第4話 家に帰るのがイヤになるよ……

第4話

「ただいま」

やっちゃったー。5時を過ぎちゃった。ママは怒ってるよね。

ミミはおそるおそるドアを開けた。

ママが立っていた!

「7分50秒の遅刻。ミミ、時間を無駄にしたね。どこで何をしていたの?」

「ごめんなさい。友達の家でおしゃべりしていた」

嘘をついた。おしゃべりはしていない。本棚にずらっと並んだコミックスをかたっぱしから読んでいた。

「ママはおしゃべりならしかたないか。友達がいないと、学校も楽しくないでしょうね」

しめしめ、騙されてくれた。

時間を無駄にした罰は、家の手伝いに決まっている。

ママは、「人間は、時間が無いときほど時間を大切にするものだ」いう考えをもっている。

だから、こんな風に時間を無駄にした日は夕食づくりを半分手伝うことになっている。

ランドセルを置いて、手洗いうがいをして、部屋着に着替えたらエプロンを着てキッチンに来た。

食材はもう準備はされていた。ジャガイモとニンジンの皮をむき、一口大に切るらしい。ピーラーを使っててきぱきやっていると、ママが来た。

「あら、ミミ。ピーラーは5歳までの道具よね」

あわてて包丁を取り出した。(あー、うざい。なんでそういうこといちいち言うかな)


終わったら、キャップをかぶり外に出る。ママはスポーツウエアを身に着けて、ストレッチをしている。ママが先に走り出す。夕方のジョギングタイムが始まった。近所の人が、目を細めて話しかける。


「あら、いいわね、仲良し親子。いってらっしゃい」

ママは、家族以外の人には優しい。

「松田さん、行ってきます。ほほ」

手なんか振っちゃってる。


調整池の近くを走る。ママの背中を追いかける。

そして、大きな石が置かれているあの場所に近づく。

心臓がばくばくする。

ああ、今日も花が供えてある。

ここは、半年前、小さい女の子が池に落ちて死んだ場所なんだって。

この斜面は滑りやすくて、池に落ちたら滑ってあがれない。今は危険を知らせる看板が立ててあるけど、相変わらず危ない場所。

そして、ママはいつもここで立ち止まる。そして、肩をつかんで、「えいっ」と落とそうとする。わたしが怖がっているのを知って、わざとここで休憩する。泣きたくなる。

ママはわたしが怖がるのを楽しんでいる。帰りが遅かったから、特に強く落とそうとしてきたんだ。ママはわたしが帰宅するのをドアの前で待っているんじゃないかな。帰ってきたら、わたしの将来のためにあれこれさせなくちゃと思ってる? 体力の向上、家事能力の向上、ピアノの上達。学力の向上。欲張りなんだ。


「ママ、今日は帰りが遅くなってごめんなさい。急いで帰って勉強しなくちゃ」

「分かればいいのよ。明日から時間をムダにしないでね」

毎日の

夕方のジョギング、ホントにイヤ。

雨が降るか、ママがいなくなれば……いいのに。


【日記】6月30日晴れ

5時に帰る約束を明日から守ります。

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