第6話 イケメンすぎる冒険者、サプライズを企む①

店内が急に暗くなった。


常連客の間では既に知れ渡っているのか、大した混乱はない。初見の客らしき女性たちが、薄暗い中でキョロキョロと周りを見回しているのがうかがえる。


「ご来店の皆様!いつも当店をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。さて、恒例のサプライズイベントです。」


先ほどの合法ロリウェイトレスにスポットライトが当たり、アナウンスが始まった。


スポットライトもマイクも、こういった事に利用するために販売されている業務用魔道具である。さすがに女性客をメインにしたお店では、そのような備品への投資は惜しまないようだと妙に感心してしまった。


さて、サプライズイベントというと誕生日や歓迎会など、ちょっとしたお祝いが主旨となる。


ただ、今回は俺の希望で少し毛色の違ったものを依頼した。


このためにあの合法ロリウェイトレスにはずんだチップはけっして安くない。


「本日はなんと!あのご高名なSランク冒険者であるマイク・バルカン様にご来店いただいております!!」


急に名前を呼ばれ、スポットライトを浴びせられたマイク・バルカンがギョッとして目を見開いた。


なんというか、素がコワモテなだけに、釣針に引っかかった魚のような顔をしている。


あれ?


意外と驚いているな。


もっとこう、キャラにあった冷静さを見せるかと思ったが普通の反応である。


甘党だけど1人でこんな店に入れるのだから、鋼鉄のハートを持っているのかと思ったのだがちょっと拍子抜けだ。


Sランク冒険者もサプライズイベントには無反応ではいられないか。


コワモテのおとこを目指す俺としては、少しハードルが下がったように思えて安心だ。いや、コワモテのサンプルとしては、俗っぽさが垣間見れて少し残念だったりするが⋯。


それに、女性客たちの反応が微妙すぎて吹き出しそうになった。


サプライズイベントについてはメニュー表を見て知ったのだが、こういったものは他の客も相乗りしてくるものだ。しかし主役の顔を見た瞬間、皆が皆とも視線をそらすという動作を同時に行った。


司会進行している合法ロリウェイトレスまで笑いを堪えているため、互いに目を合わせて必死にこらえる羽目に陥ってしまう。


堪え切れなくなる前に合法ロリウェイトレスがファンファーレ的な曲を流した。こちらも催事用の魔道具を使用しているようだ。まったく、世の中便利になったものである。


「それでは、マイク・バルカン様をリスペクトしている方からのプレゼントでーす!」


合法ロリウェイトレスの言葉と同時に、他のウェイトレスが大きなプレートにクロッシュをつけて現れた。


クロッシュというのは、高級料理によく用いられる金属製の丸い蓋である。おそらく銀製のそれは、スポットライトの光を反射させて品良く輝いていた。


どのような高級料理が出るのかと、客席の者は皆固唾を飲んでいるようだ。


注文した俺にしてみれば、「ごめん。ある意味期待外れで、別の意味でサプライズなのだが」である。


マイク・バルカンにしてみれば、いきなり主役に祭り上げられてしまい目を丸くしたままだった。


おいおい、コワモテが台無しだぞと思いながらも、どれだけイカつい野郎でもたまにはこうなるわなとほくそ笑む。同じ(?)ようなコワモテを目指す俺としては、四六時中肩肘を張るのはゴメンだからだ。


コワモテムーブをするにしても、少しはお気楽でいたい。


「それでは皆様、ご注目くださーい。クロッシュ、オ~プン!」


店内のほとんどの視線が注目する中、マイク・バルカンの目がキョドってるのが印象的だった。


「見世物にしやがって」と憤るのか、それとも出てくる料理に生唾を飲み込むのかはわからない。


少なくとも、俺はこの料理の提供に勝算はあると思っている。


怒らせたら死ぬ可能性もないわけではない。


しかし、マイク・バルカンとお近づきになるためには、こういった趣向での印象づけも必要だと思ったのだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る