第38話 僕達は特別な女を手に入れた。
信也達は就活エージェントになりすまして朽木由梨香にメールや電話でアプローチし、由梨香が次回東京に来るタイミングで面会する約束を取り付けた。約束どおり17時過ぎに由梨香が東京駅に到着すると速水コーディネーターと信也の二人で出迎え、そのままハイヤーでホテル「グランドハイマウント東京」のスイートルームに案内し、その部屋には由梨香が職場でファンと公言していた俳優の仲川泪を待機させていた。ちなみに、この俳優も「ゼタバースクラブ」のシークレット会員で、男性三ツ星ランクである。
そのままスイートルームで4人で楽しくルームサービスの食事をして、デザートとコーヒーまで取り寄せた。
「東京ってスゴイですね。私は今までこんな高かそうなホテルに入った事なかったですし、ご飯も美味しかった。」由梨香が喜んでいる。
「喜んでもらえて良かったです。朽木さんは特別な女性ですから我々も特別な待遇をさせていただきました。」速水コーディネーターが由梨香を持ち上げると、由梨香もまんざらではなさそうだ。
「それに私、何度も言いますけど泪さんのファンなんです。後で一緒に写真を撮ったり、握手やサインをしてもらってもいいですか?」
「写真は困るけど、握手やサインなら今すぐでも大丈夫だよ。」仲川氏が答えた。
「やった。」由梨香は席を立って鞄から手帳のような物を取り出し、空白のページを広げて仲川氏にサインを求めた。
「朽木さん、せっかくの機会ですから就活の話は明日にして、今日は仲川さんとゆっくりお話ししてはどうですか?」
「忙しそうなのに、お時間大丈夫なんですか?」
「ええ。せっかくですからお二人でごゆっくり。」速水コーディネーターと信也は笑顔でスッと席を立ち、部屋を出た。
スイートルームに置いておいた「bug」で音声を拾う。
「就活エージェントのお二人、本当に行ってしまいましたね。」
「由梨香さんに遠慮してくれたんだよ。きっと。」
「私が泪さんを独り占めですね。」
「独り占めして何かやってみたい事があるの?」
「あの歴史ドラマのお話を聞かせてくださいよ。泪さんが武将役で一騎打ちしていたシーン、すごくカッコよかったです。」
「本当にお話しだけでいいのかな?」
「え、…ちょっと、止めてください!……他のファンの子にもこんな事してるんですか?」
「しないよ。後で週刊誌に売られたりしたら大変だし。」
「じゃあ、どうして?」
「由梨香さんが賢い女性で、どうすれば自分にとって一番メリットがあるか分かる子だからさ。…自分で言うのもなんだけど、由梨香さん好みのイケメン俳優はお金も名声もある。もし俺とセックスをして妊娠したら、結婚して一生遊んで暮らせる。…だろ?…俺も誰でもいいわけじゃないんだ。自分を安売りするつもりはない。」
「私と…、私とだけなんですね?」
「ああ。それでも由梨香さんは握手だけでいい?」
「……」
「よかった。ベッドルームに行こう。」
「はい。」二人とも衣服を脱いだ後、ベッドに入ったのだろう無言だがキスや吸い付く音がしばらく聞こえた。
「綺麗な体だね。」
「こんな事になるって想像もしていなかったから、ムダ毛処理とか準備できていないし、シャワーも浴びてないから…。ごめんなさい。」
「急に誘ったのは俺の方だし、由梨香さんはありのままの姿でも十分綺麗だよ。」
「ありがとうございます。…なんか泪さんにジッと見つめられると恥ずかしい。」
「嬉しい、じゃなくて?」
「恥ずかしいけど嬉しいです。もー、私、何言ってるんだろ。ふふふ。」
「リビングルームでハグした時はすごい剣幕で怒ってたけど、機嫌直してくれたかな?」
「すいません。あまり経験が無いから、つい過剰反応して…。私はいつも求められるばかりで自分が好きな男性とエッチしたのって片手で数えるほどしかないんです。」
「由梨香さんの心のハードルは高そうだな。俺は越えられそう?」
「……」
「どうしたの?泣かないで。…怖い?」
「……嬉しいんです。泪さんの方は分からないけど、私は自分が好きな人とするのが久しぶりだから。」
「よかった。じゃあ二人で思い出に残るようなセックスをしよう。」
「………。」キスの音や何かを吸う音の他、由梨香の甘い喘ぎ声と肌と肌がぶつかり合う音が聞こえてきた。別室でこれを聞いていた速水コーディネーターと信也はワイングラスを掲げて乾杯したらしい。
翌朝、速水コーディネーターと信也が由梨香のいるスイートルームに入ると、由梨香は仲川泪の腕枕の中で寛いでおり、信也達に気づくと羽毛布団を手繰り寄せて裸を隠した。
「おはようございます。お二人ともすっかり打ち解けたようですね。」
「なんか恥ずかしい。」由梨香は信也達と目を合わせようとしない。
「由梨香さんはまずシャワーを浴び直したらいかがですか?」
「バスローブを着ますから、窓の方を向いててください。」由梨香はベッドから降りてバスローブを羽織って浴室へ入った。
仲川泪によると、昨晩二人は信也達が退室した後すぐにセックスして、シャワーを一人ずつ交代で浴びた後、もう一度セックスをしたようだ。2回とも生で入れて中出ししてあげると、由梨香は喜びのあまり自分の股間を覗き込んで笑っていたらしい。生でするのは初めてだったようだが人並みに男性経験はありそうで、濡れていたし感じていたのでスムーズに行為に及ぶことができた。ただ、特筆すべきはその気持ち良さだ。由梨香も“名器”だったため2回とも返り討ちに会い、由梨香をイカせる前に仲川氏が先にイってしまったようだ。「また由梨香さんを抱きたいからマッチングをお願いします」と速水コーディネーターに言い残して仲川氏は去って行った。
「あれ?泪さんは?」バスローブ姿で浴室から出てきた由梨香が髪の水分をバスタオルに吸わせながら部屋を見回し、尋ねる。
「仲川さんは仕事があるので先に出られました。でも「由梨香さんにまた会いたい」って言っていましたよ。」
「本当ですか。やった♪」
「私達は窓の方を向いてますので、どうぞ着替えながら聞いてください。」
「はい。」
「単刀直入に言います。由梨香さん、うちで働きませんか?私は「ゼタバースクラブ」というデートクラブのコーディネーターで、男女が交際するお手伝いをしています。今回由梨香さんと仲川さんのお二人を引き合わせしたのも私です。」
「デートクラブって…。」
「昨晩のお二人のように良い異性との出会いをお手伝いして、年会費等のお金をいただいております。男女の交際はお食事だけの場合もありますし、セックスでお互いを満たす場合もあります。中には結婚された方もおられますよ。」
「結婚相談所みたいな感じですか?」
「残念ですが違います。確かに結婚された方もおられますが、多くの場合は男性が女性にお金を渡して体の関係を結んでいます。」
「それって売春じゃないですか。」
「売春も少し違いますね。お互いに気に入った相手としか会う事もセックスする事もありません。…ちなみに、着替えは終わりましたか?」
「あ、すいません。もう大丈夫です。」二人は向き直って信也はリビングのソファへ座ったが、速水コーディネーターは自分の鞄から封筒を取り出しながら話しかける。
「由梨香さんと仲川さんも、誰からも強制されること無く、二人の自由意思で結ばれたのでは?」
「それはそうですけど…。」
「これが仲川さんから由梨香さんへのお手当です。中身を改めてください。」
「うそ…、何これ。こんなお金、受け取れません。」
「由梨香さんがご実家から東京まで来てくださった往復交通費10万円、予約していたホテルのキャンセル料5万円、そして今回のお手当が20万円です。」
「お手当って言われても。」
「これが朽木由梨香という女性の価値です。たった一晩で男性はあなたに30万円以上のお金を惜しみなく出すのです。しかも、今回は由梨香さんがファンだと言っていた仲川さんからですよ。昨日私達が由梨香さんを特別な女性と言ったのを覚えていますか?」
「私がどうして特別なんですか?」
「由梨香さんが美しくて、そして……。」
「そして?」
「朽木エリカによく似ているからです。」
「なんだ、そう言う事か。エリカを簡単には抱けないから、代わりに私を抱こうってことね。馬鹿にしないでください。」
「でも、これが由梨香さんが成功する最も合理的な方法ですよ。ハイスペックな男性と交際できて、多額のお手当を貰えて、うまくいけばその男性と結婚して一生楽できる。当クラブの男性会員の中には、俳優だけじゃなくてスポーツ選手、医者や弁護士、若手起業家と色々いますので、由梨香さんなら選び放題ですよ。」
「合理的って言われても。」
「実家をほったらかしにして東京に行き、我儘放題している妹を羨ましそうに指をくわえて見ているだけで良いのですか?自分も挑戦してみたいけど「長女だから」、「中の上だから」と自分に言い聞かせて我慢していたんでしょ?」
「そりゃ私だって。」
「だったら憎たらしい妹を、自分勝手に有名になった妹を由梨香さんの願望のために利用すれば良いんですよ。朽木エリカに似ている美人ってことを利用して由梨香さんが玉の輿に乗れば良いんです。」
「じゃあ、仮にですが私があなた達に付いて行ったとして、そのデートクラブって所で私は何をすれば良いんですか?」
「当クラブの女性会員になっていただいて、仲川さんと交際してもらいます。当面はそれだけです。」
「本当にそれだけ?」
「そうです。それで由梨香さんは仲川さんからお手当を貰えますし、由梨香さんは他の会員には存在すら知られないシークレット会員になっていただく予定ですので、仲川さんとお付き合いしている間は他の男性と会う必要はありません。」
「泪さんとダメになったら?」
「その時は、私が他の男性会員で良い方を見つけて差し上げますよ。由梨香さんは気に入った人とだけ会えばいい。」
「あ、でも私、昨日ので泪さんの子供を妊娠したかも。」
「それならそうで問題ありません。今後会う時も避妊をするかしないかや、結婚するかしないかもお二人でよく相談してください。私は出会いを提供するだけですから。」
「そう…。そこまで言ってくれるなら妊娠したか確かめるまでの間、入会してみようかな…。」
「では、クラブに移動してから手続きをしましょう。」
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