最初の試験
第16話
僕たちが冒険者ギルドにたどり着くと、そこにはもう試験を受ける志願者たちが大勢集まっていた。
その人数はざっと見渡しただけでも100は超えているかもしれない。
驚いたことに、それだけの人数がギルドとはいえ一つの建物に集まったというのにそれほど混雑はしていなかった。
建物の中に全員が収まるはずはなく外の通りに溢れ出しているのだが、そこにいる人たちは通行人の邪魔にならないように道の端に一列で並んでいるのだ。
さらにはギルドの職員がその列の一番後ろにいて、「最後尾」と書かれた看板を掲げている。
その光景を見てトーヤは少し笑っていた。
驚く僕に彼は「転生者は並ぶのが好きな人種なんだ」と教えてくれた。
僕は誰も割り込みをしない彼らの精神に感心し、彼らに倣って列の一番後ろに並んだ。
列の先頭では冒険者試験の当日登録が行われているらしい。
具体的には前に書いた登録用紙に嘘がないか特別な水晶の魔法具を使って確認しているそうだ。
そのことを教えてくれたのは僕たちの前に並ぶ二人の女性だった。
「え、君転生者じゃないの? それなのに冒険者になろうと思うなんて、すごい勇気だね!」
右側の明るい長髪の女の子、「ルーナ」は僕にそう言った。
声色からは嫌味な様子は感じられず、本心からそう言っているのが伝わってくる。
その隣にいる白っぽい髪をした短髪の女の子、「シキ」は無口な性格なのか何も言わなかったがルーナの言葉にしきりにこくこくと頷いている。
彼女たちは後ろに並んだ僕たちにすぐに気がついた。
そして、まず最初に鞘に収まった状態でもぼろぼろなことがわかるトーヤの剣に興味を持ったようだ。
「その剣で試験を受けるの?」
明らかに驚いた様子で、あるいは少し心配した風でもありながらルーナがトーヤに訪ねた。
その反応を意にも介さずトーヤは
「もちろん」
と自身ありげに答える。
その反応が彼女たちの興味を惹いたらしい。
彼女たちは自己紹介やどこから来たか、それからこれから始まる試験について知っている限りのことを教えてくれたのだ。
「私たちこの近くの町で生まれたのよ。だから割とこのサンリーフに来る機会も多くて、それで来るたびに色々と調べてみたの」
二人は同じ町に生まれ、自然と仲良くなった。
どちらから言い出したのかはもう覚えていないが、幼い頃から「せっかくなら冒険者になろう」と思っていたらしい。
それで、用事がなくてもサンリーフの町まで遊びに来たりしてギルドにも通い試験ことを色々調べたのだそうだ。
生憎、試験の内容自体は毎年変わりその年の試験官によって趣向が変わるため今から何をやるのかまでは具体的にわからなかった。
それでも、試験のあれやこれやを彼女たちが教えてくれたことで僕の中の不安は随分と薄れたように思う。
「二人は随分と仲がいいんだね?」
話の流れで不意にそんなことを僕が言った時、ルーナは嬉しそうに笑って「そう見える?」とシキの肩を抱いた。
密着されてもシキが全く同じていないのはその接し方にもう慣れてしまっているからだろうか。
「はっきりと覚えてるわけじゃないし、お互いの名前もわからないんだけど多分私たち前の世界でも友達だったんだよね」
少し複雑そうな顔をしてルーナが言った。
前の世界。高校という学問を学ぶ場所で二人はすでに友達だったのだという。
それはかなり曖昧なものでお互いの名前も顔も覚えてはいない。
それでもこの世界で生まれ育った町で、初めて顔を合わせた時に雰囲気というのか、何なのか二人はお互いにそう思ったらしい。
「きっと私達は同じタイミングで死んでいる」
とも思った。
新たな世界に生まれ変わり、そこでもすぐに出会えたことはほとんど奇跡のように思える。
僕からしたら随分と不思議な話ではあるのだが、「転生」というそれ以上の不思議を体験した彼女たちはあまり気にしていないようだった。
彼女たちと話してみて僕が感じたただ一つの確かなことは、彼女たちが「いい人」だということ。
転生者でも何でもない僕が冒険者を目指していることを笑わないし、むしろ応援してくれた。
「僕、転生者の人ってもっと厳しいイメージだったよ。トーヤといい、二人といい優しい人ばかりで安心した」
思わず漏れたその本心にルーナは「甘い」と言って僕の顔に人差し指を突きつけた。
「その考えは甘すぎるよ。君はもっと用心しないと」
そう言ってルーナが続けた話は僕にとってはあまり良くない話で、せっかく解けかけた僕の緊張はまた少しだけ戻ってくるのだった。
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