第二の試験

第30話

第二の試験はすぐに始まった。

といっても、僕たち志願者にはその前にやらないといけないことがある。


慰霊碑までたどり着いた僕たちにルディウスさんが提示した次の試験の内容は「町の人間のために働く」というものだった。


正直に言えば、それを聞いた時僕は「え、それだけ?」と思った。


最初の時間を突破した他の志願者たちも戸惑った表情をしていたところを見ると僕と同じようなことを思ったのかもしれない。


「この第二の試験に制限時間はない。そして、合否を決めるのも俺じゃない」


ラディウスさんはそう言葉を続けた。

説明によれば、この第二の試験において合否を決めるのはルディウスさんでも、その他の冒険者でも、ギルド職員でもなく、「町の人たち」なのだそうだ。


試験のルールは単純で、僕たちは「仮冒険者」として町の人達の頼みを引き受けそれを解決する。

そして、町の人たちの指示を「評」という形でギルドに提出するしてもらい、その評が合計で十票溜まれば合格という扱いになるらしい。


仮冒険者の期間はその業務に制限はつくものの本物の冒険者と同じようにギルドで依頼を得ることができる。

ただ、その依頼を達成しても報酬は得られない。


僕たちが試験を受ける前に最初にやらないといけないこととは、依頼を受けるためにギルドのある町に帰ることだった。


「どうする?」


ルディウスさんの説明が全て終わるとトーヤが僕に聞いてきた。

「どうする?」とはつまり「すぐに町に帰るか?」という意味である。


日は落ち、森の中を歩くのは危険だがここにいる者はその危険を乗り越えてきたのだ。


急ぐのならすぐにここを出立した方がいいだろう。


事実、ルディウスさんの説明が終わるとすぐにいくつかのパーティーが慰霊碑から森へ引き返していった。


僕は少し悩み、それから答える。


「いや、今日は皆でここに泊まろう」


慰霊碑にはギルド職員が用意した宿泊用のテントと食事がある。


周辺の警戒は現役の冒険者がしてくれている。


町に戻るまでは今ここより安心して眠れる場所はないだろう。


僕たちは明らかに疲弊している。

他のパーティーほどではないとしても二日も歩き続け、戦闘もこなしてきたのだから無理もない。


もしもこの第二の試験に最初の試験と同じような時間の制限が設けられていたら僕はすぐに町に向かおうと言っていたかもしれない。


しかし、ルディウスさんはこの試験に制限時間を設けなかった。


報酬は貰えないが、ギルドで依頼を受けることはできる。

そしてそれは彼の説明をしっかりと理解できているとするならば僕たちが諦めない限りいつまでも続くということだ。


ならばここで無理に体力を消耗させる必要はない。


僕の提案にトーヤたちも納得してくれて、僕たちはこの日慰霊碑前に作られた冒険者キャンプに泊まることにした。


ギルド職員が用意してくれたテントは快適で、テントの中だというのにふかふかなベッドまで運び込まれていた。


人数分のベッドをどうやって迅速に運んだのか気にはなったが、その柔らかいベッドに包み込まれただけで何も考えられなくなる。


「明日は……町に……」


どのようなルートで町に戻るか、戻ってからどう行動するか。

考えなければいけないことは沢山あったが、僕は抵抗することもできずに襲ってくる睡魔に敗北した。


翌朝目が覚めると残っている志願者パーティーは最初の試験を合格した総数の半分以下になっていた。


日はすっかりと昇ってしまい、現役の冒険者の数は少ない。

志願者たちの寝食の世話をしていたギルド職員の数も減り、彼らも帰り支度を初めているところだった。


「寝過ごした」


その事実を認識して僕は慌ててトーヤたちを探す。


彼らは焚き火を前にして職員の用意した朝食を食べているところだった。


「ごめん、皆! 寝過ごした」


僕が慌てて謝罪すると三人ともキョトンとした顔で僕を見つめる。


硬めのパンを口いっぱいにほうばり、それを山羊のミルクで無理矢理流し込んだトーヤが


「おはよう」


と呑気に笑った。

ルーナもシキも怒っている様子はなく、まったりと落ち着いた雰囲気で朝食を楽しんでいるようにしか見えない。


「なんか、のんびりしすぎじゃない?」


てっきり寝坊を怒られると思った僕は思わず拍子抜けしてしまう。


「まぁ、急いだって仕方がないからな。それよりもゆっくり寝てゆっくり休めたおかげで体力も万全な方が大事だろ」


トーヤが言って二人が頷く。

制限時間のない試験。その試験はもうすでに始まっていて自分で「ゆっくり行く」という選択をしたにも関わらず、実際に遅れをとっていることを認識すると焦ってしまう。


それでも三人は僕の言葉に納得して僕が起きてくるのを待っていてくれたのだった。

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