第39話 僕達は特別な女性を育成した。

 「ゼタバースクラブ」東京本社の速水コーディネーターはこうして朽木由梨香を言葉巧みに勧誘し、入会させることに成功した。クラブに入会した由梨香は、クラブネームを「エリカ」と名乗り仲川氏との交際を続けつつ、速水コーディネーターのアドバイスで膣トレを始めた。理由は単純に自分が大好きな仲川氏にもっと喜んでもらうためだった。由梨香は素直に、そして真面目にトレーニングに励み、時間はそれなりに必要だったが難なく締め技を習得した。

 速水コーディネーター曰く「イチかバチかの賭けだった」あの夜の仲川泪と由梨香のセックスだが、幸い由梨香が妊娠することは無かった。あの後も仲川氏と由梨香は、由梨香が3連休や飛び石連休を利用して東京へ出てくる形で交際が続いたが、二人で相談して避妊をして関係を続けることにしたようだ。仲川氏は「交際報道も無いのに急に授かり婚ではイメージが悪くなる」と建前を言い、恋で盲目になっている由梨香はそれを信じた。速水コーディネーターの本音は、由梨香さえクラブに入会させてしまえば仲川氏と由梨香に交際を続けさせるつもりも結婚させるつもりも無い。由梨香の体が余程美味しかったのか仲川氏は名残惜しそうだったが、由梨香が地元での仕事を辞めて東京に出てきた1月のタイミングで二人の関係を終わらせた。由梨香も憧れだった仲川氏との破局を悲しんだが、クラブを退会することはなく、速水コーディネーターに新しい男性会員とマッチングしてもらい東京でパパ活を続けた。もう月収20万円の田舎暮らしには戻れなかったのだ。由梨香は東京で賃貸マンションを借りて一人暮らしをし、昼間は銀行での経験を活かして、事務職、特に経理のアルバイトをして表向きの生活を繕った。


 速水コーディネーターは美人姉妹二人とも会員として獲得したが、不仲な由梨香とエリカは、互いに互いが「ゼタバースクラブ」の会員である事を知らないし、ほとんどの男性会員はもちろん一般コーディネーターもその存在を知らされていないなか、抜群のマッチング采配で由梨香の育成に成功する。速水コーディネーターは容姿が良くて出来るだけ由梨香に年齢が近い三ツ星をマッチングするように努め、由梨香もそれを喜んだ。お金とステータスだけではなく容姿と人柄、そして女性を満足させる技術を兼ね備えた男性会員を選び抜いて由梨香にマッチングした。ただ、由梨香はモデルでも芸能人でもない一般人であり、本物のエリカのように過度に秘匿する必要が無いため当初から『独占』を認めず、『定期』で数人の男性会員と並行して活動をさせた。

 その後の由梨香ことクラブネーム「エリカ」のパパ活は目覚ましく、持ち前の名器と膣トレの努力の成果もあり、マッチングした男という男をことごとく骨抜きにしていった。また、「エリカ」には本物のような処女性は無いがどこか大人びたエロティシズムがあり、受け身でなされるがままではなく自ら男性のモノを咥える積極性もあった。本物のエリカは必要最小限しか会員と接しないように『独占』で活動を続けたため、ピルによる避妊が可能だった一方、「エリカ」は『定期』で複数男性会員とほぼ週替わりで相手をする必要があり、避妊方法は自ずとコンドームになった。このため薬による性欲減退が無く、自身も気持ち良ければ興奮し性欲が盛り上がることがあった。

 速水コーディネーターは“上手い”と女性会員から評判の男性会員を「エリカ」にマッチングし、その男性会員に「「エリカ」を必ずイカせろ。さもなければ『定期』を認めない」と厳命した。しかし「ただの“そっくりさん”だろ」と軽い気持ちで食って掛かった腕利きの男性会員達は敢え無く返り討ちにあい、「エリカ」をイカせるつもりが先にイカされてしまう醜態を晒した。男達は一晩に2度3度セックスをしてやっと「エリカ」に気持ち良くなってもらうことが出来たり、中にはセックスでは先に果ててしまうのでクンニで「エリカ」を満足させなければならない男性会員もいた。 

 「エリカ」と『定期』契約を結べた男性会員達からは「本物の朽木エリカではないと分かっていても興奮した」、「言い値を払うから今晩にでも再度会いたい。できれば『独占』したい」、「一晩5回でも10回でも起つ限り何度でも抱きたい」など評判も上々で、ほぼ確実に『定期』延長や『独占』を希望し、この男性会員達が提示するお手当額もどんどん上がり、「エリカ」もあっという間に「ゼタバースクラブ」三ツ星会員に上り詰めた。


 折しも速水コーディネーター達「ゼタバースクラブ」では、「マミコ」のように異性を夢中にさせる会員の稼ぐ力の大きさを改めて思い知り、第2第3の「マミコ」を育成しようとしているところだった。マッチング相手の会員はお手当額を惜しみなく引き上げ、高額のお手当が必要でも頻繁に会いたがり、可能であれば『定期』や『独占』にすることも厭わない。この中毒性とも言えるハマりようは男性会員から女性会員でも、女性会員から男性会員でも同じである。相手が良い女なら男性会員は金に糸目を付けないし、相手が良い男なら女性会員の方が大金を支払ってでも自ら抱かれたがる。実際、クラブの方も良い相手とマッチングしてあげると会員から感謝され、会員継続や会員新規勧誘に積極的になってくれるし、会員が誠実に活動してくれることで年会費収入やマッチング手数料収入も上がる。そして『定期』や『独占』をしてくれたら、それだけで特別料金も取れるのだ。

 「ゼタバースクラブ」では、男性を確実に満足させる「マミコ」や「エリカ」のような女性会員や、女性を必ず昇天させる“あの男”のような男性会員を三ツ星より上位の五ツ星会員と位置づけ、五ツ星会員同士の交際や、五ツ星会員と三ツ星会員とのマッチングを『楽園』と呼ぶようになる。その『楽園』では、最高レベルの男女がお互いの甘美な肉体を祝福し、セックスの快楽に酔いしれ、その大きな喜びと安らぎを“忘れられない記憶”として魂に刻みこむ。最終的には「マミコ」も「エリカ」も『楽園』の天使になった。

 数年先の話になるが、結局朽木由梨香は自身の望みとおり、また速水コーディネーターの口説き文句のとおり、「ゼタバースクラブ」で知り合った男性会員と結婚し、残りの人生をお金の心配なく遊んで暮らす生活を手に入れた。お相手は、残念ながら由梨香が当初恋した仲川泪ではないが、由梨香と同じ『楽園』の天使の一人だ。申し分がないステータスや能力を持った男性であり、この男性と悲劇のモデル朽木エリカによく似た女性との結婚は大きなニュースになり、さらにそれがエリカの実の姉だと分かると、より一層祝福の声が大きくなった。


 話は戻って、由梨香が東京へ出てきて「エリカ」として本格的に活動を始めた1月頃、速水コーディネーターが恐れていた事が現実となった。本物の朽木エリカ、「マミコ」が退会したいと言い出したのだ。理由は2つあり、1つ目はクラブでの交際相手の因埜氏の会社倒産の原因が自分にもあったからだ。この件については後ほど詳しく書くが、「学費の支払いが終わって卒業できるし、モデルの収入も増えてきたから、パパは必要ないんです。それに、相手の家庭や仕事を潰してしまうなんて、もうしたくありません。」というのが「マミコ」の言い分だ。2つ目はリアルでの交際相手若狭コウジとの交際が順調に進んで結婚がチラつき始め、パパ活の後ろめたさと彼への罪悪感を今さらながら感じているのだろう。男性経験が無かったからこそ割り切った関係が出来ていたにも関わらず、恋人関係の心地良さを体験してしまったがために健気にも彼氏だけの女性でありたいと願うようになったのだ。

 こういう事態に備えて由梨香を「エリカ」として会員にしたのだが、速水コーディネーターは、本物のエリカに秘密を暴露するという脅迫と、五ツ星同士のマッチングで楽に大きく稼がせる餌と、硬軟織り交ぜて慰留し一旦は収まった。

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