第4話 イケメンすぎる冒険者、コワモテと出会う①
いろいろとあったが、なかなか自分に合った解決策が出てこなかった。
眉毛をなくすことは効果的だが、剃るのはブツブツがなぁ。
そんなことを思いながら冒険者ギルド併設のカフェにいると、周囲の空気が一変した。
いつもの喧騒が急に静まり、心なしか気温まで少し下がった気がする。
顔を上げて周りを観察すると、その原因がすぐにわかった。
「あれは⋯」
間違いない。
見るのは初めてだが、あの容姿は噂で聞いたものと一致する。
薄い眉に極端に小さな瞳孔、そして190センチメートルを遥かに超える長身と100キログラムはあるであろう巨漢。
Sランク 冒険者 マイク・バルカン
なぜこの冒険者ギルドにいるかはわからないが、あの異様な容姿はそうそういるものではない。
⋯はぁ、良いなぁ。
あのコワモテは理想かもしれない。
周りはほとんど干渉してこず、かといって受付嬢に煙たがられることも、目をランランとされることもなさそうだ。
いや、どちらかというと畏敬の念を持って接しているように見える。
⋯良いなぁ、アレ。
「⋯⋯⋯⋯。」
そうだ、あの人のようにコワモテになればいいんじゃないだろうか。
俺もあんな漢になることで、これまでのような問題はすべて解決だ。
やはり方向性は間違ってなかった。
よし、それがいい。
「⋯⋯⋯⋯。」
で、方法はどうすれば良いんだろうか⋯。
ああ、いい機会だからマイク・バルカン本人に聞いてみようか。
いきなり声をかけたからと殺されたりはしないだろう。
しないよな?
さすがに冒険者ギルドで声をかけるのは躊躇われた。
この支部でも俺には悪い噂しかない。
話しかける機会をうかがうために、マイク・バルカンの後をつけることにする。
彼はSランク冒険者だ。
どのように気配を消したところですぐにバレてしまうだろう。
だから俺は下手な小細工はしないことにした。
因みに、彼には同行者はいない。
彼はソロとしての活動歴が長いと聞いていたが、今もその通りなのだろう。
くぅ~、孤高の勇士みたいでシブいじゃないか。
しばらく尾行していると、冒険者ギルドからそれほど離れていない飲み屋に入って行った。
若い女性に人気のメニューを取り揃えている店だ。
意外な気もしたが、土地勘がなければそんなものかもしれない。近いから入っただけと、考えるべきだろう。
ただ、この店は8割がた女性客と聞いているので、場違い感もはなはだしい。
さて、マイク・バルカンはどのような反応を示すのか興味深かった。
間を置かずに店に入る。
扉を開けたと同時に、不思議な光景が広がっていた。
大半が女性客で埋めつくされている店内が、葬式のようにシーンとしていたのだ。
これは俺の想像通りだった。
若い女性で賑わっている店に、超コワモテの男が入ってくればだいたいこうなるだろう。
で、マイク・バルカンはどうしているかというと、二人分のカウンター席を占領してメニューに真剣な顔を向けている。
横柄な態度で二人分のスペースを確保しているのではない。巨漢だから当然の結果といえた。
それに、女性たちはいずれもグループで来店しているため、カウンターに座っている者は他にいなかった。
ふむ、雰囲気にのまれずマイペースなのはさすがだ。
場違いな所に来ても、慌てずに自分の好みのメニューがあるかを吟味する。漢だねぇ。
漢が何たるかはあまり知らないが、たぶんそんなものだろう。
「いらっしゃいませ!」
隅の二人がけのテーブルが空いていたのでそちらに座ると、すぐにウェイトレスが満面の笑顔でやってきた。
「ありがとう。」
お冷を持って来てくれたようだ。
飲み屋なのに喫茶店のような気づかいが嬉しい。それにおしぼりを手渡しでくれた。片手をそっと俺の手にそえてというのがまた好感度を高める。
ふと、マイク・バルカンにも同じようにしたのか気になったが、さすがに聞くのは躊躇われた。
「初めて来たけど、静かな店だね。」
理由はわかっていたが、つい聞いてみた。
「あ⋯はは。あまり見慣れない方が来店されたので、皆様緊張されているようです。」
ウェイトレスの苦笑いが痛々しい。
「ああ、あの人か。有名な冒険者らしいよ。サインでも飾っておくと良いかもしれない。」
「あはは、そうですね。でも、どちらかというと私はあなたのサインが欲しいなぁ。」
あ、コイツ⋯俺のことを知っているのか?
冒険者ってことは見た目でわかるからそうでもないのか?
まぁ、あまりカラまないようにした方が無難だな。
「はは、俺はどうってこともないペーペーだから。サインなんて恐れ多くて書けないよ。」
そんな風に答えておいた。
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