第8話 コワモテすぎる冒険者は日々を憂う①
Sランク冒険者であるマイク・バルカンは、周囲に気づかれないようにため息を吐いた。
所用で訪れた町だが、到着した早々に通りすがる者たちが距離をあけて目を逸らしていく。
ああ、わかっている。
みんな、俺の顔面に恐怖しているのだ。
生まれながらにして厳しい面構えを授かった。いや、授かってしまったのである。
この顔のせいで、これまでどのくらい嫌な思いをしてきたかなど常人には知る由もないだろう。
幼少期、同年代の者たちは皆が皆、腫れ物を触るように俺に近づかなかった。
それはそうだろう。
特に意味もなく、他の者の顔を見ているだけで3秒後には泣き出された。
そんなに俺は醜いのか?
確かに、実の両親ですら俺の顔を直視しない。あやすときは顔を見ず、食卓を囲う時も絶妙な位置関係で俺の正面には座らないようにしていた。
物心がついてからは、そんな毎日が地獄としかいえない日々を送っている。
思春期の頃だ。
好きな人ができて告白した時など、相手が卒倒して次の日には家族ごと引っ越して行ったなんてこともあった。
今では良い思い出・・・のわけないだろうコンチクショー!
俺はあれか?
呪われた顔相を持つモンスターか?
他人を呼吸困難に陥らすほどの強烈な加齢臭を発するオッサンか?
それとも、コワモテが伝染るとでも錯覚されているのか?
いつ何時も、俺をまともに相手取る人間は皆無といってよかった。
いや、実際にはひとりだけいる。
我が最愛の姉だ。
彼女だけは俺を正面からじっと見てくれた。
至らないときは叱咤激励を行い、良い行いをした時などは賞賛してくれたものだ。
俺が今の立場にいるのも彼女のおかげである。
俺をシスコンだとせせら笑った奴は多かった。しかし、そんなことをいちいち気にするほど気が短いわけでもない。
ただ、姉に色目を使ったり、ヤラシイ目で見てくる奴は地獄を見せてやった。それほどまでに、俺にとっての姉はまるで女神様のような存在だったのである。
因みに、姉を崇拝するあまり、あまりよろしくない弊害も残った。
俺も姉も甘いものが大好きなのだ。
姉に連れられて甘いものを食べ歩く生活を何年も続けた。
主食であるパンにも蜂蜜がかかっていなければ家庭内で暴動が起こる日々。
そして冒険者となった現在もその味覚に変化はない。
朝食にオレンジピールにチョコレートをかけたオランジェットを頬張り、昼飯代わりにフレッシュクリームとナッツをフォンダンシュガーで包み込んだマノンを貪り食う。そして夕食には砂糖とアーモンドを粉状にして練ったマジパンや、水飴を煮詰めて作ったヌガーで一日の疲れを癒す。
そうだ。
俺はあらゆる甘味を食すために冒険者を続けているといって過言ではない。
年の離れた姉が結婚することになった時、俺は自立のための道を探すことになった。
この顔面は超がつくほどのコンプレックスであり、周囲の人との距離を隔てるものである。ならば、そのコンプレックスを最大限に生かし、各地に存在するあらゆる甘味をたらふく食べられる職はなんだろうか。
菓子職人?
いやいや、顔が怖すぎて弟子入りさせてくれる人などいなかった。
だから甘味ですくすくと育った巨体を生かせること、そして様々な地域を訪れることができる仕事を探すことにする。
ああ、これだ。
強烈な顔面と巨体をあますことなく活用し、任地で好きなだけ甘味に溺れられる仕事。
そうだ、冒険者になろう。
その選択が稀代のSランク冒険者マイク・バルカンを世に送り出すこととなった。
そして、ここでもマイク・バルカンは世の中の厳しさを知る。
コワモテは同業者に舐められることなく便利だった。
しかしその反面、パーティメンパーを希望する者も皆無だったのである。
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