第6話


「危険なことはしないでくれ」


という父の願いを守るために生み出した僕の戦い方は僕に大きな経験をもたらしてくれた。


何日も何日も繰り返し、試行錯誤をすることで僕は成長したのだ。


まず最初に気がついたのは魔法で飛ばすのは「木の矢」である必要はないということ。


単純なようにお前らが、遠距離から敵を倒す武器といえば弓でありその印象が強いために矢を使うことに囚われていた。


ノーマに教えてもらった木の葉を浮かせる魔法。

それは、あらゆる物を浮かせる魔法に応用できるが浮かせたい物の大きさや質量に影響を受ける。


例えば僕の身体を浮かせるのは難しく、大きな岩や切り倒した丸太なんかも動かすことはできても自由に操ることはできない。


その点で言えば軽い木の葉が最も動かしやすいものだと言えるだろう。


木の矢も比較的動かしやすいが、先が違っている物を真っ直ぐ飛ばして獲物に命中させるのは相当に緻密なコントロールが必要だということに気がついた。


至近距離ならば問題ない。

矢は真っ直ぐに飛び、威力も申し分ない。


しかし、遠くの敵を狙うにはまだまだ魔法の技術が足りなすぎるのだ。


そこで考えついたのは矢の形ではなく、矢尻のような物を飛ばす方法だった。


木の矢には矢尻はないが、木を削って似たような物を作ることはできる。


そうしてできたのが小指の第一関節ほどの大きさしかない、僕専用の武器だった。


ただ、これは試作でありその性能は僕の期待するようなものではなかった。


小さく、軽くなった分魔法で動かすのは木の葉とほとんど変わらないくらいに簡単になった。


しかし、軽くなったためかどんなに早く飛ばしてみても威力が出ないのだ。


僕は考えた。

木を削って作るのではなく、もう少し重くてさらに硬い物ではないと武器にはならないと。


そこで目をつけたのが父の働く工房にある鉄だった。


本物の矢のように矢尻を鉄で父に作ってもらうことにした。


父は僕がそのようなものを求めることに難色を示したが、あの日以来僕が怪我らしい怪我をして帰ってこないので渋々作ってくれたのだ。


こうして出来た鉄の矢尻。

その重さは木の矢よりも少し重くなってしまった。


それでは結局意味がないと諦めかけたが、実際に魔法で動かしてみると矢尻は木の矢よりも動かしやすかったのだ。


恐らく木の矢よりも形が小さくなったことで動かすイメージがつきやすくなったのだと思う。


また、動かす物自体が重くなったからか木の矢よりも風などの影響を受けづらかった。


父は余っていた鉄で僕に矢尻を五個使ってくれた。


それを使ってゴブリンと戦いたい気持ちはあったが、僕は我慢した。


それよりも先に矢尻をどんな時でも思い通りに動かせるようにならなければいけなかったからだ。


森の中に木の板で的をいくつもつくり、走りながら狙ってみたり見えない位置にある的を狙ってみたりした。


それだけでなく、木の板を貫通できるように威力を込める練習もした。


それが多少上手くなると、今度は矢尻を一つではなく同時に二つ動かせるように練習した。


魔法で放つのは弓矢とは明確に違う。

弓矢ならば一度につがえる弓の数は一本だが、魔法で放つのならばその数に限界はない。


ノーマが無数の木の葉を自在に操っていたように五個の矢尻を同時に動かせるようになればそれは僕の大きな武器になると思った。


時は経ち、さらに三年後。

僕が成人を迎える年である。


その頃には森に作った隠れ家はもうほとんど第二の家のようになっていて、森で狩りをした獣の肉を干して非常食にしたり、近くの川から魔法で水を引いて飲料水にしたり中々快適な生活が遅れるような環境になっていた。


その日、僕は隠れ家から出てゴブリンの生息地に向かう。


この何年かで、ゴブリンは僕が木の上に作った小屋の周辺には寄り付かなくなった。


僕が小屋の上からゴブリンを倒しまくったからだろうか。

だとすれば、彼らにも警戒するくらいの知能はあるということになる。


もともとの生息地より少し奥の方へ足を進めると、すぐに例の嫌な匂いとゴブリン達の息遣いが聞こえるようになった。


現れたゴブリンの数はちょうど五体。矢尻の数と同じである。


初めて自分の力でゴブリンを倒したあの日以来、僕は父の「危ないことはするな」という言いつけをしっかりと守っている。


その証拠に僕はあれ以来一度だって怪我をしたことはないのだから。


牙を剥き出しにして集団で向かってくるゴブリン達。


僕は矢尻を取り出してゴブリン達に投げつける。


止まったまま魔法で動かすより、最初に投げつけた方が威力が増すのだ。


魔法で操った五つの矢尻はそれぞれ別々の動きをしてゴブリンの額を貫いた。

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