第28話

テントに入って就寝する。

本当なら交代で見張りを立てるべきだったんだろうけど、皆予想以上に消耗していた。


明日、残りの行程を無事に終えるために今日は見張りを立てないというある種の賭けに出た。


その代わりにテントの周りには簡単に作れる罠を起き、何かが付近に近づけば音がなるようように仕掛けもした。


それで絶対に安全だというわけではないけど、体を休めるために遠回りをしてリスクを減らしているのだから体力を消耗させるのは控えようと皆で話し合った結果だ。


テントは二つ。男女で別れてそれぞれ二人ずつで横並びに寝る。


最初の数十分。外の様子を気にしているのかトーヤの寝息は聞こえてこなかった。

それでも少し経つとすやすやと気持ちよさそうに眠るのがわかった。


僕はまだ眠れなかった。

外が気になるわけではない。


トーヤに言われたことを考えていたのだ。


思春期の子供らしくない、と彼は言った。

それはきっと悪い意味ではないのだろうし、こんなに考えすぎる必要もない他愛のない雑談の一種だったのかもしれない。


それでも妙にその言葉が頭に残っていた。


今まで僕は同年代の人と接した経験が少ない。


村にいた頃は歳が近かったのは兄と、隣の家にいた幼馴染くらいでそもそも子供の数が少なかった。


だから自分が他の子よりも達観していると感じたことはないし、他の子を子供っぽいと思ったこともない。


むしろ、トーヤにとって僕が少しでも大人っぽく見えるのならばそれは村に子供が少なかったおかげだろうか。


話す人といえば両親や長老たちといった大人に偏る。

そのおかげで少しでも冷静な判断ができるようになっていたのだとしたら村で過ごした時間も冒険者になるのに必要だったと思えるような気がして少し嬉しかった。


考えてみるとトーヤは出会ってから度々僕のことを褒めてくれた。

魔法の発想だとかそういうのだ。

僕が村でどう生きてきたか、それを彼は知らないのに僕の行動を褒めてくれるのは同時に今までの行動も褒められているようで嬉しい。


そんなことを考えているうちに僕は意識を手放すように眠りについたのだった。


翌朝、まだ日が昇る前に目が覚めた。

疲れ果てていたはずなのに、いやむしろ疲れ過ぎていたからか早く起きたのは皆も同じようで、まだ薄暗いうちに全員がモゾモゾと動き出して荷物をまとめていた。


「くあ……足痛え。シキ、回復魔法で何とかならないのか?」


立とうとするたびに筋肉痛が襲う。それに、ずっと地面を蹴っていた足の裏が未だに燃えるように熱く、心なしか硬くなっていは気がする。


トーヤと同じだったのだろう。彼は足をさすりながらシキに尋ねたが、彼女はその問いに首を振る。


「昨日説明したでしょ、シキの支援魔法はそこまで万能なものじゃないのよ」


無口なシキの代わりにルーナが答える。

シキが行う回復は支援魔法の一種。

そして、支援魔法は他者を強化する魔法だ。


回復において強化されているのは僕達の「自然治癒力」というやつらしい。


人間には元々傷を治す力が備わっていて、それを支援魔法で強化して何倍にも効果を高めているのだ。


ただ、この自然治癒力による回復は人間に備わった機能であるがために当然人間の体力を使う。


シキの魔法で傷を治すのは一見すると便利に見えるのだが、その分多くの体力を失っているらしい。



「筋肉痛とかそういうのは治せるかもしれないけど、そのせいでせっかく休んだ分の体力を失ったら意味ないでしょ? 我慢して歩くしかないわね」


そう言ってルーナが励ます。

彼女は平気そうにしているがそんなはずもないだろう。


背が高く、体力のありそうなトーヤでさえ少しまいっているのだ。


男性に比べて肉体的な能力に差がある女性陣二人はもっと辛いに決まっている。


これがもし、護衛任務だとか友達とただ旅をしているだけとかだったら僕もトーヤも二人に背を貸すことを提案したかも知れない。


しかし、これは冒険者になるための試験。

ライバルだから手を貸さないという意味ではなく、彼女たちの真剣さを知っているからこそその提案はできない。


それに、情けないことに僕たちも結構ぼろぼろなのだ。


そんなわけで四人仲良くよろよろと進み始めた。


ただ、松明も必要なく少しずつ明るくなって来たおかげで昨日ほど気を張らなくて済んだのはよかった。


歩いているうちに次第に足の疲れにも慣れてきて、僕らのペースは昨日と変わらなくなる。


休憩を挟むと再びその疲れな感覚が戻ってきてしまうので僕たちは昨日よりも休憩の頻度を減らして歩き続けた。

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