第18話

突然現れた白髪の男性。

彼に殴られたひょろひょろの男は壁に激突した。


傍目から見た感じだと壁にぶつかった衝撃は相当すさまじく、容易に立てるようなダメージではないと思うのだが、腐っても転生者とでもいえばいいのかひょろひょろの男は立ち上がった。


その頑丈さは恐らく彼の持つスキルが関係しているのだろう。


「て、てめぇ。何者だ」


それでもやはり受けたダメージは軽くはないらしく、苦しそうにしながらひょろひょろの男が白髪の男性を睨みつける。


「いきなり何しやがる!」


とその男の横で息巻いているのは二人いた転生者のもう一人の方で、こちらは小太りで背が低かった。


白髪の男性は受け止めた少年を地面に下ろすと「少し離れていなさい」と優しく言った後に男達の方に向き直った。


僕たちからは男性の背中しか見えず、その表情はわからなかった。


しかし、明らかに萎縮した様子の二人を見れば男性がよほど恐ろしい顔をしていたことは想像できる。


「俺が何者かだと? 認めたくもないことだが、貴様らと同じ転生者ってやつだ」


その声に含まれた怒気は僕にも感じられた。

少年に話しかけていた時とは違う圧のある声色だった。


転生者というのはどんな人であれこの世界に来る時には「新たな命」として生まれてくる。


この世界のどこかの誰かから赤ん坊として誕生するのだ。


それはつまり、その人の年齢がそのままこの世界に来てからの年数を表していることになる。


ひょろひょろな男と小太りな男の二人は見た目的には相当若く、僕と同年代なことがわかる。


対して白髪の男性の方は後ろ姿とちらりと見えた横顔からでもわかる程度には歳を重ねているようだ。


この世界に来てからの経験値の差がそうさせるのか、それとも本人の纏うオーラの問題なのか、最初は息巻いていた二人の男達は既に白髪の男性に圧倒されている。



「お前ら今年冒険者を志願した若手だな? 『冒険者』とはこの世界に住む全ての人を守るために作られた職業だ。そんなこともわからねぇようなひよっこはとっとと故郷の村に叩き返してやる」


男性の凄みの効いた怒声が通り中に響き渡る。

男達はあわあわとした様子で何も言えずにいた。


「おいなんだ、さっきまでの威勢はどうしやがった。それとも俺の言った言葉が理解できたのか? 理解できたんならあの少年と町の人達に何か言うことがあるんじゃねぇのか!」


男性はさらに捲し立てるようにそう言う。

男達にそれ以上弁明の言葉をしゃべらせるつもりは最初からなかったようだ。


それでも尚男達がおどおどとしていると「どうなんだ!」とさらに男性の喝が入る。


何も知らないひとがもしもこの状況を見たら、男性が二人を脅しているようにしか見えないのではないかと密かに思った。


男性の喝に二人の転生者はびくりと身体を震わせる。


「す、すいませんでした……」


「声が小せえぞ!」


「すいませんでした!」


最後の方はもう二人ともうっすらと涙目になっていたように思う。


それから男性が「もう試験の開始まで時間がねぇぞ。さっさと行け」と二人に言い、彼らは逃げるように走り去って行ったのである。


二人が消えるとその一部始終を見ていた店先に集まった町の人々から自然と拍手が生まれた。


僕たちも知らず知らずのうちに拍手をしてしまっている。


ところが、男性が急に振り向いてギロリと僕たちを睨みつけたのである。


その目は鋭く、予想した通りに迫力があった。


「お前らも志願者だな?」


一体何で判断しているのか、男性はまたもやずばりと言い当てる。


全身を緊張させて直立した姿勢のまま僕たちは頷いた。


これは後でトーヤが言っていた話だが、この時の気持ちをあえて言葉にして表すのならば「まるで規律の厳しい軍隊に配属されたような気分だった」らしい。


「そうか。志願者同志の直接の戦闘行為はギルドによって禁止されている。次に同じような場面に遭遇した時は早まった真似はせずに近くのギルド職員を頼るといい」


男性は怒っているわけではなく、どちらかといえば少年に接していたのと同じような口調でそう言った。


目が鋭いのは彼の生まれつきの容姿らしい。


「お前たちも試験に遅れるぞ。試験は時間厳守だ。早く行きなさい」


男性にそう言われたので何となく四人で男性に深く頭を下げてから僕達は指定された広場に向かって走り出したのだった。

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