プロローグファイナル(上) 目覚めの朝食と旅立ち

 今は昼下がり…

 俺と目の前にいる勇者さんは、ソロンが持ってきた朝食を間にして向かい合っていた。


 昨日は色々あったよ…討伐依頼を受けたと思ったら変な剣士に絡まれるし、その後、俺の命を狙う勇者だってことが分かって、もっとめんどくさくなるし、勇者さんを助けてようやく俺も一安心かと思ったら次の日の朝っぱらからその勇者さんにボコボコに殴られるし……嫌になっちゃうよもう…せっかく助けてやったのにさ

 家の冷蔵庫にキンキンに冷やしたポーション (ソロン作 塗ってもよし、飲んでもよし)が無かったら顔面陥没したまま数日過ごさなきゃいけなかったんだぞ…


「いくつか質問したいんだけど」

 今だに機嫌が治らない勇者さんは不機嫌そうに俺に聞いた


「どうぞ」


「どうして私を助けたの?」

 途中からコイツが俺を殺す気がないってことに気づいたからだよ!!

 …ってか、そもそも俺にはお前を殺す理由がないし、それも、女の子を無闇に殺したかねーよ。こっちだって伊達に人間なんだぞ!!


 俺はムカついたので、皮肉混じりに得意のジョークを言うことにした。

「そりゃ…には優しくって言うやん」



「お年寄りってねぇ…私、今年十六歳になったばかりのピチピチガールなんですけど」


「プッ…ピチピチって。体力ゴリラのくせに」

 俺はニファに聞こえないように小声で呟いた。


「なんか言ったか?クソガキ…お前まさか、さっきまでボコボコにされたの忘れたわけじゃねぇだろうな?なぁ!?」


「はい、すみません」

 俺は生まれて数回目の真剣な謝罪というものをした。この時ばかりは仕方ない。がかかってるんだ。


「そもそもねぇ、ババアとかゴリラとか散々言ってるけど、あんた何歳なのよ?私よりも少し背はけど、同年代から少し下くらいだから、15か16くらい?」

 あ…聞こえてたんだ。


「14歳だよ」


「ふーん。14ね………14歳!!?貴方が!!!??」


 うぉ!…そんな驚くことか?!





********



「そ、そんなに驚くことか?」


「驚くわよ、だって私、国で七人しかいない勇者なはずなのに、14歳の少年に負けたのよ!?それも屈辱的な…屈辱的な方法で」

 私は顔を赤らめながら悶絶していた。


 変な手段で最終的に倒されたとはいえ、魔法を一切使わずに私の事を終始圧倒。おまけに巧みな誘導尋問で、私の判断力を奪い魔法のパターンを固定化。

 今思えば、私には聖光の乱れ雨ホーリーシャワーなどの遠距離型の魔法があったのに、最後は挑発されて加護の力に頼り切っていた。

 そんな相手がまさか、自分よりも2つも年下だったなんて…………

 これじゃあ数ヶ月前にになって、王都でチヤホヤされてた私が馬鹿みたいじゃない!!


「はぁ〜あ…」



「そんなに凹むなよ。魔法が使えない戦士に負けた

 皮肉たっぷりに彼がそうほざく…


 プチン


「二度と二足歩行できないようにしてあげましょうか?」


「…まじですみません……」

 私の殺気に怯えたのか、縮こまったように彼は言う。


「もぅ…くやし〜よぉ〜〜」


 ヘスティア・ニファドーラ・シュバゼル 16歳

 14歳のスコップを持った魔法が一切使えない年下の男の子に

 完敗です…


 ん…?スコップ……


「そういえば…あなたどうしてスコップなんかを武器に使っているの?あなたほどの腕前なら、普通に剣を使ったほうが強そうだと思うんだけど…」



「えっ…あぁ、いやぁまぁ…ただのだよ。それに、俺は剣を扱ったことがないからね」

 と彼は言った。


 嘘だと私は思った。彼の動き、立ち回りはまさしく剣士のなのだ。それも超一流の…


 考えてみればおかしいじゃない…どうして王様が直々にの始末を勇者に頼んだのか。の襲撃にあったと言われる、このタワラ村を救えたのか。


 考えれば考えるほど、この子はただものじゃない。一体どうしてスコップを使い続けるのか。どうして、そんな戦士がこんな辺境の地にいるのか……


 しばらくの沈黙が続く。


「飯…食べんの?」

 なんだか悲しそうに彼が聞いてきた。


「あ……あぁ!!そうね、まだご飯食べてなかったわ……

 コレってパスタだよね!?」

 青年が持ってきた朝食とは、パスタだった。ミートソースが絡めてあって、冷めていても思わずヨダレが出てきてしまうほどだ。


「うん!!!ナポリタン!!おとといに作り置きにしたんだ」

 可愛らしい笑顔で彼はそう答える。


「貴方料理できるの!!?それにナポリタン…?どうして??」


「俺がナポリタン好きだからだよ」

 彼はそう続けながら、大きな口で自分が持ってきたお皿のナポリタンを頬張った


 ……私、napori よりカルボナーラが好きなんだけど…

 だけどここで残したら、彼にも失礼だし……


「いただきます!!」

 私はパスタを一気に口の中に頬張った。


 次の瞬間口の中に広がるのはトマトケチャップのほんのりとした甘さと酸味。

 この二つの味が喉越しの良い麺に絡んで、程よい味を実現させる。


 あぁ…空のユートピアとはまさに、ここにあったのかぁ

「……死ぬほどうまい。ムカつく……」


「まじで!!?ありがとう!!!!」

 とっても無邪気に笑ったその顔は

 今まで見たどの笑顔よりも純粋で、可愛らしかった……


「は、反則…!そ、そんな…k」


「どうした?」

 彼が無邪気な顔のまま無邪気に聞き返す。


「……いえ、何でも…ありません……」

 私は縮こまったようにそう答える。クッ…あやうく新しい扉を開いてしまうところだった。


 そんなことを思っていると彼はこう言った。

「そういや、このまま王都に帰って大丈夫なのか?ただ一緒に討伐行って、飯食って、王都に帰るだけになるけど…」


「えっ………」


 あっ………


 そーーーーーだったぁ!!!?私、リペルソルジャー殺せって言われてここに来たんだったぁ!しかもその相手に助けられて飯まで奢ってもらって……


 ヤヴァイ、ヤヴァイ!!私…勇者クビになる!?それどころかガチで首跳ねられたりして…私の出なのに実家取り潰しになってさぁ!!このままじゃ私一族の面汚しどころか、反逆者になっちゃうよぉ!!


「おーい大丈夫か?食あたりか?」

 コイツゥウウ〜人の気も知らないでぇ〜〜


「我が名は………我が名は慈愛の勇者 ニファ!! リペルソルジャーよ…ここで私に犯した罪を床をなめ、自らを懺悔しながら自らの人生を終えるがいい!!」

 剣がないので、私はファイティングポーズをとった


「待て待て!!こっちは飯までご馳走して、またボコボコに殴られるの?!あだ返しもいいところだよ!!!」

 慌てたように彼は後ろに後退りする。


「うるさーい!人の気も知らないで、私に恥ばっかりかかせやがって…覚悟ーー!!」



********


 奴は拳を振り上げて勢いよくこっちに振り下ろす

「うわ〜!!この鬼、悪魔、慈愛もどきのエセ勇者ーー!!!」


 しかし…拳は俺に落ちては来なかった

「私はね…魔王を倒したくて勇者になったわけでも、王の命令を聞くために勇者になったわけじゃない…助けたいの、困っている人を、ただ…それだけ……」

 彼女は自分の剣を見ながらポツリポツリと語り始めた。




————————


 私が勇者じゃなくて普通の剣士として剣士団にいた頃にね

 剣士団でダンジョンを攻略していた時に

 私は大怪我をして、動けなくなって死にかけたことがあったの。

 に遭遇したから…


 他の剣士に助けを求めたけど、誰も私を助けないで逃げていった。

 もうダメだと思った……


 …でも、私よりも小さな剣士がが助けてくれた。その姿ははっきりとは見えなかったけど、剣を持っていて|剣士団の鎧を着ている私よりも小柄な男の子だった。

 その子がを一瞬のうちに切り刻んで、私にこう囁いたんだ。「もう大丈夫だよ」って


 その時に私のの意識は途切れて、気がついた時には病室にいた。


 彼にお礼がしたい、感謝がしたいと思った私は、剣士団の同僚や上司、勇者様に彼の所在についてお聞きしたんだけど、みんな彼のことは知らないと言う。

 結局彼には今も会えず仕舞い……




————————


「でも…私はその時思った。彼のようにどんな人でも助けられるような人間になることが、彼にできる最大の恩返しだって…

 …天命だって、なのに…そうなのに、私は貴方を殺そうとしてしまった。あの兄弟たちを巻き込んでしまった。もう私は…人を助けられような英雄じゃない。私は…悪魔よ……」

 彼女はそう語り終わると泣き始めてしまった


 いきなり泣くとは思わなかったので、まぁ…驚いた。勇者さんだからこその悩みってのもあるんだな。


 …しゃーねぇ、励ましたるか

「俺のことはいいよ…お前も王様の命令に従っただけだろうし、それよりもアイツら三人を助けてくれてありがとな、俺一人じゃ絶対に助けられなからな。感謝してるよ…

 だから…あんまり自分を責めるのはやめてやってくれ、少なくともアイツらにとっちゃ、今のお前はそのものだ」


 ニファは驚きのあまり、顔が固まったようになってしまったが…

 …すぐに笑い始めた。

「アッハハ!!何?名言でも言って満足したつもりなの〜?おっかしい」



「おい本当にそう思ってるって!!本物の様が言ってることだぞ!!それに、アイツらも早くお礼したいって言ってた」

 それを聞いた彼女はずっと笑い続けてはいたが、顔がぐしゃぐしゃになるまで泣いていた。




————————


「はぁぁあ!??!?」


 理由は急に話をしている時に部屋に入ってきた俺の親友魔法師、ソロンの提案に呆然とただ驚いていた。


私と一緒に!!?なんで?どうして?!」

 ニファは驚きながら言う。


 いやそうだろうよ…急に部屋に入ってきたと思ったら

「それだったら王都に行って直談判してくればいいんじゃね?」

 なんて、わっけ分からんこと言ってくるし


「マジで安定剤足りてねぇんじゃねえか?のくせに」

 皮肉たっぷりに俺は言う。


「だって考えてみろよ!このニファさん。だっけ?が

 この村をどうしても手に入れるためにお前を殺さなければならないでも、肝心のニファさんは殺しをしたくない。

 だったら、王様とか勇者みたいな偉い人たちに直談判して極力誰も苦しませずに、ことを終わらせられるのが、筋ってもんだろうよ。

 それに。この村を渡したくないってのはお前の完全なるエゴじゃあねえか!!

 お前が王都の連中を嫌う気持ちもわかるが、ここはタワラ村であり、俺たちだけが住んでる村じゃねぇんだ。村の連中がに今、どんなイメージを持ってるかなんてわからねぇだろ?

 もしかしたら従ったほうが村の奴らは幸せなのかもしれないだろ?」

 ソロンはこういう時は、を言うだ。だから余計タチが悪い。


「そりゃぁ…そうだけどよ」

 独断で走ったのは悪いって思ってるさ…でも、あの時言われた言葉にカチンときて……はぁ…やっぱだなソロンは。


「けど、もし却下されたらどうするの?《《王の要求》)を素直に聞き入れるの?」

 ニファは暗い顔でソロンに問いかける。


「そうなったら諦めるか、抵抗するかしかないよな。

 俺はそうなったら諦めて要求を聞き入れるほうがいいと思うのだが…」


 嫌だ…アイツらは絶対に村をいいように利用して…また捨てる。

…そんなことにはさせない!!

「まぁ…そんな権限俺にはないし、決めるのはこの村の人たちと

 であるお前だ。うちの英雄さんはどんな状況でもうまく切り抜けてきたし、今回も例外じゃないんだろ?」


 ソロン……


 俺はじんわりと熱くなる目頭を抑えながら答えた。

「もちろんさ!!なんたって俺はリペルソルジャーだぜ!!どんな困難が訪れてもばっちこいよ!!」


「えぇ〜…」


「なんだよ…何か文句あんのかよ」

 昨日まで敵同士だったと言うのにもう仲良くなっている2人を見てソロンは、ような温かい目をして見守っていた。


「よっし!それでこそだな!じゃあ…これから旅をするってことだし、いまさら素性を隠すのもなんだろうし、自己紹介でもしていきますかな

 俺の名前はソロン 16歳 本名はフォアグラ・ソロン・シャドニア 

 自分でもよく言うが魔術師の中でもの中でも特に伝説級な魔術師で

 この村ではの開発と薬屋を経営しているぞ」


 …伝説級の魔術師って自分で言うのかよ!!まぁ実力者なのは認めるけれども!

 

 実際に、俺はコイツのことを自称一流魔法師と言ってはいるが、本当の実力は確かに、一流並みの化け物だ。変態でのガチサイコだけどな。



「自称のな……俺はレント 14歳 リペルソルジャーという名はこの村を救った時につけられただ…出来ればレントって呼んで欲しい。

 本名は ガイラ・レンフォト・アルセーク」


「えっ……あなたレントって名前だったのね…リペルソルジャー…

 これからそう呼ばせてもらうわ。レント!!

 私はニファ ヘスティア・ニファドーラ・シュバゼル 16歳」


「いいぜ、ニファドーラ


「ソロンくん?コイツ四肢を逆向きにへし折ってもいいから?さっきからコイツ、一言うるさいのよ〜」

 ニファが俺の関節を固めながら言った。


「いってぇぇぇ…!!ゴメンナサイゴメンナサイ…!!」


「やめとけ、コイツはただおちょくりたいだけだから。

 そんじゃ、自己紹介も終わったことだし…明日旅立つために準備でもしますかな」


「待て、待て!!明日出発なんて聞いてない!」

 二俺たちは息ぴったりにソロンに言う。


「今決めたからな…」


「今決めたからな…じゃねーよ。村の人達はどうすんだ!?」


「シーとギルドの連中に任せれば良いじゃないか」

 ソロンはさも当然のように返す。


「えぇ…明日。旅行じゃないんだからさぁ…」

 俺達はそうつぶやきつつも、ソロンがノリノリで準備を始めたことでもう引き返せないことを悟り、準備を始めた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る