第10話
翌日、日が昇るのと同じ時間に起きた僕達は荷物をまとめて朝食を食べた後、サンリーフの町へ向けて出発した。
旅をするにあたりテントすら持ち合わせていなかったトーヤは結局僕と一緒に同じテントで眠った。
テントは元々一人で寝るには拾すぎたし、僕が寝ている間に彼が盗みを働くような人物には見えなかったため、一緒に寝るのは一向に構わなかったのだが一つだけ文句を言うとしたら彼の寝相である。
寝返りのたびに彼の見かけによらない筋肉質な硬い腕が僕の顔や腹に当たり、あまり気持ちよく寝付けなかった。
何度揺さぶって無理矢理姿勢を変えようとしても決して起きないほど熟睡をしていたくせに、まだ眠そうに欠伸をするトーヤが少し腹立たしい。
「ん? なんだよ、イトム。そんなに口を尖らせて」
僕の心中などまるで気にしていない様子のトーヤに僕は「別に」と短く返事をした。
とはいえ、たった一晩だけの付き合いとは思えないほど僕らは打ち解けていると思う。
彼の纏う雰囲気はとても優しいもので、心を許してしまうのだ。
彼もまた僕に好感を持ってくれているのが言葉の節々から感じられる。
僕らは一度町に入り、そこから反対の門を抜けてサンリーフの町へ向かうことにした。
町の中で昨日見かけた立派な宿の前を通る。
入り口にこれまた高級そうな馬車が止まっていた。
恐らく昨日見た同年代の若者達がサンリーフに向かうための馬車だろう。
「はぁー……すっげぇ馬車。十中八九転生者が乗るやつだな」
その馬車を見てトーヤが呟く。
馬車は組合に事前に手配しておけば誰でも呼ぶことはできる。
しかし呼ぶのには当然お金がかかるわけで、立派な馬車ならばかかる金額も上がるだろう。
ただの村人である僕には手が出せないし、支援金のほとんどを故郷に寄付したというトーヤにも縁のない乗り物だった。
「あの人達に挨拶しなくていいの? 同じ転生者でしょ」
馬車に身なりのいい若者たちが乗り込んでいくのを見て僕はトーヤに尋ねた。
しかしトーヤは不思議そうな顔をする。
「転生者って言ってもどこの誰かも知らない奴だぜ? この世界にはどうやら俺みたいな奴がうじゃうじゃいるみたいだし、わざわざ話しかける必要もないだろ」
そう言って歩き出すトーヤを見て、僕も不思議な気持ちになった。
てっきり、転生者同士には「仲間意識」のようなものがあるのかと思っていたのだ。
前世の記憶を持つという共通点による繋がりが。
しかし、彼が変わっているのか。それとも彼のいう通り多すぎてそんなものは最早希薄なものに変わっているのか。
トーヤが何も気にしていないように歩き始めたので僕もその後を追った。
「とはいえ、馬車はいいよなぁ。歩いたら五日くらいかかるところを三日とかでいけるんだろう?」
歩きながらトーヤが言う。
僕はこうして歩いて旅をするのも好きだったけど、馬車の便利さについては同じ気持ちである。
「馬車よりももっと高いけど魔動車っていう乗り物もあるらしいね? 知ってる?」
僕が尋ねるとトーヤは「名前はな」と答える。
魔動車というのは昔転生者の一人が開発した魔法具の一つで、車輪のついた箱を馬に引かせる代わりに魔法の力で動くようにしたものらしい。
どうやら転生者の元いた世界にあった乗り物を参考にしているらしいが、作るのにとてもお金がかかるためその魔法具自体も高価なものとされている。
平凡な村人では目にしたこともないほどの物だ。
「そういえば、ずっと気になっていたんだけど。転生者は皆同じ世界から来たの? それってどんな世界?」
話の流れでそう聞くとトーヤは笑った。
「イトムは好奇心の塊なんだな。そのおかげであの発想力か。納得した」
トーヤはそう言った後で僕に自分が知っている限りの前世の世界のことを教えてくれた。
その中には昨日彼が話してくれた「ゲーム」や「キャラ」についても含まれている。
トーヤもこの世界の転生者について知っているのは転生者協会から教えてもらったごく一部の情報だけらしい。
それによるとこの世界に生まれる転生者は今のところ一つの同じ世界、それもその世界の「日本」という一つの国の者しか確認されていないそうだ。
その理由はわかっておらず、事実として転生者は皆同じところからやって来ているということらしい。
また、転生者は自分が他の世界の記憶を持っていると生まれた時から知っているが、「その世界で自分がどうなったのか」そして「前世の自分の名前」だけは誰も覚えていないらしい。
「まぁ、名前はともかくきっと死んだからこの世界に来ているんだろうけどな」
とトーヤは少し複雑そうな顔で笑った。
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