第4話 あなたは『盤天世界』に降り立った

 ◆天啓オラクルシステム結果リザルト――――――――――

 『鳥の名は赤黎セキレイ

 『和風ファンタジー世界がいい』

 『どこまでも見渡せる平面世界で』

 ―――――――――――――――――――


赤黎セキレイ……」


「なに?」


「セキレイ、だと思う。お前の名前」


 頭の中にふと浮かんで来たんだ。赤黎セキレイ。この鳥の名前。多分天啓システムとやらからの影響だと思うけれど、呼んでみると驚くほどしっくりきた。


 赤黎。セキレイ。彼女の名……。彼女? いや彼? 分からない。けれど名を付けた事で俺は赤黎の事をただの鳥だとは思えなくなる。俺と近しい。かけがえのない存在。二つとない、片割れのような感覚。

 

「赤黎、セキレイか、ふ、ふふふ」


 赤黎はそういって何度も首を振った。


「すまん。気に入らなかったか?」

「いや、いやいやいや。そうではない。そうではないのだ。気に入った。我は気に入ったのだ」


 ばさりばさりと赤黎は翼をはためかせる。


 次第、その姿がどんどんと鮮明になっていく。これまでは赤い鳥だとしか見えていなかった赤黎の姿が変わっていくんだ。まずその朱の鮮烈さが目を引く。羽毛の間に揺れる金の羽根が数筋。その先から炎が吹きあがる。赤黎が、はためくと火の粉のようにあたりに光が満ちていった。


「そうだ。我は、鳳凰、赤黎セキレイである。ああ、いと高き我が名だ。思い出した。思い出したよ我が何故なにゆえ忘れていたのだろうな」


 俺から生まれた赤い鳥、鳳凰であり火の鳥である赤黎がそう告げる。


 天啓オラクルがあった。だから赤黎が生まれた。

 だが、それだけじゃない気もする。赤黎の事は昔から知っているような、そんな懐かしさがある。


「我は暁を告げる一番鳥。黎明の使者。原始の炎を纏う鳳凰にしてこの『盤天ばんてん世界』を照らすもの。すべて奪われ失われ、消え去った末の、この無垢なる世界に、今一度光をもたらさん」


「お、おい赤黎。大丈夫か? なんか興奮してないか?」


「くかか。まだ名もなき我が。分かたれし二つ身。共に世界に黎明を与ええようぞ。来い!」


「え、な、お、うわぁ!?」


 いうが早く赤黎は俺の背中の衣服をそのくちばしでつまみ上げ空高く飛翔した。


 最初は、肩に止まれる程度だった赤黎の身体は、今や巨大な大鳥に変わっている。そんな赤黎に摘まみ上げられた俺は、軽々と中空に持ち上げられたのだ。


 バサリバサリと赤黎が羽ばたくと、大地がぐんぐんと離れていく。白一色の大地にキューブだけが取り残されているのが見えた。


 まて、待て待て待て!

 これは、高い。とてつもなく高いじゃないか!


「せ、赤黎。何をする気だ! どこへ行く!?」


「どこへ、とは奇異な事を問うな我が背。私は思い出したのだぞ。この世界をあるべき姿に戻すのだよ。そら、我が背もいつまでも子猫のようでは恰好が付くまい。我の上に移るがいい」


「お、おい、何を――う」


 赤黎がぶんと俺を投げる。一瞬の浮遊感で叫びそうになったが、落下の心配は無かった。気が付けば俺は赤黎の背に乗っていたのだから。


 赤黎の背中から見る世界はやはりどこまでも真っ白だった。


「この白い世界にも飽いたろう。ゆくぞ我が背、世界を照らすのじゃ。いざや!」


 ケ―――――ン!!


 それは鳴き声だった、と思う。

 あまりにも大きく、高く、遠くまで響く一声だった。


 俺の耳どころか、世界そのものをつんざく赤黎が放ったそのひと鳴きは、漂白された世界の白を払っていく。


 霧に包まれた世界を、払暁が吹き払うように。真っ白なキャンバスにひかれた一筋の絵の具が、色とりどりの色彩を生んでいくように。


 今まで何もなかった世界が急速に色づいていく。


 それは世界の創世の瞬間だった。

 其れにより、どこまでも見通せる透き通った世界が俺の眼前に現れていく。


 まず空が生まれた。

 夜の闇が。狭間の青が。暁の赤が生まれた。

 次に星々と月と太陽が生まれ、大地を照らした。その大地は円盤なのだ。


「どうだ我が背よ。絶景であろう。ここが我らが世界『盤天ばんてん』である」

「ば、ばんてん?」


「そうじゃ。天地開闢かいびゃくより世界は空と地に分かたれた。だが地は徐々に崩れ去り、今では盤天を残すのみとなったのじゃ」


 赤黎が言うように、眼下に見える大地は平坦だ。

 盤天世界と呼んだか。なるほど、まさにばんのような世界だ。

 

 大地と海があり、山々もそびえるのだが、地の果てと言うべきものが見える。世界は丸く区切られ、果てというものが存在していた。海のある果ては大瀑布が生まれ、山々が位置する果ては巨大な崖になっている。


 あの海の水は落ち、どこへ行くのだろう。瀑布から放たれる飛沫が巨大な虹を作っていた。これが盤のような世界、盤天。区切られた世界だが、同時に途方もないほど巨大な盤だった。


「我は盤天の守護者であった。だが、どうやらそれすらも忘れていたようじゃ。うむうむ。思い出せてよかったぞ」


 赤黎は盤天世界を見下ろし満足そうに頷く。

 そしてゆるゆると下降していく。


「忘れていた? その言い方だとこの世界は前からあったんだな。それが何だか分からないけど、白い世界になってたという事か」


「いや。それは違うぞ我が背よ。今世界は確かに新たに作られたのじゃ。天啓オラクルを得て、我が背が選択し、と成った」


「よくわからないな。この世界は前からあったんだろ?」


「くくっ、そう思うか? 我の認識はそれでよいが、我が背がそうでは困るな。――そうさな。我はこの世界が太古より存在していたように認識しているが、未だことわりの外にある我が背は、そう見ない方がよいだろう。これからも世界を切り開かねばならぬのだから」


「切り開くって、どういうことだ。いきなりで何が何だかわからないんだが……」


「我は全知であるからな。我が背に課せられた使命も見えるのだ」


 うんうんとうなづきながら赤黎は、分かるような分からないような事を言う。


「そら、ひとまずは世界見物と行こうではないか。まずは盤天の中央。天津国あまつくにからじゃ」


「う、うわわ!?」


 赤黎が急加速するものだから俺は必至に羽毛にしがみついた。

 ぐんぐんと近づく大地には、瓦ぶきの建物が見える。


 まるで赤黎のような真っ赤な朱塗りの鳥居も見える。どこからか笛の音と、人々の喧噪が聞こえてきた。あれが赤黎のいう天津国あまつくになんだろうか。


 いまだ何も分からないけれど、どうやら俺には行き先の決定権はないようだ。

 せめて天津国あまつくにについたら、何を見たいか。何をするべきかぐらいは考えておいた方がよさそうだ。



 ◆システムメッセージ―――――――――――――

 あなたの鳥の名は「赤黎せきれい」だったNew

 あなたの世界は和風ファンタジーの世界だったNew

 あなたの世界はさらに、平面世界だったNew


 あなたは盤天世界の中央に存在する和風の国家、天津国あまつくにに降り立つ。どうやら天津国は赤黎せきれいにとっても縁が深い土地であるようだ。


 天津国では祭りの最中。出店が出て、囃子はやしが鳴り響いている。

 あなたはそこで何をするべきだろうか? とりあえず食事を取るのもいいかもしれない。また、赤黎が何者であるのかも気になる。もっと質問してみてもいいだろう。あなたは自由なのだから。

 ――――――――――――――――――――――――


 (気になること、こうしてほしい事など、コメント欄に自由に書き込んでください。その情報によって、世界が変化していきます。また書かれた事がすべてそのまま反映されるわけではありません。長文でも、短文でもなんでもかまいません)


(次回更新は、6月30日13時ごろです。)

(コメントがなくとも、それ相応の展開が進んでいきます)


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