第14話

翌日、「試験を受ける者は昼前にギルドへ集まるように」との事前連絡をララさんから受けていた僕たちは少し早めに町の中に入った。


ギルドに向かう前によるところがあったからだ。


「ほー。正直剣の良し悪しはまったくわからないけど、本物の剣って高いんだなぁ」


通りから目に入った目立つ店。

綺麗な外装と棚に並んだ無数の剣に惹かれて入ったその店の中でトーヤは悩ましげに呟いた。


そう、僕たちは試験の前にトーヤの木剣に代わる新しい武器を探しに来たのだ。


「試験の直前に武器を選んで大丈夫なの?」


僕がそう尋ねるとトーヤは自信満々に答える。


「問題ないさ。『弘法筆を選ばず』って言うだろ? 俺くらいにもなれば適当に選んだ武器を完璧に使いこなして見せるぜ」


トーヤはそう言って本当に適当に選んだ剣を抜くと空中で軽やかに振り回して見せた。


店の中で商品を振り回すなど褒められた行動ではない。しかし、その鮮やかな剣技に僕は一瞬目を奪われる。


「あのう……お客様。何かお探しでしょうか」


僕たちが剣を見ていると腰の低そうな店員が話しかけてきた。

おずおずとしたその様子はもしかするとこのままトーヤに勝手に武器を選ばせていたら店を壊されると思ったのかもしれない。


「あ、すいません。冒険者になるために武器を探してるんすけど……」


調子に乗って店内で剣を振り回したことを反省したらしい。

トーヤはすぐに剣を鞘にしまうと、元の位置に戻して頭をかいた。


「ご、ご予算はどらくらいで?」


「えーっと……手持ちの残りがこれくらいなんすけど」



そう言ってトーヤは村から持ってきた支援金の一部とそれから魔物の耳を売って得たお金を半分にした分を合わせた彼の全財産を店員に見せる。


店員の表情が僅かに引き攣ったのを僕は見た。

それから、困ったように愛想笑いを浮かべる。


「そんな金ではうちの剣は買えねぇよ」


言葉にこそしていないが、彼の態度がそう言っていた。


トーヤもそれを察したらしい。

少し気まずそうに「やっぱ無理っすよねぇ」と言ってから逃げるように店を出る。


トーヤはなるべく多くのお金を生まれ育った村に寄付するために本当にぎりぎりの金額しか持ち出していなかった。


その金額では、サンリーフのような冒険者の集う町では本当に店を吟味しなければ剣は買えないようだ。


「まぁ、試験くらいなら木剣でも何とかなる気もするし、冒険者になってから金を貯めればいいか」


試験開始の時間が刻一刻と迫っているのを気にしてか、トーヤは諦めるつもりのようだった。


本当は昨日も食材を買うついでに少し店を見て回ったのだが、町についたのが少し遅かったこともあり十分に店を探さなかったのだ。


トーヤがギルドの方向に向かって歩き始めるので僕もその後ろをついて行く。


その時、僕の視界の端に何かがチラついた。


「トーヤ……あれ」


思わず彼を呼び止める。トーヤは振り向いて僕の指差す方を見た。


市場の通りから横道を一本進んだはずれに小さな店があった。


外観はぼろぼろで、中の様子もよく見えない。

入り口に飾ってある看板のおかげでようやく「鍛冶屋」だとわかるくらいだ。


別にその店が小さくてボロボロだったから、「僕たちの所持金でも武器が買えるかも」と思ったわけではない。


ただ、その店には何となく雰囲気があった。

思わず目を惹き、中を見てみようかという気にさせる何かがあったのだ。


「……最後に寄ってみるか」


時間的に見て回れるのはあと一軒くらい。

トーヤも僕と同じ感情を抱いたのか、二人の足は自然とその鍛冶屋に向かった。


立て付けの悪い店の扉を開けると「ギイッ」という音がした。


中は薄暗く、床にうっすらと埃が溜まっている。

お店とは思えないその様子にさっき感じた謎の印象は薄れ、「入る店を間違えたかも」と後悔する。


「いらっしゃい」


しゃがれた野太い声がした。

声の方をよく見ると日の届かないカウンターの奥におじいさんが一人座っている。


「剣を一本買いたいんですけど」


トーヤがそう言うとおじいさんは「フンッ」と鼻を鳴らして店の奥に引っ込んでしまう。


僕たちが戸惑っていると、大きな箱を抱えたおじいさんが戻ってくる。


そして、僕たちの前に箱をドンと置いた。


「どうせ金は無いんじゃろ。安く買えるのはこの箱の中の剣くらいじゃ」


商才というやつだろうか、おじいさんは一目で僕たちの懐事情を見抜いたらしい。


おじいさんの持ってきた箱の中には確かに鞘に収まった剣が何本も入っていた。


店の床には埃が溜まっているのに箱の中には汚れひとつついていない。


トーヤは何も言わずに箱の中の剣を選び始めた。

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