第11話 特別テスト『五異霧中』②

 4月3日(水) 12時00分




 学食にて蓬莱と昼ご飯を食べる。




「そんなんで足りるのか?」




「女の子だからね」




「別に遠慮しなくてもいいんだぞ」




「本当に少食なだけだよ、運動とかしないから。そういう築山くんは食べ過ぎな気がするけど」




 俺の前には定食が2つとおやつ代わりの揚げ物たちがある。




「無料なら食べれるだけ食べたくならない?」




「気持ちはわかるけど……4月の間は無料なんだからさ。あと1ヶ月も続ける気?」




「まあな。だから蓬莱ももっと食え。俺のフランクフルトやるよ」




 そういって俺はフランクフルトを押し付ける。




「こいつは無意識でセクハラしてるのかな」




「もちろん意図的だ」




「ほんと死ねばいいのに」




 歓談を楽しむうちに食事が終わる。




「えらいな。ちゃんとテーブルを拭くんだな」




「まあね。他の人も使うものだしね」




「いい心がけだな。俺も真似してみるか」




 そういって俺はポケットから布を取り出す。




「ちゃんとハンカチ持ってるんだね」




「さっき蓬莱の部屋で拾ったんだ」




「私は水色のハンカチは持っていないけどね。とりあえず返してくれるかな」




 そういって蓬莱に彼女のパンツを返す。




「俺が拾ったんだから俺のものだと思うんだが」




「遺失物横領罪ってのがあるんだよ。そもそも私の部屋に落ちてたならただの泥棒だよ」




「俺は別にいらなかったんだがな。パンツちゃんが『私も一緒に連れてって』って俺のポケットに入り込んだんだよ」




「私のパンツちゃんは喋らないし、勝手にポケットに入るような子じゃないよ」




「パンツがひとりでに動くのは否定しないんだな」




「寝る前は履いてたのに、朝起きたらパンツちゃんがどっか行ってることが多々あるから」




 なんだそれは。


 俺の部屋に迷いこんでないかな。




「起きてるときにもたまにあるんだよね」




「え、お前今ノーパンなの?」




「どうだろう。気にしてないや」




「それによって露出狂に認定されるのはお前だぞ。安心しろ、俺が確かめてやる」




「見たら先生にパンツ盗ったの言うからね」




「すみませんでした」




 下手したら歴代最速の退学者になってしまう。




「まぁ起きてるときは冗談だよ」




「寝てるときは本当に脱げるんだな」




「締め付けられてるのか苦手なんだろうね。夏場は裸で寝ること多いし」




「けしからん! 実にけしからんのである!」




 前◯圭一みたいなことを言っていると知らない男に話しかけられる。




「君たち少しいいかな?」




 やや長髪の後ろで短めのポニーテールを作っている男が話しかけてきた。




「今回のテストのことで聞きたいことがあるんだけど……僕はC組の『松風 響まつかぜ ひびき』。よろしくね」




『松風 響まつかぜ ひびき』


 C組所属。


 紫色の髪のイケメン。


 ほんとどうしようもなくイケメン。




「俺はE組の『築山行幸』だ。ちなみにランキングは100位だ」




「よろしくね。僕は98位なんだ、下位同士これからも仲良くしてくれると嬉しいよ」




「私はE組の『蓬莱若菜』。ランキングは95位」




「初めまして。よろしくね」




 そういってイケメンスマイルをぶつけてくる。


 男としては非常に不愉快である。




「それで何の用だ、テストはクラス間での争いだろ?」




「ひとつ気になることがあってね。若菜さん、少し2人で話せないかな? その次は行幸くんとも話がしたいんだけれど」




 気軽に下の名前で呼びやがって。


 蓬莱も名前で呼ぶなとか言ってやれ。




「俺は構わないが……蓬莱は?」




「私もいいけど、下の名前で呼ぶのはやめてほしいな」




 よく言ってくれた。


 お前は最高の協力者だ。




「それは失礼したね、蓬莱さんと呼ばせてもらうよ。早速だけど、ついてきて来てくれるかな?」




「うん」




 蓬莱と松風はどこかへ行ってしまった。




「こうして1人残されると悲しいものがあるな。これがNTRか」




 あいつらみたいな美男美女はお似合いだと思うがな。


 それから10分ほどで2人は帰ってくる。




「話は終わったみたいだね。次は俺だな」




「それじゃあ行こうか」




 俺は松風の後ろをついていき人気のない場所へと連れて行かれる。




「それで聞きたいことというのは?」




「まず君の出席番号を教えて欲しい。調べれば分かることだから構わないだろう?」




 名簿を確認すれば簡単にわかることだ。


 さっき名乗ったばかりだから俺たちのことを狙って聞いたわけではなさそうだ。




「俺は11番だ」




「そうか!じゃあ君はグループ4だね!」




「……は?」




 こいつなんでわかった?


 カマをかけただけなのか?




「どういうつもりだ?」




 俺は最大限に警戒心を高める。




「そんなに睨まないで欲しいな。単にカマをかけただけだよ。ただその反応は当たってたみたいだね!」




「俺の情報を得てどうするつもりだと聞きたいところだが……1つしか浮かばないな」




 俺の情報を俺のクラスメイトに売る。


 違うクラスなのだから他に使い道がない。


 真偽の確かめようがないが、もし情報を得たクラスメイトのヒントに俺がいたら……そいつはおそらく投票をするだろう。




「安心して。君が思ってるようなことはしないと約束するよ。その代わりに一つ聞きたいことがある」




「俺の情報を売らないのか? 何を聞きたい」




「蓬莱さんの好物さ。彼女に一目惚れしてしまってね」




 こいつマジか。




「もちろん嘘だよ」




 どつき回すぞ。




「君のチームメイトの情報が欲しいんだ」




「なるほどな1人より4人分の方が価値があるものな」




「それはそうだけど、君のクラスに情報を売るわけじゃないよ?」




「なら何のために他クラスの情報を集める?」




「僕が知りたいのは各クラスのチーム分けさ」




 各クラスのチーム分け?


 そんなものが何になるというのか。




「信じてもらえるかは分からないけど、僕もグループ4に所属しているんだ。出席番号17番。君のグループにも同じ番号の人がいるんじゃないのかな?」




 アプリに記載されているチームメイトには確かに出席番号17番のやつがいた。




「確かにいる。他の番号も一致しているか確かめたいということか」




「話が早くて助かるよ」




「悪いがお前のことはまだ信用できない。だから俺から教えることはできない」




「残念だな。じゃあ僕が先に1人の番号を言うから、その人が君と同じチームならもう1人の番号を教えてくれるかい? 君は嘘さえつかなければいい」




 それさえ守ってくれれば情報を売ることはないと松風は言う。




 松風の提案は俺からみたら何も恐れる点がない。


 むしろこれで情報をクラスに売られないというのならありがたい限りだ。




「それならいいぞ。早速だが教えてくれ」




「交渉成立だね。僕のチームメイトには3番がいる」




 俺のチームメイトと合致している。


 おそらくグループ分けはどのクラスも同じなのだろう。


 問題は松風になんと答えるべきか。




 もちろん嘘をつくことはできるが、嘘をつくメリットは特に無い。


 なら相手との信頼関係を築くためにも本当のことを言うとするか。




「同じだ。残りのチームメイトは13番で合っているか?」




「うん、全員いっしょだね! これで色々わかったよ、ありがとう」




「一応聞いておくが、俺が松風の情報をCクラスに売るということは考えないのか?」




「もちろん考えているよ。そのときは仕方ないと思ってるけど、同時に大丈夫だとも思ってる」




「それはどうしてだ?」




「君と蓬莱さんの関係さ。2人で行動しているのにお互いに名字呼び。端から見てて出会ってからそんなに経ってなさそうだった。学園で出会ったのかな?」




 この段階でペアで行動している人間は少ない。


 事実、俺と蓬莱以外にはいなかった。




「協力関係といった言葉がよく似合っていたよ。まだ初めのテストだからそこに混ぜてもらえると思ってね」




「だから俺たちに声をかけたのか」




 松風から見た俺たちは卒業するために協力している2人。


 自分もそれに混ざれば今後が楽になる。


 まだ学園が始まって2日、わざわざ敵対するより仲間にした方がいいと思うのは必然だからか。


 既に協力関係があるならなおさら断れることは少なそうだしな。




「まぁ、そんなところだよ」




「少なくとも俺は松風と組むことに反対はしないが、蓬莱が組まないと言ったら組まない。それは理解して欲しい」




「もちろんさ。もし今後協力できないとしても、今回のテストだけはお互いの足を引っ張る真似はやめようね」




「お互いの情報を売ることはしないということだな。わかった」




「ありがとう。じゃあ蓬莱さんを待たせているから食堂に戻ろうか」




 松風との話を終え食堂に戻る。




「行幸くん、蓬莱さん、2人ともありがとう。これからも仲良くしてくれたら嬉しいよ」




 そうして松風はどこかにいってしまった。


 俺は蓬莱に尋ねる。




「これからどうする? 桜橋との約束まで時間はあるが」




 現在は13時30分。


 桜橋との待ち合わせは14時30分のため、あと1時間もある。




「一度部屋に戻ってもいいかな?」




「わかった。松風とのことを話すためだな」




「それもあるけど、とりあえずこれを片付けたい」




 彼女の手にはパンツが握られていた。


 ……申し訳ない。

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