第3話 僕は先生を呼んだ。

 苦道さんの呼び出しで夕方に再登校するのもこれで3回目だ。3度目の正直という言葉がある。この服従も今回で最後にしよう。そもそもは僕が夜に教室でオナニーしていたのを苦道さんに見られ、弱みを握られたから命令を聞いてきたが、サッカー部のバカ達による僕への暴力や命令も非難されるべきイジメだ。もし僕の事を先生にチクるというなら、僕にだって反撃する材料がある。サッカー部は今インターハイの地区予選に向けて実戦練習をしているらしいが、僕へのいじめを問題にして対外試合に出られなくしてやる。教室へ行く前に職員室へ先に寄って、担任の先生に「すぐ教室へ来てください」とお願いした。


 3年2組の教室に入ると前回と同じバカ達が集まっていた。

 「おせーぞ。単三の分際で俺達を待たせるなよ。」

 「…。」教室の入口で立ち止まり、何も答えず憮然と無視してやった。

 「なんか言えよ。無視すんな。」

 「遅れて申し訳ありませんでしたって謝りなさいよ。」

 「オマエ何かムカつくな~。調子に乗るなよ。」汚黒くんが僕の制服を掴んで教室の中へ引っ張り入れて苦道さんの前に立たせた。

 「何なんだよ単三。言いたい事があるなら言えよ。」

 「…先生に来てもらうから。」

 「ああん?聞こえないんだけど。」

 「厚見先生がもうすぐ来てくれるから。…先生に話すから。」

 「ふーん。そんなんでウチらがビビると思ってるんや。まあええわ。」


 「いったいどうしたの?」僕が教室に連れ込まれてすぐ厚見先生がダルそうに教室へ来た。教師歴3年目の古文を受け持つこの地味で無気力なブスが僕達3年2組の担任だ。

 「僕、苦道さん達にイジメられているんです。」

 「そうなの?」先生が苦道さんへ問いかけ

 「そんなことしてませ~ん。」と苦道さんが平然と答える。

 「嘘です。今だってこうしてサッカー部の人達に呼び出されたし。この前は僕を蹴ったりもして、暴力を振るわれました。」

 「そんなことしてませ~ん。」苦道さんが同じ答えを繰り返し、周りのバカ達が笑う。

 「有尾くん、何か証拠や他に見ていた人はいないの?」

 「証拠や見ていた人がいたらオマエの方が大変だよなぁ?単三。」汚黒くんが口をはさむ。

 「ありません。僕はありませんけど…。」

 「ありませんけど何なのよ?ウチが先生に言ったろか?」

 「何か心当たりがあるの?苦道さん。」

 「私達、有尾が教室でオナニーをするから止めてって注意したんです。」

 「やめて、言わないで…」と苦道さんの方へ手を振ったが無視された。

 「オナニー」先生が顔をしかめ小声で繰り返し、聞き間違いではないかとバカ達を見回す。

 「先生、男のオナニーって分かります?」と泡知さんがバカにするように先生に聞き、

 「チンチンを自分でシゴいて射精することっすよ。」と墓野くんが手ぶりを交えながら話す。

 「私だってそのくらい分かるわよ。」恐らく年齢=処女で男性経験が無いと思われる厚見先生が顔を赤くしながら答える。

 「有尾くん本当なの?」

 「え……。」僕が答えに窮していると

 「先生にも見てもらえよ単三」、「先生にセクシーポーズしてもらってオカズにしたら?」、「床や椅子が汚れるけど面白いっすよ」と連中が余裕の表情で僕と先生をバカにしている。

 「静かに…。本当に教室でそんな事をしているなら有尾くんの方が悪いじゃない。先生も教室で変な事をしないで欲しいわ。」

 「そんな…、僕は暴力を受けてイジメられているんですよ。サッカー部を活動停止にしてください。」

 「苦道さん達はやってないって言ってるし、証拠も証人も無いんでしょ。」

 「でも…」

 「サッカー部のみんなは、有尾くんが誤解しないように優しく注意してあげてね。じゃあ、先生はもう戻るわよ。」厚見先生はつまらない話で時間を無駄にしたと言わんばかりに急ぎ足で教室を出て行った。


 教室に残された僕とサッカー部のバカ達。バカ達は「単三。なめた真似してくれたな」、「先生にチクりやがってムカつく」、「何が活動停止だボケ」と気が高ぶっている。何とかしてここから逃げ出さないと何をされるか分からない。バカ達は暴力を振るうのだから僕が実力行使をしても正当防衛だと考えていると、ちょうどこの中では一番小柄な弾地さんが「謝れよ」と言いながら僕の頭を押さえようとした。ココだ!と思い、僕は「うわー」と威嚇するように大声を出して弾地さんを両手で突き飛ばして、教室の出入口の方へ走り出した。

 が、墓野くんにすぐに捕まり教室の床へ押さえつけられた。他の連中は足をぐねったのか痛そうに触りながら椅子に座っている弾地さんに「大丈夫か」等と心配そうに声をかけている。

 「アンタ、自分が何をしたのか分かってんのか?弾地に土下座して謝れ。」と苦道さんに言われた。

 「みんなだって僕に暴力をふるうじゃないですか。」墓野くんに手を捻られ床に押さえつけられたまま答えた。

 「単三ごときが言う事を聞かないからだろうが。弾地は先発レギュラーだぞ、怪我したらどうするんだ。」と苦道さんに脇腹を蹴られた。今までは手加減してくれていたのか、前回までの蹴りよりも重く痛みが強い。それも2回3回と容赦なく蹴られた。本当に怒っているようだ。苦道さんの蹴りが止まると墓野くんに髪の毛を鷲掴みにされて椅子に座る弾地さんの前に正座させられ、僕は観念して弾地さんに「申し訳ありませんでした」と、そのまま土下座して謝罪した。弾地さんが無言のまま立ちあがったと思ったら、何かに頭を上から押されて額が床に着き「ゴン」と音がする。鼻の上にメガネを固定する金具が顔に食い込んで痛い。僕は首に力を入れて頭を上げようとするが上がらず、僕の頭を押さえている何かがグリグリとさらに力を強めた。「急に暴れやがって、このクソが」と言う弾地さんの声とバカ達の笑い声が聞こえる。どうやら僕は弾地さんに頭を踏まれているようだ。

 しばらくすると「ウチ保健室に行ってくる」と弾地さんが教室を出て行き、枯林さんと墓野くんが付き添って一緒に出て行った。僕も家に帰ろうと立ち上がる。

 「おいおい何を終わった感出してんだよ。」

 「ウチら全員に謝るんだよ。アホが。」

 「ねえ、一人一人土下座させていたら時間がかかるからさ、みんな私の後ろに並んで。」と苦道さんがバカ達によく分からない指示をする。そして僕には

 「単三、謝りながら這いつくばってココをくぐれ。」と命令された。苦道さんが肩幅よりも少し広く脚を開き立っている両脚の間をくぐれと言われているのだ。僕は言われた通り苦道さんの前で「申し訳ありませんでした」と土下座した後、出来るだけ体を小さく丸めて赤ちゃんのハイハイのように苦道さんの脚の間をくぐった。それでも肩が苦道さんの脚に当たり、スカートの裾が背中に当たった。苦道さんの脚の間をくぐり抜けた後、顔を上げて前を確認すると泡知さんが同じように脚を広げて立っていた。苦道さんの時と同じように泡知さんへ土下座してハイハイを始めた時に後ろから「パァン」と音がしてお尻に激痛を感じた。僕はバランスを崩して四つん這いから前に倒れ込む。苦道さんにお尻を蹴られたのだ。バカ達が笑っている。

 「めっちゃ面白そう。ほら単三、私のも通れよ」と泡知さんがヘラヘラしなが待ち構えている。

 「痛いです。蹴らないでください。」と苦道さんと泡知さんへ前後それぞれにお願いしたが

 「えー、どうしようかなぁ。」と泡知さんが惚け、「早くしろよ。後ろが待ってんだよ。」と汚黒くんが催促してきた。僕は泡知さんの脚の間をゆっくりくぐり始めたが、腕と肩が通り抜けたくらいで泡知さんは「どぉーん」と言いながら僕の上に全体重をかけて座り、僕は上から押しつぶされた。「それもおもろいやん」とまたバカ達が喜びはしゃぐ。泡知さんは僕の上に座ったまま文字通りマウントを取り、バカ達の褒め言葉に腕を組んでウンウンと応えた後に立ち上がり、残りは汚黒くんと酷本さんになった。「次はどんな物ボケをしてくれるの」と苦道さんが汚黒くんにプレッシャーをかける。「ヤベぇどうしよう。何も思いつかねぇ。」と汚黒くんが考えている間にさっさと終わらせたい僕はハイハイを始める。「ちょっと待てって」と声がしたと思うと前に進まなくなった。汚黒くんが僕の頭を踏んで押さえているからだ。何とか進めないかと左右に方向をずらそうとしたが「動くなよ」と踏む力を強くされただけだった。

 そうこうしているうちに保健室へ行った弾地さんに付き添った枯林さんと墓野くんが教室へ戻ってくる。

 「弾地さん、やっぱり痛みがあるみたいで、念のため明日レントゲン取りに病院に行くって。」

 「今日は菅野先生の車で家に送ってもらうらしいよ。」

 「やばいやん。大丈夫かなぁ。弾地さん家にお見舞いに行こう。」とバカ達は僕で遊んでいたことを忘れたように鞄を持って教室から出て行った。一人教室に残された僕は床に擦れて白く汚れた制服のお腹と膝をパンパン叩きながらお尻と脇の痛みを感じた。

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