第11話
サンリーフの町までは豊かな平原が広がり、その平原を遮るように整備された街道が続く。
転生者の恩恵を大きく受けるジャーパンの国は他国に比べて町や道の環境が整備されている。
ただ、一つ。
本来の生息地を外れて人里に近づきすぎた魔物の被害だけはどうしようもないものである。
街道にも魔物が時折現れるため、僕とトーヤは遭遇するたびに魔物と戦闘するはめになった。
といっても、強敵は中々現れない。
大抵は群れからはぐれたゴブリンとか、他の強い魔物に住処を奪われて行き場をなくした魔物しか街道には近寄らないからだ。
そういった魔物はトーヤがまず木剣で動き止め、その後ろから僕が矢尻で止めを指すという連携が自然と出来上がり、割と苦戦することなく歩みを進めている。
トーヤはサンリーフの町についてからちゃんとした剣を買うつもりらしいが、スキルに保証された彼の剣技は弱い魔物であれば木剣で十分だと思えるほど凄まじかった。
「トーヤは魔法は使わないの?」
そう尋ねた僕にトーヤは「あんまり得意ではない」と答えた。
「俺、ゲームでも近接主体の脳筋プレイばっかりしてたからさこっちの方が性に合うんだよな」
トーヤは「転生者の多くはこの世界のことを『ゲームの延長』として考えている節があるのではないか」とも言っていた。
それは協会を通して彼が知り合った何人かの転生者を見て思ったことらしい。
この世界しか知らず、実際にこの世界で生きる僕からしてみればそれは何とも複雑な気持ちになる話だった。
しかし、彼らの元いた世界では「魔法」や「魔物」と言った物は「ファンタジー」と呼ばれ、物語の中の出来事だったらしいし、そう思うのも仕方がないことなのかもしれない。
「まぁ、傷を負えば普通に痛いし、魔物はどれも迫力がすごいから『ゲーム』にしてはリアルすぎるんだけどな」
とトーヤは笑う。
僕には彼がこの世界を「ゲーム」と捉えているのか、それとも「現実」と捉えているのかはよくわからなかった。
街道をしばらく歩いていると後ろから馬車の音がした。
僕とトーヤは道の端に移動して馬車が通り過ぎるのを待つ。
馬車の窓から中が見えた。
四人の男女が楽しそうに話をしている。
そのうちの一人がちらりと外に目を向けて僕と目があった。
彼女は怪訝な顔をした後に、明らかに嘲笑とわかる笑みを浮かべる。
「うわっ……なんだあれ。嫌な感じだな」
馬車が通り過ぎてからトーヤが言った。
彼からも馬車の中が見えたようだ。
彼女も転生者だろう。
だとすれば、僕の格好を見て「みすぼらしい」と馬鹿にしたのかもしれない。
「冒険者になっても、ああいう奴とはパーティーを組みたくねぇよな」
トーヤの言葉の中にまた僕の知らない言葉が含まれていた。「パーティー」だ。それは何か、と尋ねると彼は快く教えてくれる。
「ゲームの基本だよ。俺達のいた世界では魔物と戦う時、チームを組んで役割を分けるんだ」
トーヤの説明によると
「向かってくる魔物の注意を引き足止めをする盾職」
「その横で弱い敵などを率先して倒す近接攻撃職」
「後方から魔法などで大きなダメージを与える後衛職」
「傷ついた仲間を魔法で癒す回復職」
などがいるらしい。
そういった異なる役割を持つ人達が集まり、チームを組んで連携することで戦いの幅を広がるのだそうだ。
それは僕にとっては目から鱗な話だった。
村で育った僕は冒険者についてまだまだ知らないことがたくさんある。
唯一知っている冒険者のノーマは一人で行動していたし、そういうものなのだろうと思っていた。
まさかパーティーを組んで戦うのが基本だとは思わなかったのだ。
「どうしよう。転生者でもない僕とパーティーを組んでくれる人なんているかな?」
僕がそう尋ねるとトーヤは「はぁ?」という顔をする。というか、「はぁ?」と言葉に出していた。
「転生者とか関係ないだろ。お前十分強いし。少なくともさっきの馬車に乗ってた感じの悪い奴らよりもよっぽど組みてぇよ」
そう言ってくれるトーヤの言葉がとにかく嬉しかった。
「ていうか、このままサンリーフまで行って二人とも冒険者になれたら俺たちで『パーティー』組まないか?」
だから続くトーヤの言葉に僕はすぐ「うん」と返事をした。
もしかすると、トーヤも「仲間ができるか不安」という気持ちがあったのかもしれない。
僕が返事をすると彼はホッとしたように笑った。
「まぁ、二人じゃ少なすぎるからもう少し仲間を増やしたいけどな」
こうしてトーヤと僕は出会ってたった一日で仲間になったのだった。
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