第9話 僕は思わず笑ってしまった。

 18歳の夏。女子サッカー部は県大会準決勝で敗退した。弾地さんの足のコンディションが悪く試合にフル出場できなかったのと、その本調子ではない弾地さんへ激しいタックルやスライディングを繰り返してくる相手チームに苦道さんがブチ切れて相手選手へ暴行し、レッドカードを受けたことが原因だ。一人少ない状況で、かつ抜けたのが司令塔のキャプテンだ。いくら強豪校と言われていても試合にならない。次の3位決定戦も控えメンバーで態勢を立て直したが惜敗。全国優勝どころか県大会ノータイトルで県立国栖国際高校は早々に姿を消す事になった。

 僕にとっては“飯ウマ”である。これを教室で聞いた時、思わず笑みがこぼれ「ざまみろ」と思った。バカ達が偉そうなのは全国レベルの強豪チームだからであって、何の結果も残せず負けてしまっては、その辺の学校部活と変わらない。先生達や学校ぐるみのフォローも無くなり、これでバカ達は大人しくなると思った。しかし僕にとって結果は逆だった。バカ達の言い分では、弾地さんの足を怪我させたのが僕だから「単三のせいだ」、「単三が悪い」となったのだ。バカ達の僕へのイジメは続き、さらに他の生徒へ八つ当たりもするようになった。


 放課後、教室でバカ達に捕まる。バカ達は試合に負けて気が抜けたのか毎日部活に出るのではなく、サボるようになったのだ。何か目的があってサボるのではない。つまらないおしゃべりか、男遊びするか、僕をイジメるくらいだ。

 「吹奏楽部の奴らプオプオうるせぇなあ。」

 「なんでわざわざうちのクラスの真下で練習するかな~?」酷本さんが窓から下をのぞきながらボソっと言う。

 「単三、窓から射精しろよ。」と苦道さんが言いだす。

 「いや、ヤバイですって。勘弁してください。」

 「なんで~?椅子を窓際に持って行って、椅子に立てば窓から出せるやん。」

 「外から見ている人がいたらどうするんですか?」

 「ええ?校舎をずっと見てる奴なんていねぇよ。」

 「本当に無理ですから。」と手をクロスして×印を作り断った。

 「何やねんその態度は、おちょくってるんか?窓から精子飛ばすか、お前が飛ぶかどうすんねん。」と苦道さんが激昂する。

 「すいません。怒らないで…」と何とか宥めた。

 「こいつの小さくて射程距離も短いから届かないかもしれないけど、椅子に座ってやって、最後だけ外に飛ばせばいいんじゃない?」と枯林さんが助け舟を出してくれる。

 「じゃあ、もうそれでいいよ。さっさとやって。」

 自分から命令しておいて「適当だなぁ」と言いたいところだが我慢した。下にいる生徒からバレないように窓から下をチラっと見ると、確かに女子生徒2人が何という楽器か知らないが吹いている。枯林さんが言ったとおり窓際の椅子に座ってズボンを膝まで下してシコシコし始め、イキそうになってから椅子に立ち、窓から飛ばした。3階から下に放物線を描いて液体が落ちていく。バレたくないので3射飛ばした後、まだ残っている感じはあるが椅子から降りて隠れた。

 「きゃ、何か降ってきた。xxちゃんの髪にも付いたで。」

 「え?何なん取って。」

 「なんかヌメヌメした液体。」

 「え~、気持ち悪い。蝉か鳥のおしっこ?」

 「知らんよ。私、手を洗ってくる。」

 「私も行く。」

 バカ達は笑いを堪えながら下からは聞こえてくる会話を聞いていた。二人のうちの一人の髪の毛ともう一人の子は制服の袖か何かに落ちたのだろう。女子生徒は僕の精子とも知らずに手で取って「ヌメヌメしている」と言っていた。残念ながら誰なのか確認できないが、女子にぶっかけ、液体を触られ、たぶん匂いも嗅いだのではないか?そう思うと恥ずかしいが僕も少し面白かった。


 他生徒への八つ当たり、嫌がらせと言えばこんな事もあった。

 夏休み前のある日、同じクラスのある女子が授業が終わって帰宅する前に日焼け止めクリームを手や腕に塗っていた。大会が終わって部活を引退し、就職か受験か、進路をこれから考える子だ。

 「ねえ、私達これからグラウンドで部活なんだけど、嫌味?」苦道さんが同じ教室内のクリーム女子にわざわざ因縁をつけに行く。

 「え、何?」帰宅する女子は驚いている。

 「日焼け止めよ。部活続けてるウチらを馬鹿にしてるの?」

 「そんなつもりは…。」クリーム女子は「何言ってんだ、こいつ?」という目で答えた。

 「くそ。…単三、ちょっと来い。」僕は嫌な予感しかしないが言われた通りクリーム女子の所へ行ったら、案の定つまらない命令をされた。

 「おまえがこいつが腕を舐めて、日焼け止めするのを手伝ってやれよ。」

 「ちょっと、何を訳が分からない事を言ってるのよ。」とクリーム女子は怒り出し、 

 「止めておきましょうよ。」僕も反対した。

 「なんで?有尾があんたの手を舐めてくれるだけだよ。」

 「要らないわよ。近寄らないで。」

 「待ちなさいよ、ちゃんと手伝わせるから。…ほら単三、こいつの腕を舐めてやれよ。」と苦道さんはクリーム女子の肩を押さえて座らせ、僕にクリーム女子の腕を掴ませた。

 「止めて。離せよキモい。」と怒っている。僕が女子から見て不細工で気持ち悪い存在であることを利用した嫌がらせだ。

 「すいません。失礼します。」と僕は謝りながらクリーム女子の腕を手首からひじの方へ、二の腕の半袖ブラウスのギリギリまでゆっくり舐めた。

 「汚いな~。おまえプライドとか無いのかよ?死んだ方がましだな。」とクリーム女子は僕を罵り、腕を振りほどいて手を洗いに出て行った。廊下に出たクリーム女子は「くっせっ、なんやねんアイツ」、「何食ってらこんなに臭くなるねん。歯磨きしてんのか」と捨て台詞を吐いて半泣きになっている。バカ達は遠巻きに見ていたが、僕が腕を舐めたことや罵られる姿を見て笑っていた。他の女子生徒達に対しては、巻き込まれて同情はするが僕だって好きでやっているわけではない。寝る前しか歯磨きしていないのは事実だが「そんなに嫌がらなくてもいいのに…」と個人的には不愉快だった。


 僕へは酷いイジメを行い、ストレスか八つ当たりか知らないが他の生徒にも害悪をまき散らす苦道さん達。しかし、このサッカー部連中も一枚岩ではなくなる。進路の問題もあり、苦道さんのように部活をサボる方が多い奴と、泡知さんのように部活に出る方が多い奴とバラバラになってきた。どれだけ強豪校、最強メンバーと自分達で言っていても、県大会敗退、しかも順位すら付かなかったのだ。バカ達の中にはサッカーで華々しい実績を残して大学推薦や企業就職を目論んでいた奴もいただろうが、当てがハズレ僕のような運動も出来ない普通科生徒と同じ土俵で進路を考えなければならない。つまらない命令をされても「お前達も僕と一緒だ」と考えるようにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る