第21話
僕たちはまずサンリーフの町で慰霊碑までの詳細な地図を買うことにした。
ギルド職員によって配られた地図は大雑把過ぎて正確な距離が測れなかったのだ。
「そもそもこれワザと縮尺がちくばくに作られてるんじゃない?」
地図を見てそう言っていたのはルーナだった。
あのままはやる気持ちに従って町を出ていたら迷うとまではいかないが何かしらの不具合が出ていた可能性がある。
それこそがこの試験における関門の一つなのではないかという意見だ。
僕たちは冒険者向けの雑貨を扱う専門店に向かいサンリーフから北方面までの詳細な地図を購入した。
地図の値段は二千イエン。これまでお金を節約してきた僕たちだけど「冒険者になるために」そう願いを込めて両親が持たせてくれた貴重なお金を僕はここで初めて使った。
地図を元に道のりを確認する。
冒険者向けの専門店なだけあって地図には付近の魔物の生息域がわかる範囲で記載されていた。
店員いわく「それが全てではなく、あくまで参考程度」らしいのだがその情報は僕たちに大きく役立つ。
道のりと進む速度を重ね合わせて計算してみると日が暮れる頃にはゴブリンを初めとした多くの魔物が生息する森のど真ん中にいることになる。
森の中で野宿をするのは危険。
ましてや暗闇の中で松明の灯りだけを頼りに魔物の生息する森の中を歩くのは論外とまだ言える。
「イトム、助かった。お前が止めてくれなきゃ俺たちは夜中に森で魔物と戦う羽目になっていた」
トーヤが僕の肩を叩き礼を言う。
もしかしたら全員が転生者で構成されたパーティーならば夜の森でも切り抜けられるのかもしれない。
しかし、このパーティーには僕がいる。
僕は「自分が弱いから皆に迷惑をかけている」と思うことをやめた。
迷わずに「行こう」と言ってくれた皆に失礼だと思ったからだ。
それよりも自分にできることを精一杯にやろうと思ったのだ。
「でも、夜に魔物の生息域にたどり着くとわかってもどうしたらいいのかしら。どんなに急いでも明るいうちにこの森を抜けるのは不可能だし、今日はその手前で休むとしても明日の行程が厳しくなるわ」
地図を睨みながらルーナが言う。
確かに彼女の言う通りで地図を頼りに今日は安全な場所で野営をし、明日いっきに森を抜けようとするのなら今日進めるのはせいぜい三十キロがいいところ。
明日は七十キロ近くを進まなければ行けなくなる。
この試験では「徒歩以外の移動手段を使用してはいけない」とルディウスさんから事前に説明があった。
町から慰霊碑までの至る所に現役の冒険者が潜んでいて志願者の行動を監視しているそうだ。
僕たちが悩んでいるとシキが地図に指を指した。
全員がシキの指の先に集中する。
彼女はサンリーフの町を最初に指差してそれから指を徐々にずらしていき、最後に慰霊碑を指して動きを止める。
まるで地図に新たな道すじを書いているようだと僕は思った。
「道すじ……そうか。シキ! すごいよ」
彼女の言わんとしていることを理解して僕は思わず地図にぐっと顔を近づけた。
シキは正しく道を示していたのだ。
彼女が指でなぞったのは魔物の生息地の間を縫うようなルート。
もちろん実際にそんな道がある訳ではないが、その指先で示したルートを辿れば多少蛇行し距離が長くなるものの比較的安全に進めるはずだった。
「でも夜に森に入るのは変わらないわよね……そうか、川ね。川を通って行くのね」
ルーナも気がついたらしい。
シキが指差したルートは魔物の生息地を綺麗に避けている。
しかし、慰霊碑と町の間にある大きな森を避けることはどうしてもできない。
森の中では視界が悪く、夜になれば気が休まらない。
それに加えて地図を買った店の店員が言っていたようにこの地図には載っていない魔物の生息地がある可能性もあるのだ。
結局危険性は変わらないように思えるが森の中には大きな川が地図を縦に割るように流れていた。
その川はそのまま慰霊碑の近くまで続いている。
シキはそこを行こうと言っているのだ。
川の近くであれば、水の流れによって削られた石がたくさんあり砂利道のようになっているはず。
その上を何者かが歩けば森の中を歩くよりも大きな音がする。
夜の暗闇で鈍った視界を聴覚で補おうという作戦だった。
僕たちは全員で話し合い、そのルートを辿るしかないと結論づけたのである。
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