六月の読切(よみきり)・前編

 マンションの室内しつないには作業さぎょうづくえふたかれていて、まえつくえに彼女がすわり、うしろのつくえに私がすわっている。私が彼女の背中せなかている状態じょうたいで、かいわせには、なっていない。これはきょのようなイライラしている状況じょうきょうで、たがいにかお見合みあわせていたら、殺気さっきってきて流血りゅうけつ沙汰ざたになりかねないからだ。原稿げんこうよごれたらこまるのである。


「うん、じゃあはなすわ。そのまえきたいんだけど、戦闘力せんとうりょくってなんだとおもう?」


なによ、それ。はなしはいまえの、前提ぜんてい条件じょうけん?」


「ええ、そういうものよ。貴女は戦闘力せんとうりょくって、どういうものだとおもってる?」


らないわよ。まあマンガでえば、スカウターとかいう機械きかいはかれる数値すうちじゃない? ドラゴ〇ボールであったわよね、そういう描写びょうしゃが」


「なるほどね。まあ数値すうちかんがえるっていうのは、いいせんをいってるとおもうわよ。ゲームでもそうよね。格闘かくとうゲームでえば、つよさは数値すうち設定せっていされるといっても過言かごんじゃないわ。キャラクターの体力たいりょくわざ発生はっせいフレーム、コンボの威力いりょく全部ぜんぶ数値すうちあらわせるわ」


 ふむ。適当てきとうった私のかんがえは、どうやらせんをいっているらしい。そうおもっている私に背中せなかけたまま、彼女は言葉ことばつづけた。


「でもね、それはあさかんがえよ。現実げんじつはゲームとちがうの。なんでも数値すうちあらわせるとおもってたら、それはおお間違まちがいね」


「ねぇ、ケンカってる? ケンカってるの? ネームさえわれば、いくらでもうわよ」


「まあまあ。貴女のあさかんがえはともかく、おなじようにかんがえる人間にんげんっておおいのよ。ス〇ーリンがローマ教皇きょうこう影響力えいきょうりょくまった理解りかいできなかったようにね。軍事力ぐんじりょく師団しだんかずでしか、ものかんがえない人間にんげんは、つまりあたまわるいの。戦闘力せんとうりょくってかただから、その単語たんごきずられてかんがえちゃうんでしょうけどね。でもたたかいって、いろんなスタイルがあるはずでしょ?」


「まぁ、いいわ。私たちがくマンガって、おんな主体しゅたいはなしだものね。だから貴女がいたいことも、なんとなくはかるわよ。女子じょしがスカウターをけて、かめはめってなぐうようなマンガなんかかないんだから、かんがかたえないといけない。そういうことよね」


「ええ、そういうことよ。ここまでは、いいわね」


 わたし個人こじんとしては、おんなのバトル漫画まんが面白おもしろいとはおもうのだが。彼女がいまかんがえているネームは、そういうジャンルではないのだろう。とにかくネームのしをめてもらわないとはじまらないので、ただ私は彼女のはなしやくてっする。その彼女がふたたび、はなはじめた。


「それでね。おんなたたかいっていうと、むかし忍者のいちみたいないろ仕掛じかけとか、そういうのを想像そうぞうしがちじゃない。でもさ、そういう発想はっそう古臭ふるくさいよね。なんならおんなおとこをやっつけるストーリーでも問題もんだいないのよ。どうせフィクションなんだから」


「ああ、そう。てっきりバトル漫画まんが否定ひていしてるのかとおもってたけど、ちがうんだ」


ったでしょ、『たたかいって、いろんなスタイルがある』って。バトル漫画まんが展開てんかいも、そのなかひとつよ。ただたたかいって、もっと色々いろいろ種類しゅるいがあるよねってことを私はいたいだけ。おんながバトルしてだい人気にんきのアニメもあるから、否定ひていはしないわよ。日曜にちようあさのアニメとかね」


 ああ、二十年にじゅうねんつづいているアニメシリーズがあったなぁ。放送ほうそう千回せんかいえたそうで、おめでとうございます。


「あ、でもさ。アニメにケチをけるつもりはないんだけど、欧米おうべいって暴力ぼうりょく描写びょうしゃきびしいよね。世界せかい進出しんしゅつかんがえるのなら、そういう外国がいこく基準きじゅんにもわせていく必要ひつようってあるかも」


「そうね。そういう意味いみでも、バトル漫画まんがオンリーの発想はっそうだときびしいんじゃないかしら。女性じょせいどもが暴力ぼうりょくさらされる描写びょうしゃって、表現ひょうげん規制きせいきょうされていくとおもうのよ。最近さいきんどうじんサイトで、国際的こくさいてき認知にんちされているクレジットカードが使つかえなくなったわよね」


「ああ、あったあった。実写じっしゃのポルノ動画どうがはカードでえるのに、同人どうじん作品さくひんは、外国がいこく本社ほんしゃのカードを使つかえないというね。いかにもな未成年みせいねんキャラが、同人どうじん作品さくひんでレイプされてたら、それは不味まずいのかな国際的こくさいてきに」


 日本にほん人権じんけん意識いしきひくいとか、そういう批判ひはんがあるようで。そう作者さくしゃ企業きぎょうふくめて、をつけていかないといけませんね。コカ〇ーラのCMシーエムきょくもミュージックビデオが炎上えんじょうしちゃったし。


何処どこまではなしたかしら。とにかく『たたかいって、いろんなスタイルがある』ということよ。そしてマンガって立場たちばえば、私たちは作品さくひんとおして、ほか作家さっかさんとたたかわけじゃない。のこりをけてさ」


「そうね、生存せいぞん競争きょうそうってやつね。そうやってのこるためにも、今日きょうじゅうにネームを完成かんせいさせないといけないんだけど」


「うん。で、おんな同士どうし格闘かくとうマンガを読切よみきりこうとおもったんだけど。ここで問題もんだい発生はっせいしたのでした。さぁ、どうすればいいでしょう?」


らないわよ、クイズ形式けいしきめて。大体だいたい問題もんだいなにかもからないわよ。さっさと説明せつめい!」


「はいはい説明せつめいします。まだアイデアの段階だんかいだから漠然ばくぜんとは、しているんだけど。とにかくおんなのキャラを何人なんにんつくって、たたかわせようとおもったのね。対戦たいせん方式ほうしきまってないんだけど。トーナメント方式ほうしきか、バトルロイヤルの総当そうあたりにするか」


「ふーん。まあバトルのルールは後回あとまわしでいいわ、まずはキャラクターよ。それがマンガのほんでしょ」


「ええ、私もそうおもったの。というかキャラの名前なまえ後回あとまわしでいいのよね。まずはキャラクターが、シルエットだけでも読者どくしゃ判別はんべつできるくらい、それぞれ特徴的とくちょうてきであること。それが大事だいじってことくらいはかってるわよ、これでもプロのはしだもの」


「それで? さっき『問題もんだい発生はっせいした』ってってたわよね。その問題もんだいなんなのか、まだ説明せつめいされてないわよ」


「そうよ、そこなのよ。そもそもストーリーも出来できていないから、まずはあたまなか格闘かくとうゲームみたいな世界せかいおもかべてほしいの。そうしてもらえると説明せつめいしやすいわ」


かったわよ、もう。カ〇コンのストシックスでいい?」


「ええ、それでいいわ。波動はどうけんしょうりゅうけん交錯こうさくする世界せかいね。どうでもいいけど最近さいきん格闘かくとうゲームって、やたらとキャラクターがえて大変たいへんだとおもわない? キャラごとの攻略法こうりゃくほうなんか、いちいちおぼえていられないわよ。二次にじ創作そうさくのマンガはきやすくなったもするけど」


「どうでもいいわよ。問題もんだいってなに? はや説明せつめいして」

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