、エリカちゃんの言い値を払うから、エリカちゃんにギンギンのをねじ込んで、思いっきり中田氏したい。」
「名無しの君:おまえ素人童貞で、お金を払わないと女に相手にしてもらえないだろ。」
「電池男:ぐふふ。僕は普通の男よりも色々と経験豊富とだけ言っておく。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます