第11話 イケメンすぎる冒険者、また被害にあう①
「「「美味しくなーれ、美味しくなーれ、萌え萌えキュンキュン!」」」
俺はいったい何を見せられているのか?
Sランク冒険者マイク・バルカンは遠い目をしていた。
ウェイトレスは俺をリスペクトしている者からのプレゼントだとか言っていたが、どう考えても罰ゲームじゃないか。
しかも、最初はおずおずと参加していた女性客たちも、何かのスイッチが入ったかのように声を揃えて大唱和だよ。
これはもう、意識を違う所へ飛ばしとくしかなさそうだ。
そう思って、今日何杯目かのカルーアミルクのメガサイズを飲み干した。
うむ。
やはりカルーアミルクは、ほのかな苦さがあってスイーツには絶妙に合うな。この美味さを知らない奴は、大人の階段を上れない可哀想な奴に違いない。
いや、それにしてもデカいケーキだ。クレープに包まれたあの中は、きっと魅惑的に違いないだろう。
「さあ、完成ですよ!さっそくご賞味くださいませ。」
訳のわからないイベントを進行していたウェイトレスが、テンションマックスにそう言った。
ズコットケーキを包むクレープ生地には、赤いベリーソースで大きなハートが描かれている。
少し色彩は異なるが、まるでオムライスにケチャップで描いたようだなと興味を持つ。
ベリーソースか。
甘酸っぱいのはあまり得意ではないが、クリームや果実の甘さを引きたてる気はする。
あ、ベリーソースがたれてきたな。
クレープのアールに沿ってハートの形が乱れてくる。色合いが赤黒いから、凄惨な戦闘の跡地みたいにも見える。
いやいや、スイーツにかかったベリーソースを血に例えるのは良くないな。
マイク・バルカンはそんなことを思いながら、ナイフとフォークを手に取った。
せっかくだから、味わわせてもらおうか。
クレープ生地にナイフを入れると、さらにベリーソースが流れてハートの形だったものが歪なものへと変化した。
少し緩いソースだから残念なことになったな。もう少し煮詰めてソースを作った方が、ビジュアル的には良かったのではないだろうか。いや、そうすればベリーの酸味が増してしまうのかもしれん。素人が口を出す所じゃないな。
一口サイズにカットしたズコットケーキを、フォークで器用にすくって口に入れる。
表面のクレープ生地の食感に甘酸っぱいベリーソース、そしてそれがクリームの甘ったるさを抑えて絶妙なハーモニーが展開されるぅ。そして果実の酸味や甘さ、それぞれの食感が俺の口内をこれでもかというくらい刺激するではないか。
「う、美味い!美味い!!美味い!!!」
「どうやらお気に召したようですねー。」
ウェイトレスの言葉に、マイク・バルカンははしゃぐようにこう言った。
「こいつは、最高だーっ!」
感激したマイク・バルカンは凄い顔をしていた。
「どうやら気に入ってくれたようだな。」
俺はマイク・バルカンのはしゃぐ顔を見てフッと笑った。
しかし、なんて恐ろしい顔をしてやがる。周囲の女性たちがドン引きしてるぞ。
すぐに苦笑いへと移る。
まあ、これでプレゼントの主か俺だと伝われば、マイク・バルカンも軟化するだろう。
会話に困ったらスイーツネタをぶち込めばいい。
そんなことを考えながら、話しかけるタイミングを見計らっていると、俺の前に複数の冒険者が歩み寄った。
「よう、おまえマックスだな?」
だれかと思えば、先ほど嫌な視線をくれていた奴らだ。
「そうだが、何か用か?」
「おまえ、三日前の夜に何をしでかしたか覚えているだろう?」
想定通りの絡まれ方をしてしまった。
せめて店を出てからにして欲しいものだ。
「おたくらのパーティメンパーと飲んでいた。耳寄りな話があるからと誘われたんだが、会話が下ネタのオンパレードで、辟易して飲み過ぎたのまでは覚えている。」
その後、途中で意識を失ったのか、記憶だけをなくしたのかはわからない。
気がつくと定宿である俺の部屋で寝ていた。
もちろんひとりでだ。
「都合のいい記憶しか残ってないようだな。おまえ、ふたりとヤッちまったそうじゃねえか。」
「ヤッちまった?俺がふたりを殺したとでもいうのか?」
「違うわ。」
なんだ、違うのか。
ということは、別のヤッちまったか。
「悪いが店で酔いつぶれてからの記憶がない。」
そういえば、いろいろとカピカピになっていたな。
溜まっていたから派手に夢精したのかと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
「おまえに記憶はなくても、こっちのふたりはちゃんと覚えていたぞ。」
「何を?」
「教えねーよ!」
・・・え、ていうか怖っ。
それって、俺の意識がないことをいいことに、襲ったってことだよな?
おいおい、知らない間にヤラレてんじゃん。
またかよ、いったい今年何度目だよ・・・
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