第19話
ギルドに指定された「試験の説明を受けるための広場」は志願者たちでごった返していた。
ギルド前に列ができていた時にもその人数の多さは確認したいたはずだが、こうして広場に集まっているのを見るとまた感じ方が変わる。
「すげぇな。まるでライブ会場だ」
とトーヤが言い、その言葉にルーナが
「あら、誰かのライブに言ったことあるの?」
と反応する。
シキはその会話にはあまり興味がないようで、というよりも人混みが少し苦手なようで下を向いて僕の後ろに隠れていた。
出会ってまだ数時間なのにも関わらず何故か頼られていることを不思議には思うのだが、女の子に頼られるというのはあまり悪い気はしなかった。
ちなみに余談にはなるがトーヤは前世ではギターという楽器をやっていたらしくその影響でライブというイベントにも詳しいのだそうだ。
そしてルーナには名前も思い出せないが好きだった音楽家(アーティストというらしい)がいてその人のライブによく通っていた記憶だけがあるらしい。
「志願者の皆様、試験は時間厳守です。定刻になりましたのでこれより試験を始めさせていただきます」
広場に設置された舞台の上で、黒いスラッとした服に身を包んだギルドの職員がそう言った。
広場には大勢の志願者がいて、ガヤガヤと賑わっているのだが職員の声は「音を拡散する魔法具」によって聞き取りやすくなっている。
「まずは今年度の冒険者試験において試験管を務める方を紹介します。彼は冒険者になって三十年のプロ。その実力は折り紙つきですのでどうぞご安心を」
職員がそう言うと舞台の上に試験管となった冒険者が登る。
「あっ……」
僕たち四人の声が重なった。
舞台の上に登場したのはあの白髪の男性だったのだ。
「あの人、試験管だったのか。通りで志願者にも詳しいはずだぜ」
「あの凄みも三十年も冒険者をしているベテランなら納得ね」
トーヤとルーナが納得したように言った。
舞台上では白髪の男性が大きく息を吸い込んでいる。
僕は何だか少し嫌な予感がした。
「ルディウス・バルトハルだ! 歳は四十五。冒険者として幾つもの死線を潜り抜けてきた。君たち志願者がどれほどの力を持っているか見極めるのが今回の仕事だ。正々堂々、不正なく挑んでくれることを期待している」
大きい声だった。ルディウスさんの声は魔法具を使っているわけでもないのに広場中に響き渡る。
そのあまりの声量にその場にいた志願者の大半が耳を塞いだほどだ。
その声の大きさは職員にも不測の事だったらしく、慌てて先程の職員が彼に魔法具を渡していた。
聞き取りやすくなったところでルディウスさんが時間について説明する。
「試験は三つの分野に分けて全員同時に執り行う。『身体能力』『精神力』とあと一つは明かせないがとにかく三つだ。試験の期間はおよそ一週間。それだけ難しい試験になると考えてくれていい」
その説明に広場中が少しざわめく。
無理もない。僕も試験はてっきり一日で終わると思っていた。
脳裏にはつい先ほど二人の転生者に厳しく接していたルディウスさんの姿がよぎる。
正義感が強い人のようだが、厳しい性格なのも間違いない。一体どんな過酷な試験が待っているのだろうか。
「最初は『身体能力』の時間からだな。何、心配ない。冒険者を志す君たちならば難なく乗り越えられるだろうよ」
ルディウスさんはそう言ってにやりと笑う。
その笑みが志願者たちの緊張を煽る。
それから彼は舞台上で遠い空の彼方を指差した。
志願者たちの目が自然と彼の指を追う。
「ここからおよそ百キロほど北に進んだところに、かつての転生者が作った慰霊碑がある。君たちにはそこを目指してもらう。期限は明日の日没までだ」
志願者たちのざわめきが少し大きくなった。
明らかに動揺している。
僕だってそうだ。
村からこのサンリーフの町まで歩いてたどり着いた僕だが、それでも一日に歩いたのはせいぜい二十から三十キロ程度だろう。
およそ百キロの道のりを二日、いやほぼ一日半で歩いた経験などきっとこの場にいる誰にもないはずだ。
ルディウスさんは僕たちのざわめきなど無視してさらに説明を続ける。
「君たちにはこれより四人で一つのグループを作って貰い、試験期間中はそのグループで行動を共にしてもらう。『身体能力』の試験で言えば四人全員が期限までに慰霊碑に辿り着けなかった場合、そのグループは全員失格となるので注意するように」
ざわめきが最高潮に達する。
そしてついに集団の中から不満の声が漏れ出た。
「そんなの理不尽だ! 組んだグループの奴が体力のないやつだったらそれだけで失格になっちゃうじゃないか」
その声を上げたのが誰かはわからない。
人が多過ぎて僕からは声が右の前方の方で聞こえたことしかわからなかった。
ルディウスさんの目がその右の前方にぎろりと向く。
あの鋭い威圧感のある目だ。誰かはわからないが声を上げた者はきっと今生きた心地がしないだろうと僕は名も知らぬ誰かのことを少し不憫に思った。
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