第12話 特別テスト『五異霧中』③
4月3日(水) 13時40分
本日2度目の蓬莱の部屋だ。
「もはや自分の部屋といっても差し支えないだろう」
「差し支える。支障でしかない」
「ベットは使っていいからさ。俺は床で十分」
「床も使わないでくれるかな。どうしてもっていうならコンロの上か冷蔵庫」
「焼死か凍死しかないのか」
轟くん呼んだ方が早そうだな。
「ステーキかアイスどっちがお好み?」
「どちらもいらないです」
焼かれるのも凍らされるのも嫌だ。
というか何で殺される前提なのだろうか。
「じゃあ餓死して」
「容赦がないな。少しくらい出迎えてくれよ」
「ごはんにする?お風呂にする?それともわたし?」
「お風呂にした場合は?」
「もちろん溺死するよ」
「そんな気はしてた。だから俺はお前を選ぶ」
「選んでくれてありがとう。そんなあなたは焦死させるね」
「おまえは攻略不可のキャラなのか」
アマ◯ミの先生ルートかよ
「試しに攻略してみる?詰むよ」
「しねーよ。協力相手で十分」
あいにく俺には徳川葵っていう、心に決めた人がいるんでね。
「残念。ちょっとくらいならしても良かったのにな」
「なにを!?ナニをですか!?」
「判断が遅いよ」
「くそぅ!」
俺に鱗◯さんがついてればこんなことには……。
「それで松風くんについてなんだけど」
「あのビンタしたくなるくらいのイケメンか」
「とりあえず◯滝さんから離れようか」
「で、あいつがどうした?」
「あの人と何を話したか教えてくれる?」
「わかった。じゃあ話すぞ」
俺は松風とした会話を蓬莱に話す。
チームが同じということ。
クラスごとのチーム分けが同じこと。
俺たちと協力関係を持ちたいということ。
一通り話すと蓬莱は口を開いた。
「とりあえず最後まで聞いてみたけど……1ついいかな?」
「なんだ?」
「私と松風くんも同じチームなんだけど」
は……?
「そんな訳ないだろ?なら俺と蓬莱が同じチームじゃなきゃおかしいだろ」
「それが気になってたの。築山くんとは違うチームのはずだし」
「どういうことだ……?」
俺と蓬莱のチームが違う時点で松風が嘘をついているのは確定だろう。
ならば、なぜチームやチームメイトが判った?
「私は初めにチームメイトを当てられたよ。それで全員同じだった」
「つまり松風は少なくとも2グループ以上のチーム分けを知っていることになる」
「他に協力者がいるのかな?」
「それはあり得なくはないが……お互いのチームメイトを全部話せるくらいの協力者なんて出来るか?」
「学園に来る前からの知り合いとかならできるんじゃない?あとは他のクラスの協力者とか」
他のクラスの協力者?
それだ。
「確かに各クラスからグループが被らないように5人集まれば全員のグループがわかるな。それならもう全員が投票されててもおかしくないぞ……!」
投票機能を確認する。
しかし、まだ誰にでも投票できるようだ。
「まだ投票はされてないみたいだね」
「だが投票は時間の問題だろうな」
「本当にそうかな?」
「どうした?何か気になることがあるか?」
「正直さ、こんな誰でも思いつきそうな方法を、学園側が用意するとは考えにくいんだよね」
「それはそうかもしれないが……」
日本が誇るこの吹雪学園。
そこで行われる特別テストが、簡単に気付かれるような必勝法を残すとは思えない。
「それに私のチーム番号を松風くんは当ててないよ」
「チームメイトは当てられたが、チームは当てられてないってことか?」
「そう。だからチーム番号はおそらくクラスごとにランダムなんだと思う」
それなら筋が通る。
各クラスに協力者がいてもわかるのはチーム分けまで、肝心のチーム番号はわからない。
「番号はランダムじゃなくて規則性でもあるんじゃないか?」
クラスは5クラス存在し、チームも5チーム存在するのだ。
ならば、バランス良く振り分けられていると考えるのが一般的だろう。
「そうかもしれないね。でもその規則を解くのは簡単じゃないと思うよ」
「全クラスのチーム番号がわかればできるかも知れないがな」
もしそんなことができたとしても、自分のクラスのチーム番号を当てる方が簡単だろう。
松風が俺のグループを当てたのは勘だったみたいだしな。
「そういや結局あいつはどのグループなんだ?」
「松風くんの出席番号を調べてみたけど、彼は19番みたいだね」
「なら俺に話したことは嘘みたいだな」
あいつは出席番号を17番と偽っていた。
それは俺のチーム分けを知っていたことに他ならない。
「結局あいつは他のクラスに協力者がいる可能性が高いんだよな?」
「うん。じゃなきゃ2グループ以上のチームメイトがわかっているのはおかしいもん」
「もしもの話だが、チーム番号とチーム分け、両方に規則性があるとしたら?」
「チーム分けにも?特になさそうだけど」
「そうだな。マジでバラバラだ」
正直なところ規則性があるようには見えない。
「考えたけどわかんないや」
考えるだけ無駄だろうな。
「それより桜橋との交渉がどうなるかだな」
交渉内容は既に考えているが、断られた場合のことも考えないとな。
「私たちでチームメイトを教え合うのはダメなの?」
「それができれば万々歳なんだがな。それはやめておこう」
「どうして?」
「俺が蓬莱に投票しない確証がないだろう」
お互いのチームメイトに投票するより先に相手に投票してしまえば、相手に投票される心配はなくなる。
そのうえ500HPも手に入るのだ。
相手を裏切るのは簡単だ。
だが今回の特別テストで裏切るよりも協力関係を持ち続けた方が、今後のテストで有益になるだろう。
だから信頼関係を持ち続けるためにも、今回は互いを怪しむようなことは控えるべきだ。
「それに教えられるチームメイトが嘘の可能性もある」
「結局この偽造システムとやらがある限り、協力はできないんだね」
とどのつまり俺たちができることなんて限られている。
「俺たちにできることは3つだ。1つは規則性を解く。これは本当に規則があるのかも分からないし解けることもないからパス。そして2つ目はクラスメイトのチームを探る。正直これも難しいだろうな」
「最初からこのゲームで出来ることは1つだけだね」
「ああ。3つ目、桜橋という協力者を得て100万MPを獲得する」
初めから答えに辿り着いていたわけだ。
「ちょうどいい時間ね。そろそろ桜橋さんとの待ち合わせに向かわなきゃ」
「もうそんな時間か」
現在の時刻は14時45分
ここからカフェまで10分ほどのため、蓬莱の部屋を出る。
---移動中--- 寄宿エリア→カフェ
カフェに向かう途中に蓬莱に聞かれる。
「結局松風くんとは協力関係を持つの?」
「他クラスに協力者がいるのは良いことなんだが……はっきり言うとあいつは信用できそうにない」
「それについては同意かな」
少なくとも俺に対しては嘘をついていた。
蓬莱には本当のことを言っていた可能性もあるが、どちらにせよ信頼できる人間ではない。
「だがあいつは頭が回りそうな人間だからな。一部において協力しようとは思う」
「一部?」
「全部だと俺たちが利用される気がするし、情報交換がデメリットにならないテストのときだけ協力、みたいな感じかな」
「使えるときだけ使うってことね」
「セフレみたいなもんだな」
「もう少しマシな例えはできないの?」
「それはそうと桜橋にはさっきまでの話は黙っておこう」
「規則性があるとかの話?」
「あぁ、俺らには分からないだけで上位層のやつらは見たら分かるかもしれない。クラスメイトにわざわざヒントを与えることはないだろう」
「りょーかい。それで協力って何をしてもらうつもりなの?」
「決まってるだろHなことさ」
「私が思わせぶりなことしたから……」
「HPを渡す代わりにモミモミさせて貰うぜ!」
「それで実際のところは?」
「こういう作戦を立てている」
蓬莱に作戦を説明する。
「なるほどね。私はそれでいいよ」
「助かるよ。あとは桜橋との交渉だな」
話しているうちにカフェにつく。
そこには桜橋姫乃の姿があった。
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