第9話 コワモテすぎる冒険者は日々を憂う②
この町の冒険者ギルドには初めて足を運ぶ。
自惚れではないが、初めての町でも冒険者ギルドに行けば俺がSランク冒険者のマイク・バルカンだと気づく者が多かった。
見た目のインパクトは、想像以上に強い印象を残す。
最近では、マイク・バルカンが最強の冒険者だと騒ぐ者が急増している。
直近でいえば、犯罪組織をソロで壊滅したり、ワイバーン数体の単独撃破が尾ひれをつけて噂になっているからだろう。
「マイク・バルカンは素手でワイバーンの首をへし折るらしいぞ!」
まあ、確かに何体かはそうしたな。
しばらくの間、脇から腕にかけて竜種特有の生臭さがとれず、さらに人を寄せつけなくなってしまったが。
もう二度と素手では殺らん。
「知ってるか?闇ギルドの連中に囲まれたときに、マイク・バルカンは目から光線を放って窮地を脱したらしい。」
そんなわけなかろうが。
目から光線なんか出んわ。
竜種ですら、口からプレスを吐くだけだろうに。
まあ、目で射殺したことは何度かあったから、それを勘違いしているのだろう。
・・・そのときに光線が出ていたりするのか?
いや、まさかな。
冒険者ギルドでは、どこでもそのような噂話をひそひそとやられる。
ここの冒険者ギルドでも同様だった。
入口を入った瞬間に二度見され、目が合ったら脂汗を垂らして目を逸らされる。
すれ違いざまで俺の名を囁くように口にする奴らに目をやると、いきなり直立不動になってガタガタと震えだす。
正面を見据えて受付へと近づくと、死刑執行人が迫って来たかのように怯える受付嬢もいつもの光景だ。
くだらない。
世の中は本当にくだらない。
受付嬢に要件を伝えて、少しの間だが待たされた。応接室に案内しようとされたが、大した用事でもないので断っている。
ん?
俺にずっと視線を注いでいる奴がいるようだ。
そちらを見てみたが、侮蔑や畏怖といった感情はそいつの顔には現れていなかった。ただ、まるで彫刻のような顔をしている。ほりが深すぎることはないが、目鼻立ちがしっかりとしたエルフのような美青年だ。
俺は無意識に目を逸らした。
あれが俺と対極にいるイケメンというやつだろう。
確かに男から見てもキレイな顔立ちをしている。
なぜ、なぜ・・・ああいった奴らは、顔だけでなく髪もキレイなのだ?癖もなく、ツヤツヤで天使の輪のように輝いているじゃないか。
二度見する。
くっ!?
肌までキレイだと?
天は二物を与えすぎじゃないのか?
三度見する。
・・・顔が小さくスタイルも抜群じゃん。
何なのだ、奴は外見だけで俺にケンカを売っているのか!?
『この素人童貞が』とでも思って嘲笑っているのだろう。
四度見した。
なんだ?
なぜだか鼻をピスピスさせているように見えるし、心なしか頬も赤い。
・・・まさか、そっち系か!?
俺はもうそいつに目線をやらないようにした。
なぜあれだけのイケメンが性癖を拗らせているのか?女性など選びたい放題じゃないのか?
いや、まあ・・・趣味はそれぞれだからな。あまり干渉しないようにしよう。
マイク・バルカンはそれ以降、正面から視線を動かさないようにした。
その視線の方向にいたギルド職員たちは皆、彼が去るまで生きた心地がしなかったそうだ。
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