第12話 僕はチカラを確かめた。

 僕が20歳を超え、弟の信也も無事に志望校に合格してから僕の人生はまたもう少し開ける。信也は小さい頃からロボットのプラモデル作りが好きで、小学生の頃の夢は「将来、本物の人型ロボットを作る」だった。元々頭が良くて手先が器用で、プラモデルも数多く組み立てて部屋に飾ってある。信也は関西私立大学の理工系では最上位のひとつ同士館大学理工学部を受験し、見事に合格した。「figure」のおかげでナラカンに滑り込めた僕とは大違いである。

 人生が開けたのは、信也が大学合格して少し暇を持て余すようになってから「兄ちゃんが爺ちゃんから引き継いだ特殊能力の検証をしてみようよ」と言ってくれた事がきっかけだ。爺ちゃんからは「何か困った時に数字が思いつく」、「年に数回しか使えない制限がある」としか説明を受けていないし、今まで実際に技を使えたのはナラカン入試の1回のみで、何かしらチカラを得られたのだが実態が分からない。問題の回答が浮かび上がって見えて、その通りマークしたら入試に合格できたが、これも午前中のみで午後の試験中は不思議な現象が起こらなかったなど、自分が分かっている事や体験を信也に伝えた。

 「数字が無条件に思いつくと言うよりも、いくつか選択肢がある中から正しい数字が分かるようだね。あとは、時間制限や回数制限が有るのか…。」と信也は考え始めた。

 「そうみたい。」

 「兄ちゃん数字選択式宝くじって知ってる?」

 「あのテレビCMでやってるやつ?」

 「そうそう。お兄ちゃんが言っている事が本当なら、もしかしたら当たるんじゃない?」

 「なるほど。数字を選んでマークするのは同じだもんね。」

 「入試の時が4択だったんだし、とりあえず数字を4つ選ぶやつで月1回くらい買ってみてよ。」

 こうして信也に手伝ってもらいながら特殊能力の成立条件や利用制限等を調べ始めることにした。まずは「年に数回しか使えない」という制限が有るらしいので、毎月1回その月の初旬に宝くじ売り場で数字選択式宝くじを購入し、シートにマークしてやってみた。約2ヶ月間、数字が浮かび上がる現象が無かったのでハズレが続いたが、一口200円なので気長に実験を続けるつもりだった。


 変化が現れたのは5月の購入時だった。いつもと同じように売り場でシートを受け取り、4つ数字を選ぶのだが、この時④⑧⑨①の数字が浮かび上がって見えた。ナラカン入試の時と同じである。素直に浮かび上がった数字をマークし1口購入した。売場を離れてから携帯電話で「今月は不思議な現象が起こったよ」と信也に報告すると、「兄ちゃん、急いで他の売り場で他のくじもやってみて」と言われて駅から離れたスーパーにある宝くじ売り場で3つの数字を選ぶくじを試してみたが、数字は浮かび上がらず適当に数字をマークした。後日当選数字を確認すると、4つ数字を選ぶ方は数字も並びの順番もぴったり当たっていて、当選金約80万円を手に入れることが出来た。数字3つの方はハズレだった。信也は「兄ちゃんスゴイやん。これ使えるで」と喜んでくれて、「もっと正確に特殊能力の条件を知りたい」と数字選択式宝くじを買い続けて検証を続けた。僕が大学を卒業するまでの検証で分かった事は以下のとおりだ。信也は「多くの事物に埋もれている中から正しい解となる文字や数字等を選び出す、解き明かす。まさに「figure out」だね。僕達の間ではこの特殊能力を「figure」と呼ぼう」と言ってくれた。


<検証結果>

Ⅰ:いくつか選択肢がある中で正解や当選など好ましい文字が浮かび上がる。選択肢の数は4つでも40個でも、おそらく数に限りは無いが、漠然と何も選択肢がない中では現れない。

Ⅱ:選択肢は数字に限らず文字や記号でも良い。例えば外国語のように使用者が文字や記号の意味や内容を理解できなくても発現する。また、浮かび上がる文字数は、6ケタでも12ケタでもおそらく数に限りが無い。

Ⅲ:何か予め問題やプログラム設定があって、現在または直近の正解や当選など好ましい文字を選び出すチカラであり、選択肢が確定していない、例えば3年後の菊花賞3連単など遠い未来の選択肢を選ぶことは出来ない。

Ⅳ:一度「figure」が発現するとしばらく使えなくなる。この“一度”は使用者が宝くじや入学試験など1つの出来事を指定して決めることができる。できるだけ大きな出来事を意識して使えば効率が良い。ただし、一度に連続して使えるのは4時間程度。

Ⅴ:一度「figure」が発現すると、それを取り消して別の何かへ変更することは出来ない。また、一時停止して別の事をした後で再開することもできない。一度発現したら途切れたり、連続した時間が経過するとそれで終了となる。

Ⅵ:使用者が選んだ文字等を使用者以外の者が使っても有効である。例えば、イクヤが数字を選び、信也が宝くじを購入しても当選する。

Ⅶ:一度「figure」を使った後に再度使えるようになるには次の奇数月、おそらく端午、重陽などの節句を超える必要がある(理由は11月を過ぎても特殊能力が使えなかったから。)。従って、最大でも年5回しか使えない。

Ⅷ:仮に次の節句を過ぎるまで「figure」を使わなかったとしてもチカラは繰り越されない。チカラを貯めることは出来ず、連続して2回以上使うことは出来ない。


 検証を通じて宝くじや競馬等で得た当選金は、信也にも半分程度分け与え、この先も僕が「figure」で得たお金は信也にも渡すようにした。僕一人では検証の条件設定を考えたり、結果からチカラを分析する事ができなかっただろう。それに信也自ら検証に参加したり、「何度も同じ人物が当選するとイカサマを疑われるから」と当選金の受け取りを代わりにやってくれたりもした。信也はこのお金を「ありがたく受け取っておくよ」と素直に受け取ってくれ、先々信也はこの資金を使って僕や組織のために色々と便利な機器を作ってくれることになる。

 一方僕は、このお金を風俗に使った。きっかけは単純に青龍くんに勧められたからだ。「信秀書店」のバイトで夜一緒に店番をした時に「イクヤがバイトしてくれるようになったおかげで俺達は助かっている」、「トレーニングや友達と遊ぶ時間が増えた」と感謝してくれた。その流れで青龍くんは「この前ホテヘルで遊んだら、すごい巨乳の子がいたぞ~」と思い出し笑いして、僕が「風俗に行った事が無い」と言うと、「一回行ってみろよ。ビデオよりも生身の女で遊んだ方が面白いって」と勧めてくれた。青龍くんは、わざわざ風俗雑誌「シティエデン」のページをめくって自分が行ったお店や遊んだ子まで教えてくれた。繰り返しになるが、当時まだスマートフォンは普及しておらず、我が家にも信秀書店にもパソコンが無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る