第4話 僕は声を出して泣いた。

 翌日、弾地さんは欠席。朝のホームルームで厚見先生は、弾地さんの欠席は僕が原因であることをわざわざ説明する。

 「今日、弾地さんは怪我で病院に行くため欠席です。昨日の放課後、有尾くんに突き飛ばされて足を怪我したようです。」クラスメイトが少しざわつき、サッカー部と仲が悪いソフトボール部員でさえ「最低ぇ」と僕を軽蔑した目で見てくる。

 そしてホームルームの最後に「有尾くんはこの後職員室に来てください。」と厚見先生に呼び出された。

 「昨日の話の後、何があったの?弾地さんに何かされたの?」

 「いいえ、教室から逃げようとしただけです。」

 「でも突き飛ばすことは無かったんじゃない?弾地さんはね、菅野先生が有尾くんの親に連絡しようとした時に「大袈裟にしないでください。遊んでいただけですから」って有尾くんを庇う様な事も言ってくれたらしいわよ。明日、弾地さんにちゃんと謝るのよ。分かった?」実情を知らない、見ようとしないクソ教師が理解ある教師っぽい雰囲気を出してやがる。謝れというなら既に土下座させられているし、サッカー部の連中から何倍もの報復を受けている。

 「でも、昨日も言いましたけど、僕はサッカー部にイジメられているんです。」

 「う~ん。苦道さん達は何もしていないっていうし、他に見た人もいないんでしょ?まあ、イジメの事は生活指導の菅野先生に相談してみたら。」

 「菅野先生はサッカー部の顧問ですよね。部員の肩を持つに決まっているじゃないですか。」

 「あれ、そうだったけ?菅野先生~。ちょっと相談で~す。」厚見先生が少し離れた所にいた菅野先生を呼んだ。先生は僕の顔を見て話の内容を察したようで、こちらに駆け寄ってきた。

 「おお有尾やないか、ちゃんと反省してるか?」この熱血教師は声が大きい。

 「反省って…、僕だってサッカー部にイジメられてるんです。」

 「そうなんか?何されてん。」

 「何度も蹴られました。」

 「ほんまかぁ?みんなでふざけてただけちゃうんか。弾地も話を大きくするなって言ってたし。ほんまにイジメが問題になったら教育委員会やら県体育協会やら報告せなあかんようなるし、結構面倒くさいんやぞ。」

 「サッカー部の子達はやってないって言っていましたし、誰も他に見た人がいないらしいですよ。」厚見先生が口をはさむ。

 「そやろ。あいつらは今、県予選で気が立ってるし、大目に見てやってくれよ、な?」と僕の肩をポンポン叩いて宥めようとする。

 「でも…。」

 「あいつらな、うちの部創設以来最強のチームって言われてて、全国優勝に向けてプレッシャーやストレスがある中、頑張ってんねん。俺からも部員に注意しとくから。」と言い残して、1限目のチャイムが鳴ると同時に二人とも何も無かったように職員室を出て行った。


 次の日、弾地さんは学校に来たが、左足をサポーターで保護し片方だけ杖をついて登校した。本人曰く「大丈夫、ただの捻挫」らしいが、その痛々しい姿を見たクラスメイトや同学年の生徒は弾地さんに同情し、僕は女子に暴力を振るって怪我をさせた悪者と見なされた。弾地さん達サッカー部に僕が何をされたか知らない連中が表面化した事実だけで判断して僕を蔑む。

 バカ達は授業中や部活時間中は普通の生徒を装い、部活終わりに牙をむく。この日は3年2組の教室ではなくサッカー部の部室に呼び出された。弾地さんを怪我させた僕にサッカー部の皆さんへ謝罪しに来いというのが呼び出し理由だ。弾地さんはもちろん、いつものメンバーだけではなく1年生2年生の部員もいる部室の前で立たされ、男女のサッカー部員が見ている前で「申し訳ありませんでした」と頭を下げて謝罪した。ここまでなら無くは無い話だが、ここからまたイジメが始まる。

 まず汚黒くんに肩を組まれ男子サッカー部の部室に連れ込まれる。プレハブ造りの部室棟に男女別にサッカー部の部室はあり、それぞれ教室の半分くらいの広さがある部屋で、更衣ロッカーや長方形の腰かけ椅子、サッカーボールや練習に使う道具類等が置いてある。ちなみに、部室棟には運動部の部室の他に男女別のシャワー室や、建物の一番奥に先生用の教員室もある。僕が男子部室に入った後、苦道さんや泡知さん等女子も入って来て、部室の端の方でいつものメンバーに囲まれる。

 「一昨日のお詫び儀式ができていないのがまだ残っているからな。えっと、あと枯林と墓野と酷本だっけ?」と苦道さんが仕切る。

 「みんなは単三に謝らせたん?」と枯林さん

 「そうやねん。土下座の後、ハイハイで脚をくぐらせてめっちゃ面白かったで。」

 「ウチらもやりたい。どんなんなん?」

 「謝りますから、痛いのはやめてください。お願いします。」とバカ達に先にお願いをする。

 「じゃあ単三、オマエに選ばせてやるよ。肉体ダメージ系か精神ダメージ系かどっちが良い?」と苦道さんが聞いてきた。

 「どういう意味ですか?」

 「痛いのが我慢できるか、恥ずかしいのが我慢できるか、どっちの方がマシかって聞いてるの。」

 「両方嫌です。」と素直に答えたら

 「おまえは悪い事をして申し訳ないっていう気持ちが無いんか?部室の前で謝ったのは嘘やったんか?」と汚黒くんが怒りだした。

 「分かりました。分かりましたから怒らないで。……じゃあ、恥ずかしい方でお願いします。」

 「OK。じゃあ枯林、墓野、酷本は縦一列にならんで、単三に三人の脚の間をハイハイでくぐらせるけど、蹴ったりは無しだよ。…で、単三は服を全部脱いで裸でハイハイな。」バカ達が楽しそうに盛り上がる。ここは部室だから急に誰かが入って来て他人に裸を見られる心配は教室よりも少ない。僕は蹴られないうちに制服と下着を脱いでハイハイを始めようとしたら「全部って言ってるだろ。靴と靴下も脱げ」と苦道さんに注意された。

 真っ裸になり、改めて枯林さんの前で土下座しハイハイを始める。枯林さんはこれまで2回、不本意ながらもオカズにした子だ。実際にどんな下着を履いているのかちょっと気になり、スカートの下を頭がくぐっている最中に視線を上げてみると枯林さんの太腿とパンティが見えた。傍から見たら僕が枯林さんのスカートに頭を突っ込んでいるように見えているかもしれない。小さくパシャという音が聞こえたのとは別に、枯林さんが僕の行動に気づき、「キャ」と言って股を閉じて僕の顔を膝蹴りした。僕がスカートから出て体を起こし、痛みで頬を擦っているとフラッシュが光り、またパシャという音がした。驚いて光った方を見ると、酷本さんが当時普及していたコンパクトデジカメで僕を撮っている。「やめてー」と言いながら酷本さんのカメラを取り上げようとしたが、また墓野くんに取り押さえられた。床に押さえつけられながら「やめてください」と涙ながらにお願いしたが、「記録用だよ、記録用。お前がまたチクったりしないようになぁ。」と苦道さんが凄む。

 僕が涙目になりながら枯林さんの所へ戻ると「枯林はもういいから、ほら、続き。」と苦道さんに言われ、墓野くんの前に正座して土下座させられた。その後、脚の間を通るためにハイハイで墓野くんの方へ進むが中々墓野くんの脚に着かない。墓野くんが僕が進むのと同じくらいのスピードで後ろに後退っているからだ。僕は全裸で四つん這いになりながら墓野くんを追いかけるが追い付けない。バカ達は笑いながら「ほら、もっと早く手足を動かせ」等とはしゃぎ、この間も酷本さんにパシャパシャ写真を撮られている。3分位してから苦道さんが「もうそのくらいにしてやり」と言ってくれて、墓野くんの脚の間をくぐり、酷本さんも普通にくぐらせてもらえた。

 やっと終わったと思い服を着ようとしたら脱いだ場所に下着も制服も無い。周りを見回しても無い。隠されたのだ。

 「僕の服は?」とバカ達に聞いてみると

 「泡知がお前の服をたたんでおいてあげるって言って、女子の部室に持って行ったぞ。」と汚黒くんが教えてくれた。確かに泡知さんが見当たらない。

 「取りに行けよ。」

 「でも裸で外に出るのはちょっと…」と僕が躊躇していると

 「おまえずっとここに居座るつもりか?」

 「すぐ隣やん。一瞬やって。」と言う汚黒くんに騙され外に出た。女子の部室前にはちょうど泡知さんがいて

 「僕の服を返してください。」と言うと

 「ああ、女子部室の中に置いといたけど、今、1年の子が着替え中だから待って。」と言われた。

 「僕、裸なんです。早く。」と女子部室の扉を開けようとすると

 「待てって言ってるだろ。女子の着替えを覗く気か?」と泡知さんに止められた。諦めてしばらく時間を置くために男子部室へ戻ろうとすると「関係者以外は立入禁止」と汚黒くんに通せんぼされ、両部室前に裸で立ち往生となった。僕は裸のまま小学生の体育座りように体を丸め、誰も味方がいないのは分かっているが助けを求めるように声を上げて泣いてしまった。しばらくして汚黒くんと墓野くんに両脇を抱えて立たされ、苦道さんに「黙れ!」と頬を強く平手打ちされた後、タオルを丸めて泣いている口を塞がれた。

 「チクったり、“外バレ”させようとするとどうなるか分かったか?」

 「…。」声を出せないので頷く

 「こっちは別にオマエの事を殺そうって訳じゃないんだから、ウチらの言う事を聞け。な?」

 「…。」また頷いて答える。

 「いちいち口答えされたり、反抗されるとイライラするんやんかぁ。絶対服従やぞ。ええな。」

 「…、…、…。」泡知さん、枯林さん、酷本さんも近くで見ている目の前で何度も頷いて忠誠を誓った。

 「じゃあ、絶対服従する事を忘れないように証拠を残しておこうか。酷本、準備いい?」

 「もちろん、今日だけでもう50枚くらい撮ってるし。」

 「ちょっと待って、単三のチンチン剥いとくわ。」と泡知さんが僕の仮性包茎チンポを指で摘まんで皮を剥いた後、晴天のグラウンドで全裸のまま捕まっている僕とバカ達の集合写真を撮られた。

 「なんでこいつは泣きながら勃起しているんだよ。」と泡知さんに笑われ、僕は恥ずかしくて内股にしたり、足で隠そうとしたが

 「バタバタ暴れるなよ。みんなに裸でグラウンドにいるのがバレるぞ~。」

 「ほら、ソフトボール部の女子がお前に気づいてこっちを見てるぞ。」とバカ達はこの日一番の大盛り上がりになり、バカ達の後輩もグラウンドに全裸でチンチンを起たせている僕を指さしてクスクス笑っている。何十人もの運動部の男女にしばらく晒し者にされた後、苦道さんが「よし、部室に入れたり。」と言ってタオルも取ってくれた。僕は自分で立ち上がって女子サッカー部の部室の扉をノックして開けると、本当に数人の女子が着替え中だった。全裸の男が扉を開けたのだ「なんやねん」、「出て行け変態」等と着替え中の女子から罵声を浴びせられたが、入ってすぐの腰かけ椅子に僕の制服がたたんで置いてあるのを見つけた。僕は白ブリーフだけその場で履いて、部室を出てから急いで残り全部身に着けた。この一部始終も酷本さんに全部写真に撮られた。

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