第22話 僕達は組織を立ち上げた。
酷本さんのデジカメを盗み、苦道さんを消し、泡知さんを破局させる作業を通じて僕達は仲間になった。信也と多見子さんは頭が良くて調べものが上手だし、青くんと白くんは武闘派な上、鍵開けなど変わった特技を持っている。そして僕は「figure」で活動に必要なお金を稼ぐことができる。僕の復讐がきっかけで人が結びついたのだ。
僕が25歳になる年。信也と多見子さんも同士館大学理工学部を卒業し、信也はそのまま大学院へ進み、多見子さんは通信会社へ就職した。多見子さんは大学4年間を通じて「よろず屋八田」でバイトをしていたが、調査依頼がひっきりなしにあるわけではなく暇だったので、就職が決まった後、4年生の秋頃にネットで別の仕事依頼を受け付けるようになった。もちろん「よろず屋八田」には正規のホームページがあって普通に依頼を受け付けているのだが、多見子さんは正規のページとは別に困り事対応の依頼を受け付けるサイトを作り上げた。「あの男に復讐したい」、「あの女を懲らしめてやりたい」、「あの迷惑な人にどこか行ってほしい」など、怒りや恨み、嫉妬等に基づいた少しヤバイ系の仕事だ。多見子さんは「イクヤさんのリベンジが成功しているし、私達の力で色々とチャレンジしてみましょうよ」と言い、信也も「戦争や争い事が技術や能力が向上する一番のきっかけになるから面白かもね。」とあっさりと同意し、僕の復讐だけではなく第三者からの依頼に応じて警察や弁護士等では扱いにくい仕事を請け負うことになった。
多見子さんが依頼を受けるのに立ち上げたサイトは「クレイジータートル」と名付けられた。ネーミングは、普段は大人しいのに怒りや嫉妬に狂った男性、有尾イクヤから着想を得たらしい。つまり僕だ。多見子さんによると「「マッドモンキーズ」とかも考えたけど、普段静かでじっと我慢しているところとか、イジメ画像の中で亀頭から精液を垂らしていたイクヤさんの姿が強く印象に残っていたから「クレイジータートル」にした」らしい。笑いながら言っていた。
「クレイジータートル」の初期の活動で印象的だったのは、騒音バイクの退治だった。田舎“あるある”だが、夜中や明け方など善良な市民が寝静まっている時にわざわざ改造バイクで爆音をあげながら走り回る迷惑な連中がいる。この連中を黙らせてくれというのが今回の依頼で、乳幼児を育てる母親からの切実な願いだった。
依頼現場は僕が住んでいる所からはかなり離れた住宅地で、まず実態を確かめると毎晩のように特定のバイク3~6台のクループが走っている。この連中がどこからどこへ走っているのか、信也と多見子さんで防犯カメラにハッキング等してある程度把握し、間が抜けている所や起点は青くんと白くんがバイクや車で尾行する等して突き止めた。連中はわざわざ依頼現場から離れた隣町から走って来て、依頼主の住宅街を抜けた先にある駐車場が広いコンビニエンスストアを“たまり場”にして遊び、明け方また同じ道を隣町に帰って行くという事が分かった。バイク連中は6人いて、その中の3~6人が入れ替わりや全員で走っている。それぞれのバイクも起点となるそれぞれの家も把握済で、6人の内3人は戸建て住宅に親と住んでいて、残り2人は県営団地に同じく親と住み、あと1名はアパートに一人暮らしだ。そして、その中のリーダー格が、あの汚黒くんだった。このバイク退治は汚黒くんへの復讐にもなる。
「本当にサルみたいな連中ね。毎日同じ事ばかりして飽きないのかな。」と多見子さんの疑問に
「馬鹿って単純で安直だからね。」と信也が答えた。
「でもまあ、自分達の近所じゃなくて隣町で騒ぐってくらいの知恵はあるようだぜ。」
「知恵と言うか、ただのビビリじゃねえか。」青くんと白くんも呆れている。
「どうやって連中を止めるの?」と僕が聞くと
「僕達が安全で一番楽なのは、彼らのバイクを走れなくする事かな。」と信也が腹案を説明してくれた。バイク連中の内、現れる頻度が多い戸建て住宅住まいの汚黒くんのバイクと、その舎弟のような団地住みのバイクを手始めに破壊することとし、戸建て住宅のバイクの方は単純にその場で燃やしてしまい、団地のバイクは駐輪場から盗んで別の場所に放棄することにした。これで自分達が攻撃されていると気づいて自重すれば良し、まだ迷惑行為を続けるなら他の4人の中からもう1~2人ずつバイクを破壊していく。
「同日にやればさすがに気づくだろう」と信也と白くんが汚黒くんのバイクを破壊、青くんと僕が舎弟のバイクを盗むことになった。
僕と青くんの方は簡単だった。23時過ぎに団地の駐輪場に行き、たくさんの自転車やバイクが止まっている中からターゲットのバイクを見つけて盗み出す。ターゲットのバイクにはナンバー式のチェーンロックがかけられていたが、僕がナンバーロックを解除し、それを二人で軽トラックの荷台に載せてシートで隠し、持ち出して終わりだった。青くんは「なんでイクヤはすぐにロックを解除できたんだよ?」と不思議そうだったが「信也に番号を聞いておいた」と嘘を答えた。「figure」は信也と爺ちゃんしか知らないし、「他の人には言わない方が良い」と信也に口止めされている。ちなみにこのバイクは、そのまま二人で県南部の山間部へ行き、道路から崖下に落として放棄した。軽トラを運転してくれた青くんは、わざわざ時間をかけて和歌山、大阪回りで奈良に帰ってくるという念の入れようだった。
汚黒くんのバイクは、住宅の庭続きにある駐車場に車や自転車と一緒に止めてある。こちらも23時過ぎに道路に面した駐車場に信也と白くんが入り、白くんが鏨と金槌でバイクの燃料タンクに穴をあけてガソリンを漏らし、信也はバイク全体に火が回るように掛け布団のシーツの様な大きな布をバイクに覆いかけた後、アロマキャンドルのような平たい蝋燭を使って時間差で火が着くように仕掛けて立ち去ったようだ。数分後、バイクのガソリンに火が着いたのだろう、オレンジ色の炎がバックミラーで見えたのを確認して現場から車で走り去ったらしい。炎はバイクだけではなく自家用車やカーポートの屋根も燃やし、家屋の一部壁にも延焼したようだ。
汚黒くん達バイク連中のその後だが、こういう連中は散々人に迷惑をかけるくせに自分達が損害を被ると被害者面をして異様に騒ぎ立てる。他者の苦しみは無視したり無関心なのに、自分の苦しみや被害は他者に責任を押し付け、報復や攻撃を正当化するのだ。「やった奴は誰だ?」と近隣を探し回り、どの面下げてかは知らないが警察に被害届を出す事さえしたようだ。しかし、騒音で同じく迷惑をしていた近隣住民が協力的なはずがなく、警察の皆さんも迷惑バイクが2台無くなった事に関心は低かった。これでバイク連中は依頼主の住宅街へ走るバイクも気力も無くなり、ついに汚黒くんは一家丸ごとよその街へ転居することになり、依頼主は騒音に悩まされることは無くなった。
この後も「クレイジータートル」としていくつか依頼を受けたが、深刻な依頼が絶えなかったので、多見子さんは就職してからも副業的に活動を続けることになった。もちろん勤めている通信会社には内緒である。
「よろず屋八田」の八田叔父さんは「福岡の油津さんからお預かりしているのに、危ない事をしたらダメだよ」とたしなめるが、多見子さんは「「クレイジータートル」としての活動が楽しいし、心配なら叔父さんも手伝ってよ」と逆に仲間に引き入れてしまった。こうして八田叔父さんこと、八田邦麿さんも「クレイジータートル」の一員になった。
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