失意の沼地⑤ レントとニファ
俺はドロドロとした沼地を、スコップで掘り進めながら進んでいく。
「ありがとう…レント」
ニファが俺の後ろから小さく、そう囁いた。
その声はいつもの力強いニファとはかけ離れた、弱々しく…悲しみのこもった声だった。
「らしくないなぁ…お前はいつもみたいに堂々としてればいいんだよ。俺は俺が助けたいと思ったから助けた。それ以上でもそれ以下でもないんだから」
「うん…」
少しの間、沈黙が流れる。
「私って何なんだろうね…」
ニファが急に口を開いた。
「どうした…?急にそんなこと言って」
俺は余りにも普段からかけ離れたニファの姿に戸惑いの色を隠せない。
「勇者の癖して負け戦をした挙句、その相手にこんな風に助けられたまま、何もできずみっともない姿を晒して…」
ニファは俺の腕を強く握る。
「ほっとけば良かったじゃない。もしかしたらそのうち私…裏切るかもしれないんだよ?今だってそう…」
俺の腕を握り続けたままニファは続ける。
「それとも何…私を弄んでるつもり?バカな勇者の私の醜態を眺めながら、心の奥底では私を見下してるんでしょ…!?」
ニファは俺の腕をさらに強く握る。
「私、アンタのこと大っ嫌い…」
「俺は、お前の事好きだよ」
ニファの涙声に対して、俺はそう言った。
沼地の化け物に負け、俺に助けられたニファは、自分に自信が持てなくなっている、いわば…劣等感。その劣等感にさいなまれた過程で、俺達に思いっきり当たってきている…昔、俺もあったからな、そう言う経験。
俺は続ける。
「前にも言ったかもしれないが、俺は王都の勇者、貴族、王様、大臣…全員嫌いだ。殺意を覚えるほどにはな…俺がいた頃の勇者は、仮面を被ったペテン師集団だった。人々に救いの手を差し伸べるのは自分の名誉のため、誇りのため。それ以外はゴミに等しく切り捨てたんだ。ただな…一部例外もいた」
俺はニファの頭に手をポンと置き、ナデナデをする。
「ニファ…お前は俺が見てきた中で、一番勇者らしくない勇者だ。人々ために悩み、葛藤し、人々のためなら本来敵である俺達にだって力を貸す。こんなに誇りも、名誉も持たない勇者が他にいる訳がないんだよ。
だからな…その、お前はお前らしくしてればいいんだよ。俺達に当たってもいい、俺らの仲間の間は、勇者のニファじゃないんだから強がらなくたっていい。
お前がこれからも助けを求める事があるんだったら、俺は助けに行く。悩んでいるなら相談もする。その代わり、俺やソロンが困った時はお前が俺たちを助けてくれよ。お前は強いからな。それに、それが仲間ってもんだからな…
…それだけだ」
そこから更に、しばらくの沈黙が流れた。
「フフフッ…もしかして励ましのつもり?あんな泥人形みたいなのに負けたのに、私が強いわけないじゃない」
ニファが少し笑いながら言った。
「正直あれは俺もヤバかった。雷吹のブーメランがなかったら確実に負けてただろうしな」
俺は、声質が少し元気になったニファの声を聞き、安心しながら言った。
「それにしてもニファさん…アンタ。暗いとこ苦手なんだな!!なにせ、めっちゃ膝カクカクさせながら戦ってたからなぁ…」
「み、見て…た…の?」
「あぁ…ばっちりと。面白かったから少し観察してたよ」
俺は情け無いニファを思い出し、笑いを抑えながら言った。
「ユ…ユルさんんーーーーー!!!」
その瞬間、ニファが俺の首を思いっきり絞めてくる。
「ちょ…ちょっと!…首…絞まって…ますから」
俺は息を漏らしながら、かろうじて声を発する。
「コロスゥゥゥゥゥゥーー!!!」
あぁ…いつも通りだな。
俺は薄れゆく意識の中で、そんな事を思ったのでした。
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