第3話 イケメンすぎる冒険者は苦悩する③

「申し訳ありませんが、ナニとは何でしょうか?心当たりがないのですが?」


「全部を言わせる気かね?」


「一部が全部だろうが、何の心当たりもありませんが?」


「君は最低だな。」


「確かに、今の俺の気持ちは最低です。訳がわからず叱責される理由をお聞かせ願いたい。」


「まず、複数の受付嬢同士が君を巡って取っ組み合いのケンカをした。知っているだろうが、彼女たちの大半は元冒険者だ。血の海となったのはわかるだろう。」


「⋯だいたい理解できましたが、『君を巡って』の所の意味がわかりません。」


「まだとぼけるのか。まあ、いい。それよりも、その二次災害がさらに問題だ。」


うわぁ、弁解の余地も与えてくれねぇよ。


「二次災害?」


「受付嬢は日々冒険者と接する機会が多い。彼女たちにはそれぞれファンがいる。その者たちが君の冒険者資格の剥奪、もしくはこの支部からの永久追放を要求してきた。聞き入れないなら他の支部に移るそうだ。」


「⋯事実関係をよく調べもせずに、それを聞き入れると?」


てか、俺が何をした?


ナニもしてないよね?


本当に勘弁してください。


結果、俺はその支部から追放されてしまったのだ。


追放理由が『愛の遍歴者』だった。


本当に泣きたくなるよ。




というわけで、俺は別の支部に移ることになった。


そこでは同じことを繰り返すまいと、ソロ冒険者として活動を始める。


もちろん、いろいろと努力した。


まず髭を生やして猛者い感じにしてみたのだが、髭面が生来のマスクの甘さを誇張したらしい。女性はともかく、言い寄ってくる男性もマシマシになった。


髭を剃る、そして次には眉毛を剃り落とす。


うわぁ、これは人相悪いわ。


これなら雰囲気もだいぶ変わっただろう。


⋯残念ながら、これはすぐにやめることになった。


剃ったところの肌がカミソリ負けして、ブツブツができてしまったのだ。


これは別の意味で人を遠ざけることとなったのである。


それはそうだろう。


この時に大陸の西の方で流行った病の症状が、正に似たような感じだったのだ。


これではまともな冒険者活動はできない⋯というか、ギルドの受付で隔離されてしまうところだった。


世の中はままならないものだ。


次に男らしさを強調しようと頭を剃ってみた。


うむ、日光を反射して輝く見事なスキンヘッドだ。これならモテないだろう。


しかし、その考えは甘かった。


確かに、女性にはツルツル頭好きな一部にしかウケなかったが、別のふたつの人種から猛アプローチをくらう羽目に陥ったのだ。


まず、男好きの野郎連中だったが、こちらはある程度予想できたため、事前に被害を防ぐことが可能だった。


不謹慎極まりないが、ある種の性病によくある症状──口の周りにできるブツブツをメイクで施したのだ。


この効果は絶大で、予想以上に近づいてくる奴らがいなかった。


そう、ギルドの受付嬢も、街行く人も、みんながドン引きさ。


スキンヘッドイケメン、口の周りにブツブツ付き。


人として間違った選択をしたことに気づき、すぐにやめることにした。


もちろん、髪が生え揃うまではカツラを使用したのはいうまでもない。


因みに、ツルツルイケメンの俺に群がったもうひとつは某宗教団体だった。


何でも、髪は伸ばすと修行の妨げになり、ヘアスタイルにもこだわりたくなるという欲が出る。さらにハゲると髪に対する悩みや執着が現れてしまうから、剃るのが最適解だとか。だから、あなたは是が非でも入信するべきだと。


いや、そんなことは知らんがな。ヘアスタイルについて説かれても、宗教じたいに興味がないから結構です。


そう言ったのだが、俺は突然担ぎあげられて教会に運び込まれてしまった。


その後は全裸にされて布だけを巻き付けられ、「あなたの容姿は我らの神にそっくりだ。あなたこそ俗世に現れた現人神なのでしょう」などともてはやされた。


ちらっと正面にある神像を見ると、確かに似ている気はする。


これまで容姿で散々嫌な思いをしてきたのだから、ここでお世話になるのも良いかもしれないなどと少し考えてしまった。しかし、すぐに不穏な言葉が耳に届いてくる。


「これで主神の容姿に類似したお子を成せるな。」


「信心深い者に子種を授からせてお布施を募ろうぞ。」


⋯このクソ坊主ども。


俺はすぐにそこから逃走し、誘拐された事実を官憲に届け出た。





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