Page3.本日の朝食
「今日のも美味しそうだね。食べ終わってからもいうつもりだけど、いつも作ってくれてありがとうセトラ。」
「ありがとうございますマスター。」
「やっぱり俺のことをマスターと呼ぶのはやめてくれないの?普通にみんなが言うようにセラでいいんだけど…。」
「呼び方は変えません。私はマスターに助けられてこの屋敷で暮らしているのですから。」
「助けたってそんなことじゃないよ。ただ倒れてたセトラを治しただけだよ。できることをやっただけ。」
「…………………………。(それを助けたと言うのでは?)」
「_?どうしたのセトラ。急に黙り込んだりして。」
「いえなんでもないです。とにかくマスターという呼び方は変えません。」
「マスターか。前の主人もそう呼んでたみたいだけどそれは気にしないの?」
「今はあなたがマスターです。前のマスターはずっと昔に亡くなっていますので。」
「そっか。ならいいよ。俺の呼び方はマスターのままで。」
「よかったです。」
食べる前に、セトラとそんな会話をした。
セトラはマスター呼びを絶対に変えようとしない。彼女が俺をセラと呼んだのは倒れてたセトラを屋敷まで運んで直して、屋敷でそのまま暮らすようになるまでだ。屋敷で暮らすようになってからは、セトラはずっと俺のことをマスターと呼んでいる。
別にマスターとわざわざ呼ばなくてもいいと言っても、絶対に変えない。変えようとしない。
変えさせようとすると、言葉がカクカクになってしまったので呼び方についてはもう諦めている。
セラ呼びとマスター呼び…何が違うのだろうと思ってしまうが、セトラにはマスターという言葉は特別なのだと思う。
だから、絶対にこう呼べとは言わずにセトラの意思に任せたい。
「セラ早く食べてみて!」「みて!」
「パパ様はまだ食べていないのだ?早く食べてみて欲しいのだ!」
三人にそうせかされて、とりあえず一口ずつ口に入れていく。
「わあ、おいしいね。シチューも肉が柔らかいし、サラダも瑞々しいし。」
「植物はすべて屋敷で育てていますし見つからない植物関係のものはレイファ様に頼んでいるので。あと肉は朝狩ってきました。」
「…あっ…相変わらずすごいね。獲物に気づかれないうちに狩ることができちゃうし、しかも傷も全然つけないんだから。
俺が魔法で倒すと燃え尽きるか、細切れになるか、腐ったり、干からびたり…最終的に食べられなくなっちゃうから。」
「マスター。人には得意と不得意があるんです。私は傷をつけずに目立たず倒すことができますがそれは自分より弱い場合のみです。マスターは自分より強い相手でも倒せてしまうじゃないですか。そもそもマスターより強い相手などなかなかみられるものではありませんが。」
「確かにそうだね。今、俺と互角に戦えるのはレイファぐらいじゃないかな?あっ不意打ちならセトラにもやられるかもしれない。」
「セトラ!今日の朝食ってなんて名前だっけ?」「だったけ?」
ミズとヒナがセトラに聞いていた。
確かに気になる。今日のサラダはいつもより瑞々しくてクセもなくて食べやすかったのだから。あと、見た目も独特なもので、しかも初めて見るものだったから。
「俺も知りたいな。教えてくれないか?」
「では説明をしますね。
本日の朝食はフクマドリのシチュー。リクマンロッソとピコのサラダです。」
「なんて?」
「フクマドリのシチュー。リクマンロッソとピコのサラダです。」
思わず聞き返してしまった。
フクマドリは知っている。
ピコも知っている。
リクマンロッソだけがわからなかったのだ。
「リクマンロッソ…ピコはわかるんだ。甘味と酸味のバランスがすごく良くて、お菓子とかにもよく使われる有名な果物だから。だけどリクマンロッソ…ってなんだ?」
「リクマンロッソは新種の植物です。レイファ様が新種だと言って持ってきてくださったので試しに食べてみたところ美味しかったので出してみました。」
新種の植物か…。
リクマンロッソだと思われる植物を見て、そういえば見たことがない植物だと気づく。名前も初めて聞いたものだ。
「ってなんで食べちゃったの?もし毒だったりしたら危ないよ。」
「私に毒は効きませんよマスター。なぜかというと私は魔法人形ですから。」
「………そうだったね。だけど、毒が効かないからってなんでもかんでも自分で確かめようとしないでくれ。心配になるから。」
「そうですか。それならこれから気をつけるようにします。」
「セラー、僕たちも食べたよ。」「ん。美味しかった。」
「えっやめてよ!いくら二人が人間よりも丈夫だからって、体が龍で作られてるからってやめてよ!心配だからね!絶対にやめてよ!絶対だよ。絶対!」
「わかったんだよ。」「わかった。あと何回も言わなくていいんだょ…。」
もうこんな心配になるようなことはしないようにしっかりと何回もしつこくなるくらい言う。
これだけ言えば確実にそれがどれだけ重要かわかってもらえると思うから。
「あとレイファ?俺は新種の植物が見つかったなんて聞いてないよ。」
「そうじゃったか?まあ、報告はしていないんじゃが。数年後にはするつもりだったぞ?
それにしても、てっきりわしは知っているものだと思ってたんじゃが知らなかったのか?」
「もちろん知らないよ。俺はレイファのように新種の植物が生まれてもわからないから。いくら似たような体質があっても、俺とレイファの体質は似ているようで意外と違うんだから。」
「じゃが特訓すればできるようになるぞ。」
「…それが大変なんだよレイファ。わかってる?生まれた時からできていないなら大きくなってから努力するしかないんだ。最初から植物のことを知っているレイファにはわからないだろうけど。」
「おおそうか。じゃあできるようになってみるか?わしが説明をすればあっという間にできるようになるぞ?」
「レイファの感覚って……説明すると言って全然説明してくれない説明のことじゃないか。俺はあれを説明とは絶対に認めない。なんだよ自分の感覚を共有させてその感覚を覚えさせるって。」
「別にいいじゃろう。実際セラはそれでできるようになっているのじゃ。」
「まあそれは後でやらせてもらうけど、生まれつきできるのは羨ましいなって思った。リクマン…なんとかとかいう新種の植物の存在に気づいて、世界に決められた名前まですぐにわかっちゃうんだからさ。あの調べるやつ、俺でも数秒かかるのにレイファは一瞬でやっちゃうんだから。しかも調べる以前に見るだけで名前だけなら一瞬でわかっちゃうんだから反則だよね。」
「リクマンロッソじゃ。一度で覚えよ。セラはやっぱりまだまだじゃな。もっと知識を身につけなければいけないかもしれんの。そうじゃ。どこかで一度__
「とりあえず落ち着いてください二人共。マスターもレイファ様も周りを見てください。
今は朝食の時間です。楽しく食べる時間です。皆で仲良く話す時間です。争う時間ではありません。
三人も見ていますよ。」
セトラにそう言われて食事中だったことを思い出す。
さっきまでは話が徐々にヒートアップしていってレイファとの会話しか頭になかった。
「ミズ、ヒナ、ごめんね。ノノもごめん。」
「すまなかったのじゃ。」
「いいんだよ!」「いいよ。早く食べないと冷めるから早く食べて。」
「冷めちゃうのは困るのだ。」
「本当にごめんね。さっきみたいな争いはまた後でにするね。」
「じゃあとりあえずみんなで話すとするかの。」
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