第19話 僕は就職が決まった。
僕は22歳、大学4年生になり大学生活も終わりが近づいている。3年生の頃から周りが就職活動を始め、僕も何かしなければと思ったが何をしたら良いのか分からない。大学のキャリアセンターのような所で相談をしたが、とにかく「内定を貰えるまで説明会に行って、エントリーして、面接を受け続けろ」と言うだけだ。折しも、日本企業は業績が悪化して事業の縮小、円高を嫌って生産拠点の海外シフト、日経平均株価の低迷など雇用環境が悪い。さらに、大学フィルターというものが本当にあるのか、我らがナラカンには企業から積極的な接触がほとんど無く、学生の方から企業等へアプローチする必要があった。国道沿いにある「紳士服アオハル」で就活スーツセットを購入して合同説明会等に足を運ぶが、会場に学生が溢れ返っているのに採用は各社とも「若干名」と聞かされると、到底僕の様な人間が採用してもらえると思えなかった。
「公務員試験を受けてみたら?」と言ってくれたのは信也だ。大学のキャリアセンターでは公務員なんて言葉は一言も出なかったし、両親も「いくら大卒でも、さすがに無理なんじゃないか」と否定的だったが、信也は僕が「figure」を使えることを知っている。信也にパソコンで調べてもらうと、自治体によって試験形式や配点が少し異なるが、基本的に筆記試験は五択のマークシート形式で、別途論述試験と面接もあるけど筆記で高い点を取れば採用される可能性があると言ってくれた。僕はマークシートの筆記試験の配点が県内で一番高い大和中央市役所の採用試験を受けてみることにした。
採用試験の結果は見事に合格である。マークシート方式の筆記は「figure」のおかげでスラスラと解けたし、論述試験はどんなテーマでも「市職員の一員として市民の皆様ために頑張ります」とか適当に“公僕”アピールを書いておけば良いんだよと信也が入れ知恵してくれたので、拙い論述の後、信也の言葉で締めくくった。
二次試験の面接に向けては、信也だけではなく多見子さんも協力してくれて、頭が悪いなりに志望動機の説明や、入庁したらやりたい仕事、想定問答等を予め備えて試験に臨んだ結果、どもったり、練習してきた答えが頭から抜けた場面もあったが何とか合格できた。
こうして勉強もせず、能力も低く、やる気も無い、クズ公務員が誕生することになる。親は仲が良い親戚中に電話して自慢と喜びを伝え、大学のキャリアセンターも「ナラカンにとっては数年に一度の快挙」と喜んでくれた。
僕は就職先の心配が無くなった4年生の夏以降も卒業まで「信秀書店」でアルバイトを続けた。振り返れば、ここでバイトと称して膨大なエロビデオやDVDを見ることができて未経験者の僕でもセックスの具体的なイメージが膨らんだし、あまり上達していないが実際に風俗店でテクを試すこともできた。
商品の中では、やはり企画物が面白かった。ナンパ、いたずら、フェチと色々な企画が工夫されていたが幼児体型の女優が出ていると一番興奮した。前にも書いたとおり、僕にとってはいくら出演者が美人でも、経験豊富な“公衆便所”では魅力が低下し興醒めしてしまう。AV女優なのだから“まっさら”という事はないだろうが、顔が可愛く、背が低くい幼児体型で、例え演技だとしても裸になるのを恥ずかしがり、チンチンを恐る恐る触り、セックスで痛がるのを見ると愛おしく思えた。バカ達のような性に奔放で暴力的ではなく、何も知らない女の子達は優しい僕を慕い、教えを請い、例え恥ずかしい事でも僕が言う事を聞いてくれる。僕が色々と教えてあげると恥ずかしそうに頷き、僕で初めて男を知るのだ。こういう妄想で楽しんでいる内に女性に処女性や清純さを求めるようになった。そして僕は、いつか可愛いくて清楚で心優しい、処女と結婚すると心に決めた。恥ずかしながら今でも高校時代の鶴見菫さんを思い出してオナニーをすることもある。
「KAZURAYA」のようなレンタルショップがたくさんあるのに、「信秀書店」に来る中高年の中には未だにVHSビデオを買って行く人がいたし、サンプル動画DVD付のエロ本もよく売れたが、やはりDVDやブルーレイを買ってくれるお客さんが一番多かった。パソコンが一般家庭にも普及し、誰もが気軽にインターネットで検索してサイトを見るようになっても来客数が減る気配はまだ無かった。
「イクヤくん就職が決まったんだって?」冬の夜に岩室叔父さんと店番をしている時の会話だ。
「はい。大和中央市役所で公務員です。」
「すごいじゃないか。青や白も見習せたいよ。」
「青くんも白くんも、もう働いているじゃないですか。それにいざとなれば信秀書店もあるし。」
「ははは。いくら不況になってもオナニー止めたりセックス止めたりは簡単に出来へんし、女にモテない男が必ず一定数おるから、そういう人らがおる限りうちは大丈夫か。」岩室叔父さんはご機嫌だ。
「僕もお店の商品にかなりお世話になりました。」
「イクヤくんも好っきやなあ。風俗遊びもしてるんやって?」
「え。」僕は思わず答えに詰まった。
「男同士の秘密や。有尾さんとこには言うてへんから安心し。」
「青くんに教えてもらってから、ちょくちょくと。」
「あっちも男の本能みたいなもんやから儲かっとるやろうなあ。イクヤくんもだいぶ貢献しとるんちゃうか?」
「本当にちょくちょくですから。」
「そうか。でも、イクヤくんが就職してうちを辞めちゃったら、また別のバイト探さなあかんな。またアダルトを嫌がらへん子が来てくれたらええけど。」こう話していた岩室叔父さんだが、時代は流れていきDVD等のような円盤ではなくアダルトコンテンツがパソコンやスマホでダウンロードできるようになって信秀書店のようなお店は役割を終える日が来る。この時点からまだ数年先の話しだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます