第20話

ルディウスさんの視線はすぐにまた志願者全員に向けられる。

どうやら声を上げたただ一人を断罪するつもりはないらしい。


「それがどうした。冒険者は常に仲間と行動を共にする職業だ。君たちは傷ついて倒れた仲間を『足手纏いだ』と言って置いていくのか?」


ルディウスさんのその言葉に志願者全員がハッとしてシーンと静まり返る。


「そうしなければならない時もいつかは来るかもしれん。だが、たった百キロ程度の道のりですら仲間を見捨てるような奴に冒険者になる資格はない」



ハッキリとルディウスさんはそう言った。

今度はスッと手を上げる者がいた。


僕のすぐ目の前にいた女性だ。

ルディウスさんが彼女を見つける。


「道中には恐らく魔物が出ると思いますが、その魔物を倒すことが試験の目的でしょうか」


ルディウスさんの説明と共に職員たちによって慰霊碑までの大まかな地図が配られた。

それによれば、慰霊碑までの道のりには森や谷が存在する。

女性の言う通り魔物の好むような場所だし、実際に襲われることまであるだろう。


「それはどちらでも構わない。倒したっていいし、隠れてやり過ごしてもいい。『時間内にメンバー全員が辿り着くこと』だ。この試験の合否はその結果以外には決定しない」


ルディウスさんはそう言った。

女性はその言葉に納得したのか「ありがとうございました」と言ってそれ以上の説明はしなかった。


それからルディウスさんは他の注意事項をいくつか説明すると不意に試験の開始を宣言した。


あまりにも事前に彼が「それでは始め」と言ったのでその場にいる誰もが一瞬動きを止めて状況を理解するのに苦労した。


一瞬の間の後で志願者たちが一斉に動き出す。

慰霊碑に向けて走り出すよりも先に皆が皆四人のグループ作りに躍起になった。


グループを早く作れればそれだけスタートするのも早くなる。そうすれば自然と明日までにゴールできる可能性も上がるというわけだ。


「おい、イトム行くぞ」


トーヤが当たり前のようにそう言って、当たり前のようにルーナとシキがその横に並ぶ。


僕は思わず「いいの?」と口に出してしまった。


自分が転生者ではないことに僕は負い目を感じている。

大勢集まったこの志願者の中に僕のように転生者でもないのに試験を受ける人はどれくらいいるのだろうか。


もしかすると僕だけなのかもしれない。

そう考えると他の転生者たちを差し置いて僕が彼らと組むことはあまりよくないのではないのかと思ってしまう。


足を引っ張らない自身がないのだ。


しかし、トーヤは


「何言ってんだよ。パーティー組むって約束だろ?」


と言って笑い、ルーナは


「私たち他に知り合いいないの。あなたたちなら信頼できそうだし、一緒に行きましょ」


と言って微笑んだ。

シキもその隣で力強く頷いている。


僕は嬉しくなって彼らの手を取り走り出した。


グループ作りを済ませて真っ先に広場から飛び出したのは僕たちだけではなかった。


あらかじめ手を組んでいたのか、既にいくつものグループが広場を抜け出してサンリーフの北側の門を目指している。


「クソッ早いな。だが、馬車や魔動車が使えないなら条件は同じだぜ」


トーヤは他の志願者たちを見て焦ったようだが、その顔は笑っている。


町を疾走する中で不意に僕の中に再び不安感が生まれた。


「待って!」


思わず声に出し、皆を呼び止めてしまう。

それが時間のロスになるとわかっていてもそうせずにはいられなかった。


三人は不思議そうに僕の方を見ている。


「皆、まず落ち着こう。このままじゃ僕たち失格になる可能性が高い」


僕はそう言った。

僕のことをバカにせず、共に行こうと言ってくれた三人だからこそ臆することなく自分の意見が言えるのだ。


トーヤは僕の声に耳を傾けながらも目では横をすり抜けていく他の志願者たちを追っている。


「おい早くしないとどんどん抜かれていくぞ」とトーヤが考えているのがわかる。


でも違う。

それはこの試験の目的ではない。



「これは競争じゃない。他の人に合わせて急ぐ必要は全くないんだ」



ルディウスさんは「全員が辿り着くこと」が大事だと言った。


そして「たどり着くかどうかの結果が合否の判定基準」だとも。


それはつまり、一番最初に慰霊碑に辿り着こうとも一番最後に辿り着こうとも制限時間である明日の日没までにたどり着いていれば合格できるということだ。


捲し立てるようなルディウスさんの説明と志願者同志の競争心の強さからつい競いがちになってしまったが、それをするとペースが崩れてしまう。


最初に飛ばし過ぎた結果、後になって体力がなくなりゴールに辿り着けないことが目に見えていたのだ。

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