冒険者の町
第8話
ジャーパン王国で冒険者になるのなら、王都トキオとその東西南北に位置する主要都市、計五つの都市のどれかで時間を受け、合格しなければならない。
その他にも冒険者の組合(ギルドと呼ばれは)は世界中に存在するが、そこでできるのは依頼の受注と魔物の換金のみ。
冒険者になりたいのであれば、この国ではその五つの都市を目指すしかない。
村の近くの森を抜けて街道に出た僕は、既に近くの小さな町まで辿り着いていた。
既に、と言っても太陽はもう頭のてっぺんを通り越して傾き初めていたし、次に目指している主要都市サンリーフの町町まではまだまだ時間がかかるため、僕はたどり着いたこの小さな町に一晩泊まることにした。
「三千イエン……」
町を歩き回ってようやく見つけた宿屋で僕は思わず声に出して呟いてしまう。
「イエン」とはこの国の通貨である。
一般的な食事の一人前が大体「五百イエン」前後、僕が見つけた宿は外観がかなり古く、恐らくこの町にある宿屋の中で一番安いのではないか、と見切りをつけていたのだが一泊するのに「三千イエン」かかるというのだ。
それが高いのか安いのか、正直にいえば今まで村からほとんど出たことのない僕にはよくわかっていなかった。
村を出ていく時に、両親はぼくにまとまった金額を与えてくれた。
その額なんと「二万イエン」。少ないと思うだろうか?
けれど、平凡な村の住人が二万イエンを蓄えることの大切さを僕は知っている。
両親が一生懸命貯めてくれたそのお金をあまり無駄遣いはしたくない。
それが僕の本心だった。
「仕方がない。今日は野宿だ」
ため息をつき、宿を出る。
町を出て少し歩けば川があったはずだ。
今日はそこで一夜を明かすことにした。
そう思い歩いていると若い数人の男女の声が聞こえてきた。
楽しそうに笑い合うその声に思わず視線が向いてしまう。
見事な鎧を身につけた彼らはおそらく僕と同年代。
冒険者なのか、それともこれからなりにいくのかはわからない。
彼らはそこそこ高そうな外観の宿屋の中に入っていく。
彼らに聞かずとも、彼らが「転生者」であることはわかってしまう。
この世界に生まれ落ちた転生者は生まれてくる時に何か一つ特別な力、「スキル」を持って生まれてくる。
生まれた子供にそのスキルがあるかないかで人はその子が転生者か否か判断するのだ。
そして、転生者と判明した者とその家族には冒険者ギルドを中心とした世界中の転生者たちの集まり、「転生者協会」から支援金が捻出される。
「新たな世界で戸惑うことも多いだろうけど、このお金で頑張ってね」
ということだ。
そのお金は基本的には転生者のためだけに使われる。
子供だった転生者が無事に大人になれるように、あるいは大人になってから冒険者として働く時の支度金として使われるのだ。
僕のように成人したばかりの村人にあんなに高そうな宿に泊まるお金はないだろう。
それに、身につけていた装備も随分と高そうだった。
僕とは大違いだ。
といっても、もともと僕は防具のような物は身につけていない。
僕の戦い方は基本的には隠れて魔物の隙をつく戦法だし、そのためには身軽な方がいい。
武器も五つの矢尻のみ。
しまう場所はポケットでこと足りる。
剣や杖を背負っているわけではないので側から見たら冒険者を目指しているようには見えないだろう。
思わずため息が出てしまう。
「転生者に生まれたかった」とは思わない。
しかし、この格差が僕がこれから冒険者になることの難しさを遠回しに伝えてくるようで少し不安になる。
僕は首を大きく振って陰鬱な感情を吹き飛ばすと、今夜泊まるところ探すために町の外に出た。
幸いすぐ近くの川は開けた平地で、テントも張りやすかった。
野宿は嫌いじゃない。
わざわざ森の中に隠れ家を作っていたくらいだ。
そこで得た知識と経験。荷物として持ってきた大きな布と魔法の力を使えばテントは簡単に組み上がる。
それから夕食。
僕の荷物には自分で作った干し肉と母が持たせてくれた少量の米が入っている。
後は調理用に持ってきた小型の鍋。
火を起こし、鍋をかけて米を炊く。
その間に川で魚を取ることにした。
釣りをする必要もなく、すんだ川ならば上からでも魚の姿がよく見える。
その魚めがけて矢尻を飛ばせば、あっという間に二匹の魚を獲ることができる。
手際よく野宿と夕食の準備を進めながら、僕は「きっとこの先も宿に泊まることはそうそうないのだろうな」と心のどこかで思っていた。
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