第20話 僕は会社にメールを送信した。

 僕の就職が決まった22歳の年の新年、あとは卒業式を待つだけの頃、バカ達の内もう一人に復讐をした。ターゲットは泡知悦子さんだ。

 苦道さんが世間的には失踪して、高校時代の友達やその親同士が連絡を取り合い続けている中、枯林さんが高校卒業後すぐに“授かり婚”をして既に女の子がいる事、弾地さんがバイト先で知り合った年上男性と結婚している事など近況が伝わってきた。

そして最近になってから、高校卒業後に兵庫県の企業へ就職していた泡知さんが結婚したという情報が広がった。泡知さんは「こんな時にゴメンね」と言いながらも嬉しそうにペラペラしゃべり、お相手は同じ会社の割とイケメンで2年間の社内恋愛の末プロポーズを受けたという事を人づてに聞いた。僕を馬鹿にして笑い、恥ずかしい命令をし、暴力も振るった泡知さん。中でも僕が最も嫌なのは、泡知さんが初めて僕のチンチンを抜いてくれた女性で、一生モノのトラウマを植え付けたことだ。今でもオナニーをしているとニキビ面のアンパンマンの顔が思い浮かぶ時がある。そんな奴が結婚して幸せになろうとしているのが許せない。


 信也と青くんに相談すると「そろそろもう一人くらい続きをやろうぜ」と言ってくれて復讐手段を一緒に考えてくれた。信也は多見子さんも呼んで相談に加わってもらった。多見子さんは事情を知らないので僕の過去を説明し、イジメの証拠として恥ずかしい画像も見てもらった。多見子さんは、僕の裸や自慰行為を「気持ち悪い」と嫌がるかと思ったが淡々と画像を確認していた。きっともう信也と大人の関係になっているのだ。4人で話し合った結果、まさにこの泡知さんが僕をイジメている画像を新郎の男性に見せて、早期離婚を考えてもらおうという案になった。多見子さんのアイデアだった。

 まず、泡知さんが僕のチンチンを抜いた後に亀頭から精液垂らしている僕と二人で肩を組んで写っている画像、四つん這いの僕のチンチンに泡知さんが紺ソックスを被せて笑いながら抜いている画像、全裸で四つん這いになっている僕の背中に泡知さんが乗って僕の頭を叩いている画像など、なるべく他の人が写っていない泡知さんが僕をイジメていた証拠になる画像を数点ピックアップして、僕の顔にだけモザイク加工をした(つまり制服姿の泡知さんや、僕の裸やチンチンはそのままだ。)。そして、これらの画像を添付したメールを泡知さんが勤務する会社のホームページの問合せ先メールアドレスに送信した。僕はよく分からないが、多見子さんは足がつかないようにロシアやルーマニア等のサーバーを経由して、メールを送ったらしい。


 効果覿面だった。詳しい経過は知らないが実態はこうだ。

 会社の問合せ先に届いたメールを確認した社員は、メール本文の「泡知悦子の過去。夫の男性にも教えてあげてください。 酷本早紀」というメッセージと添付されていた画像に驚き、泡知さんに事実確認を迫った。泡知さん本人も「なんで?」と狼狽したが、画像に鮮明に自分が写っているので否定できず渋々認める。会社では社員のハラスメント案件として社内上層部まで情報が上がり、その過程で夫の男性にも情報が伝わった。夫は添付画像を見て愕然とし、即刻協議離婚を決め、別れを告げた。

 「そりゃあ自分が結婚した女が、過去とは言えイジメをしていたら引くでしょ。」

 「イジメをしていただけでも幻滅だが、男に性的な事を強要していたと思われる画像があったのが夫としては一番キツイよね。」

 「こんな奴を雇用しているって社外に知られたら会社やサッカーチームの評判にも傷がつく。」

 と社内では泡知さんよりも夫の方へ同情的だった。泡知さんは離婚して捨てられただけでなく、会社も会社のサッカーチームでも居場所がなくなり、1ヶ月もしない内に会社も退職することなる。


 後日、泡知さんが酷本さんのお店に突然乗り込み難詰する。

 「酷本、なんであんなヒドイ事したの?私が何かした?」

 「ヒドイ事って何よ?」

 「あんた私の会社に単三をイジメてた時の画像を送ったでしょうが。そのせいで離婚!会社もクビになったわ。」

 「私はそんなことしてないわよ。」

 「あんたの名前でメールが届いたし、あの画像はあんたしか持ってないんだから、とぼけないで。」

 「実はあれ、カメラごと無くなったの。私も今どこの誰が持っているか知らない。」

 「嘘でしょ?いつ無くなったのよ。」

 「はっきりとは分からないけど、たぶん苦道さんがいなくなった頃。」

 「なんで無くなってすぐに探さないのよ?」

 「1回だけ単三を脅すのに「ジャオンモール」へ持って行ったけど、それ以外は外に持ち出してないし、家中探したけど見つからなかったの。」

 「そんな馬鹿な話を信じると思う?」

 「あのね、それだけじゃないの。カメラの画像を念のために家のパソコンにもコピーして保存しておいたんだけど、それも消えてたのよ。絶対、誰かが盗んだんだと思う。」

 「誰がそんな事するのよ?苦道?それとも単三?」

 「分からない。でも単三は「何も知らない」って言っていたし、そんな大胆な事できる奴じゃないでしょ。」

 「じゃあ苦道がカメラを持ってどっか行って、気まぐれに私の会社にメールしたって言いたいの?」

 「だから私も分からないんだって。」

 「分からない、分からないって、こんな目に合わされて、それじゃ済まないからね。」

 「でもどうしよう。私や他のレギュラーも同じように何かされるかもしれないんでしょ。怖いよ。」

 「ふん、他のみんなも苦しめば良いわ。とにかく酷本はカメラを早く見つけて画像を処分してよね。」

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