ポットク鉱山⑥ 鍛冶場の馬鹿力
「は?」
俺の相棒のスコップが目の前で粉砕したんだから、普通はそんな反応になるだろう。
俺は驚きと絶望のあまり、立ち尽くしていた。
ニファはというと……
「私の、私のシュバゼル家特注の剣がぁぁ…まぁ、でもいっか!買い換えようと思ってたし」
切り替えが早かった。
「じゃねぇよ!!そこはもっと悲しむだろ!?俺の相棒、粉砕しちまっただろうが!!!」
ニファの謎の切り替えっぷりに俺は絶叫した。
「壊れちゃったものは仕方ないじゃない。それよりも目の前のクソに集中したほうがいいでしょう?」
ニファは目の前の標的を指差し、そう言った。
言い返そうと思ったが、ニファの言う通り目の前のクソッタレを倒したほうが早いと思ったので黙っておいた。
直すアテもあるしな。
俺は壊れたスコップをノーサに投げる。
「おい!ちょっとお願いなんだが、そのスコップを修理してくれないか?それまでは俺らがなんとかするからよ…」
俺がそう言うと、ノーサが不安そうに聞いて来た。
「ええっ!!聞いたでしょ?私、見習いなんだよ!!まだ独学でしか武器なんて作ったことないんだし、それに…」
ノーサの返しを遮るように俺は答える。
「大丈夫だよ…俺はお前の武器が欲しいんだ。未熟者には未熟者の武器が必要だろ?」
ノーサは少し下を向き、俺の方を見て言った。
「うん…!」と。
「おっ…やっとお姉ちゃんと呼ぶに相応しい顔になったじゃねぇか。ソロン!!お前はノーサの方へ行ってくれ。万が一のことがあったらお前に全て任せる」
「おい、でも良いのか?ただでさえ人数少ねぇのに……
それに、ニファは魔法が使えるからまだしも、お前はどうするんだ??剣を使うってのも俺はアリだと思うが、お前はそう言うわけにもいかないだろ?」
さすがだな…俺の事もよく分かってるよ。ソロンは…
「大丈夫だ!ほれ、コイツを使えばなぁ」
俺はその場にあったピッケルを手に持つ。
「ほぉ…ピッケルかぁ。まぁ、気をつけてやれよ…
あっ!!ステーキは後で奢りなの、変わらないからなぁー!!」
語尾の音程がソプラァノなソロンくんは、目にステーキ肉を浮かべながらそう言った。
「おうよ!せっかくだから全員で食事でもしようや!!」
ソロンは俺の方を一度見ると、ケルトン達と一緒に走っていった。
「勇者さん…ギデサルムの掟によると、四人の内二人が前衛、二人が後方支援だっけ?そんじゃあ、今はその二分の一って事だな。
ピッケルを持ってる俺が前衛で、魔法しか使えないお前が後方支援ってことか。あぁピザ食いてぇ……」
俺は半分ジョークのようにニファに現在の状況を伝える。
「えぇ…でもこれはあの時みたいな討伐じゃないわ。
それに、あのクソをやっちまえば証拠隠滅よ…手柄でも出したら貴方にもピザ一切れは分けてあげるわ」
「ほんとにあんた勇者様かよ……
…まぁいいや、まずはこのクソをぶっ倒さなきゃな…!!」
俺たちは、地中に潜っていった岩蜘蛛に対してスタートをきった。
********
リペソルこと、レント達から離れた俺は、奴らの武器を作るためにノーサの師匠がいる鍛冶場へと向かった。
「師匠すみません。師匠居ますかぁ?!」
ノーサは鍛冶場の扉をそう言って叩く。
すると、
「入って来な。ノーサとケルトン爺とおや、知らない奴もいるねぇ。
とにかく全員入って来な」
鍛冶場の扉の奥から、女性の芯の入った声が聞こえた。
俺達が、鍛冶場の中をそろりそろりと進んでいくと。畳のある部屋に辿り着いた。
「よぉ、話は聞いたよ…今戦ってる奴らの武器が壊れちまったと。それでアタイに直してもらいたいって事か」
拡音魔法だな…普通に持ってる事自体は珍しくないけど、多分戦ってるところまで聞こえてると仮定して……2キロ位は離れてるはず。…
…やべぇなこの人、ただもんじゃねぇ。
俺が感心していると、師匠と呼ばれている人物は壊れたスコップを手に取り、こう言った。
「それじゃあ。このスコップの修理とヘスティアの勇者様の剣を新しく作るって事でいいかい」
「……!?…あぁ、それでいい。それにしても勇者様が来てるって事もバレてるんだな」
俺がそう言うと、師匠は少し笑い、こう返した。
「なぁに…珍しいお客さんもいるもんだねぇと思っただけさ。他の奴には言わないから安心しな。でも今度からは音を立てねぇように動かないとだねぇ…」
「あぁ、次からはそうさせてもらう…」
「そんじゃあ…しばらく待っていてくれ」
師匠がそう言って作業場へと向かおうとした時だった。
「あの…!私も、私も作業場に行きたいです。お願いします!!
ノーサが師匠の背中にそう言ったのだ。
「駄目だ。お前はまだ未熟だ!!鉄火場では何が起こるかわからないぞ!!」
師匠が強い口調で言う。
「それでもです。自分が未熟だからこそ、ここで黙って見ているわけには行かないのです!!そのスコップを持っていた彼は言っていました。自分は未熟者だと。
でも、だからこそ誰かのために一生懸命戦い続けなければならない。だからこそ自分よりすごい仲間を守る為にこの一瞬を懸命に生きなければならないのだと、言っていました。私はずっと一人で独学で学び続けて来ました。
自分勝手だと思うかもしれませんが、私は、今日この日のために頑張り続けて来たのです。お願いです…私も、一緒に戦わせてください…!」
つたない言葉でありながらも、熱意のこもったいい言葉だった。
さすがだな…リペソル
師匠は少し考えるようにうつむいた後、急に大笑いをし始めた。
「アッハッハ……最高だなノーサ、そのスコップで戦う奴はただの物好きじゃないって事か。
フハハハハッ…よし、分かった。そこまで言うんなら免許皆伝だ。ノーサ!一緒に戦おう!!!」
「あ、ありがとうございますぅ!!」
ノーサは喜びのあまり飛び跳ねて回っていた。
師匠はケルトンの方を見て、ただ、こう付け加えた。
「ケルトン。これがお前の娘。ノーサだ」
「……!!」
ケルトンはその言葉にハッとしたようになり、下を向き直した。
…そろそろ頃合いだな。
俺は作業場に入って行こうとする師匠を呼び止める。
「師匠さん…良かったら俺も連れていってくれませんかね。ちょっと試したい事があるもんで」
「いや…流石に一般人はちょっと…」
少したじろぎながら言う師匠に俺はある物を見せた。
「ん…?これは……魔術師の資格証書…一級…?達人…!?達人!?嘘!!その歳で達人級なんてこの世に数人いるかいないか…
ん?そう言えばその顔、何処かで見たような……」
師匠は俺の美しく、ビューティフォーな顔をじっと見渡す。
「あ…あぁっ!!あんた
2、3年前に
『勇者暗黒の乱』の首謀者だろう!?
そんなアンタがどうしてこんなとこに!??」
「いやぁ…風の成り行きっすよ。ハハッ…」
さっきまで師匠と呼ばれていた女性は、腰を抜かして驚いている。
「師匠…!!貴方一体何者なの!?」
ノーサが尻餅をついた師匠を起こしながら、怒りに満ちた声で俺の方を見る。
「この件が終わったらゆっくりと話してやりますから。
…さぁさぁ、さっさと武器を作っちゃいましょう!!」
俺はそう言い、倒れている師匠を起こすのを手伝った。
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