第25話 僕は決心を固めた。
25歳の冬。決心を固めたのは、ほんの些細なきっかけだった。
休みの日に「ジャオンモール」で買い物をしていると、僕が高校時代に想いを寄せていた1組の鶴見菫さんが、小さな赤ちゃんを抱っこした男性と3人で楽しそうに買い物しているのを見かけた。僕達が高校を卒業してから7年くらい経ち、お互い25歳なのだから何も不思議ではないのだが、高校時代に憧れ、今でも時々卒業アルバムを開いてオカズにしている鶴見さんが結婚して子供がいる事にショックを受けた。僕の方は未だに結婚どころか、いつか出来ると思っていた彼女すら出来る気配がなく風俗店で遊んでいるというのに、鶴見さんはもう家庭を持って幸せそうに暮らしている。枯林さんや弾地さんのように貞操観念が低いバカ達だけではなく、品行方正な1組女子や職場の真面目そうな同期の中にも結婚している人が増えてきた中、僕だけ時間が止まって取り残されたかのような現実の差がそこにはあった。鶴見さんに限らず子供を連れた女性を見ると、こんな可愛い女性が無防備に男性から生中出しされたのか。こんなに大人しそうな女性が騎乗位でセックスしているかもしれないと、その女性のイク顔や喘ぎ声を想像し、その生々しさに興奮する。もちろん想像の中で相手をする男性は僕だ。
鶴見さんの相手の男性が物凄くイケメンとかハイスペックなら多少諦めもつくが、普通の男性だった。相手はこちらに気が付いていないようなので、こちらから話しかけなかったが、後日信也に調べてもらったところ、鶴見さんは京都の大学に進学後、東京の会社に就職し、そこで出会ったあの男性と交際の末、結婚。子供を授かって、たまたま里帰りで奈良の実家に来ていたのを僕が見かけたという事が分かった。相手の男性は「ナラカン」よりは賢いが普通レベルの大学卒で、商社勤めや士業のように高年収でもない普通のおっとりしたサラリーマンだ。つまり、僕でも鶴見さんに手が届いたかもしれないのだ。鶴見さんと僕が高校卒業後に例えば関鉄電車の車内や駅、「ジャオンモール」等で再会し、鶴見さんが勇気をもって僕に思いを伝えてくれていたら、たぶん処女だった鶴見さんを妊娠させたのは僕だったかもしれない。鶴見さんの隣で子を抱っこしていたのは僕になっていたかもしれないのだ。そう思うと運が悪かったし、あの男性に鶴見さんを横取りされた気持ちさえする。
高校時代から憧れていた鶴見さんは結婚して出産し、名実共に僕が知っている“鶴見さん”ではなくなっている。僕は単純に彼女が出来なくてチャンスが無かったのもあるが、後生大事に童貞を守ってきた事が馬鹿馬鹿しくなり、また風俗店を頼った。ソープランドに行く決心をしたのだ。
滋賀県雄琴にある高級店「フランキンセンス」というお店を以前から「シティエデン」でチェックしていたので、決心さえ固まれば行動は速い。指名しようと思っているMioちゃんを信也に「bug」と「finder」で調べてもらい、お店に突撃した。「シティエデン」によるとMioちゃんは20歳158cm、B82W58H86。この春に入店した新人だ。「bug」を使ってプロフィールから深堀すると、本名は加賀美 伊織(カガミ イオリ)で、飲食のチェーン店でアルバイトをしながら京都で一人暮らしをしている大学生という事が分かった。東京出身で、京都にある中堅レベルの私立大学に入学し、少なくとも今は彼氏がいない。高校時代はチアリーディング部に所属し、明るく活発な学生だったようだ。今もバイト先のカフェで明るく声を出して頑張っているらしい。八田叔父さんにMioちゃんが大学のキャンパスを歩いている写真を撮って見せてくれたが、ホームページの画像では手で隠されていた口元も可愛く、胸は小さめだが細身で、さすがは高級店の面接に合格しただけはある女の子だった。きっと成人式の振り袖姿も可愛いのだろう。僕はこの女で童貞を卒業すると決めた。
「フランキンセンス」に予め電話予約をして、初めての利用である事、Mioちゃんを指名したい事を伝えると、火曜日の夕方なら1番手で予約が押さえられると聞き、そのようにお願いした。
当日は有給休暇を取って、スーツ姿でお店に指定された駅に降り立った。時間どおり送迎係の方が車で迎えに来てくれてお店に着くと、老紳士と言う言葉がぴったりの店員さんが受付をしてくれて、「Mioちゃんはマットプレイ無しだがOKか?」と確認され、コース時間は100分コース、コンドームを必ず着ける事、女の子が嫌がる事は控えるなどの注意事項の説明を受けた。待合室へ通され座っているとホールスタッフの方がドリンクのオーダーを聞いてくれて、とりあえず烏龍茶をお願いし、オシャレなファッション誌やアート雑誌が並んでいる中から適当に雑誌を取って目を通していると、グラスの烏龍茶がほとんど減らない内に声がかかった。階段下に移動するとMioちゃんが現れ、2階の個室に一緒に入った。店内は白色を基調としたモダンなデザインで高級感のある装飾だった。
Mioちゃんは僕にドリンクを勧めた後、天気の話や最近食べたスイーツの話など当たり障りがない話をしながら要領よくお風呂場の準備をしてくれた。その後、僕がスーツを脱ぐのを手伝ってくれて、僕を裸にしてからMioちゃんも裸になって僕の体を洗ってくれた。Mioちゃんが普通に手で泡立てて体を撫でてくれるだけではなく、Mioちゃん自身の身体に泡を付けて僕の身体と密着させて擦り合わせるように洗ってくれた。Mioちゃんは細身なので肉付きが良いとは言えないが、柔らかくてスベスベして気持ち良かった。僕はシャワーで流してもらった後、Mioちゃんが身体を洗っている間に歯磨きをするように言われた。
二人とも身体を洗い終わった後は二人でゆったり湯船に浸かった。僕が足を開いて座り、その間にMioちゃんが入って僕にもたれかかるようにして座っている。口下手な僕を気遣ってくれているのか天然なのか分からないが、Mioちゃんは色々お話ししてくれて、明るくて元気な子だというのが分かった。「オーセンティック」や「Gmen1919」で遊んだ時のように僕に女性経験が無いのはすぐにバレてしまうだろうから自分からカミングアウトした。
「Mioちゃん、ベッドに行く前に1つだけいい?」
「はい。何かやってみたいプレイとかありますか?」
「いや、そうじゃなくて。…実は僕初めてなんです。」
「そうなんですね。私、責任重大じゃないですか。」Mioちゃんは少し真剣な表情になった。
「すいません。」
「いえいえ、たぶんイクヤさんと私は同い年くらいでしょ?まだまだこれからですよ。今は私を女友達や彼女だと思って普通に接してくれたらいいですよ。」と笑顔に戻った。
「はい。」と答えたものの既に僕は社会人3年目なので年齢は5つも上だ。Mioちゃんから見た僕は実年齢より幼く見えて、二十歳くらいに思われたのだろう。それなら童貞でもおかしくない。しかし「女友達や彼女だと思って」と言われても、今までそんな人がいなかった僕はどうすれば良いのか分からないのは困った。湯船から出た後、「よーし、頑張ろう」とMioちゃんは僕を励ましながらバスタオルで丁寧に身体を拭いてくれた。
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