第12話
五日後、僕たちはサンリーフの町にたどり着いた。
トーヤも僕もあまりお金がないため、ここまでは全て野宿で夜を明かしている。
最初の頃はテントを建てたり、火を起こしたりという作業がぎこちなかったトーヤも五日の間に少しは慣れてきたようだ。
とはいえ、今日くらいはちゃんとしたベッドで眠りたい。
その思いは僕もトーヤも同じだった。
そのためにはやはりお金がいる。
僕達の所持金は僕の手元にあるあまり使いたくない「二万イエン」だけ。
サンリーフの町は大きいし、最初に着いた町よりも物価が高いかもしれない。
でも、なんのあてもないわけではなかった。
この町に辿り着くまでに遭遇した魔物達。
僕たちは倒した全ての魔物の右耳を回収しておいたのだ。
弱い魔物とはいえその数は多く、サンリーフにある冒険者ギルドでこれをお金に変えられれば今日は宿に泊まれるという目論見だった。
事前に確認したギルドでの冒険者になる試験が行われるのは明日。
時間的にもピッタリだ。
試験を受ける登録と魔物の耳を売ってお金に変えることを目的にして僕たちは冒険者ギルドを目指した。
ギルドは木造二階建ての大きな建物だった。
「おお〜。雰囲気あるな。西部劇に出てくる酒場みたいだ」
とトーヤが感心している。
「西部劇」というのが何かわからなかったが、恐らく別の世界のものなのだろう。
その詳細については後で教えてもらうことにして僕たちは中に入った。
「酒場」というトーヤの表現は間違ってはいなかったらしい。
ギルドには食事を取るための机と椅子が並べられていて、冒険者のような見た目をした人達がそこで酒を飲んでいる。
日暮れ前だが、一仕事を終えて休息しているようだ。
「おおー。マジでそれっぽいな。入ってきた人に絡んでこない感じは日本人ぽいけど」
トーヤが感心している。
僕にはよくわからなかったが、このギルドの様子はトーヤが想像していた通りらしい。
僕達はギルドの奥に女性が立っているのを見つけた。
そこが受付のようだ。
「あの、僕達冒険者になりたいんですけど」
僕がそう言うと受付の女性はにっこりと笑って紙を二枚取り出した。
「ここにサインして……それからスキルも書いてくれるかしら。スキルは念の為後で検査があるから嘘は書かないでね。この世界の文字でも、日本語でも構わないから」
「日本語」というのは転生者のいた世界の言語だとトーヤから聞いている。
転生者は頭がよく、生まれた時からもう大人と同等の知能を持っているとされているが、中には文字を覚えない人もいるらしい。
どちらの世界の言葉でもいいというのはそういった人たちへの配慮なのだろう。
「へぇ、便利だね。お姉さんも転生者なの?」
紙にサインをしながらトーヤが尋ねる。
受付の女性は「ええ」と返事をした。
「私も転生者だけど、戦ったりするのはあまり得意じゃないからここで受付として働いているの。ララよ。もしもわからないことがあったら何でも聞いてね」
ララさんはそう言って優しく微笑む。
僕たちは紙にサインをしてそれを提出する。
ララさんは紙に目を通して不備がないか確認してから「あら?」と訝しげな顔をする。
「あなた、スキルのところが空欄になってるわよ」
そう言ってララさんが僕に紙のスキルを書く所を指差して示す。
「あの、僕転生者ではないんです。だからスキルがなくて」
僕がそう答えるとやはり彼女は驚いた様子だった。
それでも馬鹿にしたように笑わないだけましなのかもしれない。
きっと、転生者ではないものが冒険者の試験を受けに来るのは相当に珍しいことなんだろうと思った。
「あの……念の為に聞くけど、冒険者って危なない仕事よ? 転生者が前の世界の知識を活かしても命を落とすことがあるくらいに……。本当になりたいの?」
僕のことを心配してくれている。それが伝わる表情と声色でララさんは念を押すように確認した。
僕は頷く。
横で話を聞いていたトーヤが僕の肩を組んで言った。
「心配いらないよ。こいつ強いから」
その言葉が少し照れ臭かったけど、嬉しかった。
結局、ララさんは僕の意思が変わらないとわかると書類を受理してくれた。
それから二人で倒した魔物の耳を買い取ってもらえないか尋ねる。
厳密には「冒険者以外の者から魔物の耳の買取はしていない」らしいのだが、ララさんは「特別な」と言って手続きをしてくれた。
持ち込んだ魔物の耳の数が多かったので、荷物になるのではと配慮してくれたようだ。
数十体の魔物の耳は総額で「六千イエン」。
高いのか安いのか、はっきりとはわからないが僕たちが冒険者として初めて稼いだ金額だった。
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