第15話 特別テスト『五異霧中』⑥

 4月3日(水) 16時30分




 再度カフェにつくと松風が中で待っていた。


 俺と蓬莱は注文をせずに席につく。




「さっきぶりだね。何も注文しないの?」




「ほんの少し前までここでお茶してたからな」




「せっかく何かごちそうしようと思ったのに」




「この店で一番高いコーヒー持って来い!サイズはトレンタだ!」




「お洒落なカフェでそういうのは止めてくれないかな?あとトレンタは日本にない」




 仕方がないのでいちごフラペチーノにする。




「今度はピッコロ大魔王の血みたいね」




「なんでマジュニア時代の話するんだよ。世間ではピッコロの血は紫だ」




 絶妙に飲む気が失せる単語を出してきやがる。


 次なにか言われたら魔封波まふうばしてやる。




「さっきまでデートしてたのかい?」




「桜橋と話してたんだ」




「桜橋ってアイドルの?」




「あぁ。やっぱ知ってるよな」




「日本に住んでたら知らない人はいないんじゃないのかな。何の話してたの?」




「アンパンマンだな」




「アイドルと話すことがそれかい?」




 俺もどうかと思う。




「蓬莱も桜橋もノリノリだったぞ」




「アンパンマンの話から築山くんの性癖について話してたよ」




「どういう会話の流れをしてるんだ?」




「ポロロッカを参考にしてみた」




 あれ?


 性癖の話なんかしたっけな?




「アンパンマンは美味しいのかなって姫乃と話してたら、築山くんが『俺はメロンパンナちゃんの硬い部分だけかじりたいなぁ』とか言い出したの」




「うわぁ……」




「俺はそんなこと言ってないんだが。風評被害が過ぎるぞ」




「カレーパンマンとキスしてカレー全部吸い出してやるとか」




「中々にディープな性癖だね」




 キスだけにってか?


 やかましいわ。




 カレーパンマンとのベロチューを想像できた自分が悲しい。




「クリームパンダの指先たべてグーしか出せないようにしてやるとか」




 あいつは大抵グーで攻撃だし問題ないだろ。




「行幸くんはそういう人なんだね……」




「俺は何も言ってないのに評判だけが悪くなっていく」




「そしてアンパンマンの体を破壊しろと野次を飛ばすタイプ」




「ドーリィも真っ青だね」




「この学園では劇場版アンパンマンが必修なのか?」




 なんでみんなアンパンマンの映画観てるんだ?


 コロナのせいなのか?




「築山くんは大抵の作品に野次を飛ばしてるよ」




「迷惑なやつだ。根っからのクレーマーなんだね」




「ポケモンバトルでトレーナーに攻撃しようとするし」




「小学生から感性が変わってないのか」




「さっきから俺は何も言ってないんだが!」




 俺いじめられてるのかな?


 この学園きらいになりそう……。




「性癖だけは一丁前に歪んでいるから変態。間違えた、大変」




「その文章ならどっちでも意味は変わんねぇよ!」




「メタモンをマリィにへんしんさせて、Hなことしたいって言ってた」




 それに関しては思ってるから否定できない……。




 蓬莱のやつ言いたい放題言いやがって。


 一晩中部屋の前で恋のマイアヒ歌ってやる。


 今夜は寝かさねぇぞ。




「それで何の用なの?」




「ヒントも出たし少し話したくてね。それにさっきまで桜橋さんと一緒にいたってことは、何かしらあったんだよね? それについても聞きたいな」




 俺は松風に桜橋との出来事を話す。




「そうか。桜橋さんと取引したのか」




「最大限の成果を得たつもりだ」




「そうだね。HPこそ少し減ったものの、得たMPはそれ以上だ」




 俺と蓬莱は毎日13000MPが手に入ることになる。


 この3000MPの差は、1年で100万MPに差にもなる。


 ボーナスポイントも含めれば、特別テストで得たMPは150万ということになる。




「松風はどうするつもりなんだ?」




「僕はリスクを負ってでもポイントを取りに行くつもりだよ。そのために君たちに聞きたいことがあるんだ」




「なんだ?」




「君たちのヒントを教えて欲しい。それと蓬莱さんのチームも」




 俺たちは投票されることもないのでデメリットはない。


 松風に恩を売れるなら無料で情報を渡しておくのもいいだろう。




「俺のヒントはチーム1と5だメンツも言おうか?」




「よろしく頼むよ」




 俺はヒントに乗っている人たちを読み上げる。




「僕と同じみたいだね。他クラスで違うなら簡単だったのに」




「さすがにそう甘くはないだろう。次は蓬莱の番だぞ」




「私はチーム1。ヒントはグループ2と3。チームメイトは……」




 蓬莱もヒントに記載されている人物を述べる。




「なるほどね。だんだん分かってきたよ」




「やっぱりこれには規則性があるのか?」




「やっぱりってことは気付いてたんだね」




「松風の行動を考えたらそこに辿り着いたんだ」




「へぇ。気になる?」




「まあな」




 テストが終わった身からすれば、なぞなぞの答え合わせみたいなものだ。


 つまり気になる。




「まずはチーム分けについてだけど、これはテスト期間だし説明しないでおくよ」




「チーム分けにも規則性があったんだな。てっきり他クラスに協力者でもいるのかと思ったよ」




「協力者は今のところ君たちだけだよ」




 勝手に松風のことを疑ってしまったようだ。


 反省しなければ。




「僕はチーム分けの規則は判ったけれど、チーム番号までは判らなかったんだ」




「だから他クラスである俺たちのチームを調べて、チームの規則性を見つけようとしたんだな」




「御名答。まぁ初めからある程度予想はついてたんだけどね」




「俺がグループ4だと当てたのもその予想か?」




「うん。行幸くんは2チームまで絞れてて、蓬莱さんへの質問の結果、間違いなくグループ4だと判った」




 確信を持って当てられていたみたいだな。




「蓬莱さんはグループ1か5だと思っていたんだ。2択を外しちゃったけど」




 それでも2分の1までは絞れているんだ。


 規則性とやらは確かにあるのだろう。




「ちなみにその規則性とやらはどのくらい判っているんだ?」




「予想してた通りだからほぼ100%かな。あと1人調べたら確証が持てるね」




「これから松風は他のクラスに聞きに行くのか?」




「そうしようかなと思ってるよ。それと僕のクラスの『東屋くん』とも話してみようかな」




『東屋十果』


 Cクラス1位。


 学年ランキング3位。


 日本最大の農業法人の十代目である。


 関東の農作物のほとんどは東屋の系列によって生産・販売されており、国内シェアに関しても70%を上回る。


 新種の農作物の開発に成功している。




 東屋か。




 確かランキング3位のやつだよな。


 松風は俺たちと同じくクラスの1位と協力するつもりかも知れない。




「そうか、俺たちはそろそろ帰るとするよ」




「最後に教えてほしいんだけど、協力関係は考えてくれた?」




 松風には俺と蓬莱、3人での協力を持ちかけられていた。




「悪いが全面的には協力できないという結論に至った。今後の特別テストがどういう形式になるか分からないからな」




 クラスごとの対抗戦になる可能性だってある。


 そうなれば、必然的に協力関係は持てない。




「だが一部のテスト、お互いにデメリットがないなら協力できると思う」




「それで十分だよ。じゃあ今後ともよろしくね」




 松風はどこかへ行ってしまった。


 俺と蓬莱は再度カフェから寮へと向かう。






 ---移動中--- 商業エリア→寄宿エリア






 帰り道で蓬莱が切り出す。




「松風くん本当に98位なのかな?」




「それは思った。中学からの推薦枠にしてももっと高くていいはずだ」




 蓬莱が95位であるのに、松風の順位がそれより下というのは考えにくい。


 あの数列から規則性を見出すのは、この学園の生徒とはいえ並大抵の頭脳ではないだろう。




 事実、桜橋にすら分からなかった。


 特別テストにおいてこの裏技めいた攻略はおそらく学校側が意図した結果ではない。




「なにかしら理由があるのかな?」




「めちゃめちゃ貧乏とか?」




「前科があるとか」




 どれも否定はできない。


 松風と話すのは上位層と話すのと似た心地がする。




 それは俺たちと比べて、圧倒的に能力の差があるからだ。


 松風には葵や桜橋、彼女たち上位層と比べても遜色ないほどの余裕があるのだ。


 下位とは思えない、そもそも俺たちと立っているステージが違う。


 あいつからはそんな印象を受ける。




「あいつ何者なんだろうな」




「学校側のスパイだったりして」




「絶妙にありえそうだな」




 あらかじめ規則性があると伝えられていれば、それを解き明かそうとするのも納得できる。




「試験のことで一つ思ったんだけど」




「なんだ?」




「お互いのチームメイトを公開するってやり方って、互いに定期送金を設定したあとだったら可能かな?」




 蓬莱が言いたいことはこうだろう。




 まず互いにそれなりの金額、仮に5000MPの定期送金を互いに設定する所からスタートする。




 そこからお互いのチームメイト3人を教え合う。




「結論からいうと不可能ではない」




「だよね?私は天才だったのか」




「だが欠点がある」




「むぅ」




 片方が定期送金の設定をせずに、話を無かったことにするという可能性がある。


 同時に設定をすることなど出来ないからだ。




 それならば互いのスマホを交換し、それから自分の名前に定期送金をすればいいと考える人がいるかも知れない。




 だがそれは不可能だ。


 定期送金の設定の最後には、相手のスマホに表示されるQRコードを読み取る行程がある。


 これを同時に行うことができないからだ。




 もし何らかの方法でその問題を解決し、互いに定期送金を完了させたとする。


 それでもなお問題は残っている。




 取引自体は無事に進んだとしても、結局お互いに投票する可能性が残る。


 定期送金を解除する前後に関わらず、投票をした方が有利になるのに変わりはない。




 だが説明が面倒なので蓬莱には黙っておく。




「俺なら取引は受けないだろな」




「いい考えだと思ったのにな」




 互いを信用しない限り、この特別テストは攻略できない仕様なのだ。


 それはどれだけ工夫しようと変わらない。




 蓬莱の着眼点は良かったと思うがな。




「結果発表は夜中だね。このあとはどうするの、解散?」




「今日はもう解散でいいんじゃないか?色々あって疲れたし」




「そうだね。また明日」




「おう。じゃあな」




 2人は別れ、各々自室へと帰った。




「試験結果は0時か。起きてても仕方ないな、朝に確認しよう」




 そうして初めての特別テスト『五異霧中』が終わった。






 4月4日(木) 8時00分




「はぁ〜よく寝た」




 昨日は特別テストということもあり、心身ともに疲れていたのだろう。


 お陰様で少し寝過ごしてしまったようだ。




「ん?アプリから通知が来てるな。結果発表のお知らせか」




 俺はアプリを起動して、特別テストの結果を閲覧する。




『Eクラス 成功回数16回 失敗回数2回』




「この16回の成功は桜橋のことだよな。2回の失敗は俺と蓬莱か」




 昨日の時点で分かってはいたが、俺たち以外に投票を行った者はいないということだ。




「作戦は無事成功だな」




 自分たちの作戦が何事もなく終わったことに安堵する。




「ん?他のクラスの結果も見れるのか」




 アプリをよく見ると他クラスの結果も閲覧できることがわかった




「Aクラスはどうだ?」




 葵のいるクラスなので、結果が気になってしまう。




『Aクラス 成功16回 失敗0回』




 この結果だと1人が全員を当てた可能性が高いだろう。




「こんな事ができるのは葵くらいだろうな」




 俺は葵に絶対の信頼を置く。


 だから、Aクラスの結果は葵が引き起こしたことだと確信を持っている。




 続いてBクラスを見る。




「Bクラスは投票0。まぁ普通か」




 基本的にクラス首位の者以外はMPを優先するはずだ。


 互いにMPを求めれば、相手に裏切られる可能性かある。




 つまり首位の者が関与しない限り、このテストで何らかのアクションを起こすことすら難しいだろう。




「Bクラスの首位は動かなかったということだな」




 Cクラスを見たいところだが、お楽しみは最後に取っておくタイプだ。


 先にDクラスを見るとしよう。




 Dクラスも投票は0であった。




「思っていたより、誰も動かないな」




 最初の特別テストだからか、様子見なのかは分からない。


 そして俺はお待ちかねのCクラスを見る。




「おいおいマジか?」




 そこには目を見張る内容が書かれていた。




『成功回数16回、失敗回数0』




 Aクラスのときと同様、複数人が投票した結果16人になったというよりは、1人が全員に投票したと考えるほうが自然だろう。




 Cクラスの首位、東屋という男はそんなに頭がキレるのだろうか。


 それとも別の人間の仕業か。




 もしそうだとすると、思い当たる相手は1人しか浮かばない。




「松風……」




 俺たちがクラス首位含めて3人がかりで得たものを、クラス最下位から1人で得たというのか。


 松風にせよ東屋にせよ、葵と同等の頭脳を持っていることに違いない。


 敵に回らないことを祈るのみだ。

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落伍者の烙印 ~卒業率20%以下の学園でランキング最下位から成り上がる~ 山本なでしこ @yamamotonadeshiko

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