第14話 特別テスト『五異霧中』⑤

 4月3日(水) 15時30分


「これで私たちの特別テストは終わりだね!お疲れ様♪」


 桜橋との取引により、Eクラスは今後誰も投票できなくなり、100万MPのボーナスも確定で手に入ることになった。

 初めての特別テストは大成功に終わった。


「じゃあこれで解散か?」


 テストについて考えることもなくなったし、部屋で一人になりたい気分なんだよな。

 ポケットに手を突っ込みながらそう考える。


「せっかくだからお話しようよ!若菜ちゃんもいいよね?」


「私も築山くんも暇だからいいよ」


「俺は何も言ってないけどね」


「何か予定でもあるの?」


「この後は部屋に戻ろうかと……」


 ポケットに突っ込んだまま中にあるものを握りしめる。


 言えねぇよな。

 蓬莱のパンツをまた拝借したなんて言えるわけがねぇ。

 蓬莱だけならいざ知らず、天下のアイドルの前だ。

 盗んだパンツを堪能するなんて言えねぇよ。


 早く部屋に戻って安心したかった。

 それまで手のひらに感じるこの布をバレないようにしなければ。

 いっそ履くか?

 トイレで履いてくるか?


「用事はないんだよね?暇なんでしょ?」


「暇です」


「じゃあお喋りしようよ!」


「はい」


 仕方がない。

 しばらく付き合うとするか。


「良かった〜!まず聞きたいんだけどさ、2人はどういう関係なの?」


「俺と蓬莱は隣の席だ。昨日話して協力関係をもつことにしたんだ」


「へぇ〜、出会ったばかりなんだ!てっきり付き合ってるのかなって思ったよ♪」


「さすがにこんな破廉恥男ハレンチマンと付き合うのは、黒歴史になりそうだし嫌だ」


「誰がハレンチマンだよ。アンパンマンの仲間か」


「どう考えても敵サイドでしょ。ジャイアントベアリングロボといい勝負」


「なんでバイキンマンが本気出した映画のときの敵なんだよ」


 パン工場を燃やしたりアンパンマンを火の海に飛び込ましたりする有名映画だ。

 本気のバイキンマンが見たい人におすすめだ。


「わたしはデビルスターあたりがいいと思うな♪」


「歴代最強キャラじゃねぇか。スターライトアンパンマンじゃなきゃ勝てねぇよ」


 有名アイドルが劇場版アンパンマンを観てるとは思わなかった。


「アンパンマンに出てきそうな人とは付き合えないよね」


「それについては俺も同意だが、俺がアンパンマンに出そうなのはお前の偏見だぞ」


「築山くんは彼氏にするには変態が過ぎるから……2回去勢したら考えてもいいかな」


「2回目はどこ!?これ以上何を奪うというんだ!?」


 ウシジマくんもびっくりの取り立てだよ。


「マジメな話をすると、さっきお金を払うときに手間取ってたところが嫌かな」


「そういうガチなのは傷つくからやめて欲しいんだが」


 カフェに入ってすぐ、注文したときのことだろう。

 自覚はある。


「男の人ならスマートさは大事だよ?」


「さっきのは初めてスマホで支払いしたから仕方ないと思うんだ」


「そういえば学食は無料だし使ったこと無いね」


「だから支払いのときになんていえばいいか分からなかったんだよ」


 ポイントで!っていうのも違うと思うんだよな。


「MPでしか払えないんだから特に言わなくていいんじゃない?」


「もしかしたら何とかPayとかあるかもしれないだろ?」


「可能性はなくはないけど……なら何Payになるの?」


「支払いのときに考えてたのはOPayだな!」


 店員さんのお◯ぱいでかかったし!


「ごめんね、こいつこういう人間なの」


「あはは……そうなんだ」


「支払いのときは『パイパイ!』って言うんだ!」


「アイドルの前なんだから少しは自重してよ」


「使えば使うほど楽チンなポイントが貯まるんだ!」


 チ◯ポイントと呼ぼう!


「少し声抑えてくれないかな?恥ずかしくなってきた」


「これ以上変なこと言うなら通報するからね」


 女子2人はご機嫌斜めなご様子だ。

 体調が悪いのかな?


 仕方ないからこれ以上はやめておいてやろう。

 なぜなら俺は紳士だから。


「話を変えようか♪若菜ちゃん、なに飲んでるの?」


「私は抹茶クリームフラペチーノ。姫乃は?」


「わたしはキャラメルフラペチーノだよ!築山くんは?」


「俺はピンクフルーツチアアップとかいうやつだ。期間限定らしくてな」


 見た目は名前の通りピンク色で桃味かと思いきや、ホワイトグレープやレモンを合わせた爽やかで甘酸っぱい味が特徴だ。


「へ〜!美味しそうだね!」


「だろ?一口飲んでみるか?」


「あっ、それはやめとくね」


 なんだか警戒されているようだ。

 別にストロー舐めたりしかしないのにな。


「蓬莱はどうだ?」


「ちょっと見た目が好きじゃないかな」


「そうか?桃ジュースって感じだけどな」


「プルシュカみたいで」


「お前それだけは言っちゃいけねぇよ」


 倫理観どこに置いてきたんだ。

 カレー食べてるときにう◯この話をするのと同じくらい良くない。

 友達が言ってたら縁を切るか悩むレベルだ。


「こぼしちゃダメだよ」


「急に飲む気が失せてきた」


 何とかすべて飲み干すことに成功する。


「全部飲めたんだ」


「なんと……なんと素晴らしい……」


「なんでボンドルド卿までいるんだよ。ここ五層なの?」


 それで桜橋はなんでメイドインアビスも観てるんだよ。

 アイドル暇なの?

 度し難い。


「そういや姫乃はどうしてアイドルになったの?」


「初めは子役だったんだ!物心つく前からやってたから理由とかはないかな。大きくなるにつれて子役に飽きてきて、そこからアイドルに転職って感じ♪」


「アイドルは楽しい?」


「正直子役のときより忙しくて大変だよ。でもそれ以上に楽しみがあるんだ!」


「何十人もいるグループで不動のセンターだもんね。私ならプレッシャーに耐えられない」


「センターでいることにはプレッシャーよりやりがいを感じるかな!」


「これが一流の人かぁ」


「センター争いは楽しいからね!新しい子が入るとよく起きるんだけど、すぐ辞めちゃう子が多くてね……」


「学園を卒業したらアイドルに戻るの?」


「どうだろう。今のところ戻る気はないかなぁ」


「それは意外だな。どうしてだ?」


「単純に飽きちゃった。もう一生暮らせるだけのお金はあるしのんびり過ごすよ」


 何かの番組で芸能人の年収を発表していたのを観たが、5000万は超えていた気がする。

 既に数億円の貯金があってもおかしくはない。


「ヒモにしてくれないかな」


「ホモにしてくれないかな?松風くん呼ぼうか?」


「聞き捨てならないな。松風はホモなのか?」


「少なくとも私の中では」


 これだから腐女子は。

 すぐに何でも結合させたがる。

 アルゴンを見習え。


「若菜ちゃんは卒業したらどうするの?」


「私はいい会社に就職したいと思ってる。私は有名人とかじゃないから」


「この学園に入ったなら就職先なんて選び放題でしょ?」


「うん。だからブラック企業とかは避けたくて、理想はパープル企業かな」


「冠位十二階かよ」


 労働環境が悪いからブラック企業なんだよ。

 紫が上で黒が下とかそういうことじゃねぇんだよ。


「築山くんは卒業したらどうするの?」


「俺は……何をするんだろうな」


 葵と結婚したいと考えて入学したが、それからのことはさっぱりだ。


「やりたい事とかないの?」


「強いていうなら誰もしたことがないことをしてみたいかな」


「いいね!例えば?」


「おち◯ちんチャンバラとかかな。目標はオリンピック競技にすること」


「キラにこいつの名前書いて貰おうよ」


「コンソメ味のポテチ買ってくるね♪」


 女子たちから冷めた視線を感じる。

 これがれいとうビームか。


「落ち着いてくれヒメヒメ」


「ミサミサみたいに言わないでくれるかな?」


「た……頼む蓬莱!もうお前しかいないんだ!」


「いや、死ぬのは行幸おまえだ」


 俺は新世界の神になれなかったようだ。


「聞かれたことに答えただけなのにな」


「回答が悪いのよ」


「わたしはそろそろお暇しようかな♪築山くんといると変な目で見られるし……」


 下ネタを過度に言うことで早めの解散を促す。

 計画通り。


「姫乃、ごめんねこんな奴連れてきて」


「別にいいんだけど、人の多いところだとちょっと……ね?」


 会って1時間でかなり嫌われてしまったようだ。

 桜橋が帰るということなので俺たちも席を立つ。


 帰り際テーブルを拭くときに、ポケットから水色の布を取り出してしまったことで一悶着あったのは言うまでもないだろう。


 俺と蓬莱は各々の部屋に帰るつもりで寮へと向かう。

 少し歩くと俺の携帯に電話がかかってきた。

 液晶には松風と映っている。


「松風か……どうした?」


「あれから進展はあるかなと思ってね。ヒントも出たことだし少し話をしたくて」


「俺は構わないが……電話か直接会うかどっちがいい?」


「できれば直接会いたいところだね。蓬莱さんも一緒に」


 横にいる蓬莱に尋ねる。


「今から松風と会うんだが来るか?」


「今日くらいは付き合ってあげるよ」


「感謝する」


 俺は松風に返事をする。


「蓬莱も来るそうだ」


「よかった!じゃあカフェで待ってるから」


 またあそこか……

 次は違うメニューにするか。

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