第6話 あなたは海で溺れたくないようだ

 ◆天啓オラクルシステム結果リザルト――――――――――

『海に潜りたいのはやまやまだが、残念ながら泳げない。だが、は食べたい。彼はアマビエではなくアマエビと勘違いしている』

 ―――――――――――――――――――


「ここが『聖なるアマエビ浜』です」

「です」


「そしてこれがアマビエ様」

「アリエが描きました。ぶい」


 どや顔を決める少女。アリエの足元にあるのは、砂浜に描かれたアマビエ様とやらの姿だった。なんだろうなこの……魚? ペンギン? あるいは人魚……?


 髪の毛と、とがった口と、身体にびっしりと生えたうろこが凄くアンバランスに感じる……。これがアマビエ様なのか。

 

 尼彦あまひことアリエに案内されたのは、穏やかな波が打ち寄せる小さな浜だ。それほど広くない砂浜とその奥には立派な枝ぶりの松が数本生えている。そんな普通の浜だ。


「アマビエ様はこのあたりに住まう海の守り神、でした」

「その加護は疫病予防と海の幸の大漁を保証する、です」


 ここはたびたび流行り病に悩まされている土地だったらしい。元々漁獲量も多くないさびれた村だ。村人は減り続け、漁をすることもままならず、困り果てていたらしい。


 だが、五十年ほど前。海中に怪しい光が満ち、『アマビエ』と名乗る神様が現れた。


 そのアマビエ様はあっというまに病を癒し、飢えていた村人に大漁のアジと聖なるアマエビを遣わせ、その胃袋を満たしたというのだ。


 それからここは地元で信仰の対象になっているらしい。


「アマエビ? アマビエ? アマエビを遣わせたのが、アマビエ様ってことだよね?」


「はい。アマエビ。それとアジ。両者はアマビエ様の遣わした海の使者、です」


「この村の名物は、プリっぷりのアマエビがたくさん載ったアマエビマヨ丼と、新鮮なアジをさばいてそのまま揚げたアジフライが名物、です」


「アマビエ様の使者食べちゃうんだ」


「とっても美味しい」

「のですよ?」


 こてっとかわいらしく首をかしげる尼彦とアリエの二人。


 村に入って早々に彼らに捕まったのだが、彼らしかいなかったのには理由がある。他の大人たちはみな病気にやられて寝ているからだ。


 二人が語るところによると、海からアマビエ様が出てこなくなり、アジとアマエビが取れなくなった。その上に昔ながらの病気がまた流行り出したという。


「困っていました」

「もうだめだと思っていました」


 ですが――と二人は声をそろえる。


「天啓がありました。ここにアジフライを求めるものが来る、と」

「天啓を得ました。そのものはとってもお腹が空いている、と」


「「このクエストの報酬は、アマエビ丼と、アジフライ、です」」


 またメタな事を……

 だがそう言われて、腹がぐうと鳴るのも事実。

 確かにお腹は空いているのだ。


「「アマビエ様もとってもかわいいです。天津国に来たならば一度は会っておくの良いです、よ?」」


 二人はどやぁと笑う。

 なんだろうな。そのゆるぎない自信。


 足元のアマビエの絵を見る。不気味にしか見えないけど……。


 二人の言動には、ものすごく作為的なものを感じるな?


「まぁ天啓のせいなんだろうけど……」


 とぼやいたその時だ。バサバサと羽根音が聞こえ、赤黎せきれいが降りてきた。


 赤黎は浜に到着するや否や、「まずは偵察じゃ」と、海を見に行ってくれていて、今帰って来たらしい。


「我が背よ。海中に何かの気配を感じるぞ。海がうっすらと光っておった。アマビエとやらは確かにそこにおるようじゃ。じゃが何やら弱っているようにも見えるぞ」


「それが、海中のアマビエ様に違いありません」

「何か地上に出てこれない理由があるに違いありません」


「「さぁさ、アマビエ様を迎えに行ってきてください」」


 声をそろえて言う二人に俺は苦笑いを浮かべるしかない。

 海に入れだって? それはできない相談だ。


「実は俺泳げないんだよね」

「ほう、そうなのか我が背よ」


「ああ。そんな気がする」


 これも天啓システムの影響なんだろう。

 俺が海に入ったら、浮くことなく溺れるイメージが浮かぶ。

 それは試してみるまでもない、確信に満ちた予感だ。


「正直、海に近づくのも嫌だ……」


 キラキラと輝く海を見ていると、なんだかこう、背中がゾワゾワする。綺麗な海だとは思うけれど、それはそれとして絶対入りたくない。そう強く思う。記憶がない俺だが、もしかしたら溺れた事があるのかもしれない。


「そうか、そんなに嫌なのか」


「なぁ、赤黎。アマビエ様を釣り上げたりできないかな」

「それは、船を浮かべて、釣りをするという意味でかな」


「そうそう。ああでも俺は嫌だよ。赤黎が釣ってきて」


「な」


 俺の暴論に、赤黎の嘴がパカッと開く。


「我に釣りをせよと」

「もしくは、上空から海にダイブしてアマビエ様取ってきてよ。海鳥みたいに」


「我はカモメではないぞ……」


 うん。わかってる。ひどいことを言っている自覚はある。だけどそれぐらい海に入るのが嫌なんだよね。まぁ赤黎が取ってこいというのは無茶ぶりな自覚もある。


 顔をしかめている赤黎を見れば無理な事は分かるし……


「じゃあやっぱりこれの出番かな……」


 俺はあきらめて手の中のキューブを取り出す。


「おお、ついにそれを使うのか?」


「うん。多分こういう時のために使うものだと思うし」


 手の中でキューブはキラキラと輝きながら回っている。

 このキューブに願えば何でも作れると聞いた。俺はこの世界の創造主なのだと。


 なら、海の中のアマビエ様に会いに行くための道具も作れるだろう。

 さて、このキューブに何を願おうか。


 一応、案はいくつか考えてはいる。


 一つは船を作る事。絶対にぜーったいに溺れたり落ちたりしないような大きな船だ。それに乗って海に出て……。それからどうしよう。


 もう一つは、溺れてしまうならば、溺れても大丈夫な道具を作る事。

 潜水ができるような服。それを着れば溺れることはないだろう。


 あるいは、このキューブの力を使って、もっと大規模な変化を起こす事。

 例えば……海を割ったりとか?


 考えてみれば何でもできるような気がする。さて、どうするべきだろうか。


 ◆システムメッセージ―――――――――――――

 あなたは泳げない。そのうえ溺れる事に対してひどく恐怖を感じているNew

 アマビエとアマエビは字ずらが似ている。目も滑るため、そのうち致命的な間違いがあるかもしれないNew

 ――――――――――――――――――――――――


 あなたは、アマビエ様に会うために海中に向かわなくてはならない。

 そのためにキューブで何かを作ろうと思う。

 あなたは舟を作ってもいいし、潜水のための道具を作ってもいいし、またほかの何かを作り出してもいい。お腹もすいてきた事だし、早々にアマビエ様に会いに行きたいものだ。

 ――――――――――――――――――――――――


 (コメント欄に自由に書き込んでください。その情報によって、世界が変化していきます。また書かれた事がすべてそのまま反映されるわけではありません。長文でも、短文でもなんでもかまいません)


(次回更新は、7月1日15時ごろです)

(7月より1日一更新~2日に一更新になる予定です)

(コメントがなくとも、それ相応の展開が進んでいきます)

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