第2話
「お待たせしました城本さん、今日はどんな症状ですか?」
「頭が痛いです」
「どんな風ですか? ガンガンとかズキズキとか」
「ガンガンです」
「他には何かありますか? 熱が出たり、鼻水が出たりとか……」
「他は……」城本は言い淀んだ。周りの人間と会話が成立しないことなど頭痛と関係あるのだろうか。しかし、ある意味では頭痛よりひどい症状なので、思い切って打ち明けることにした。
「周囲の人が変なことを言うんです」
「変なこと?」
「朝、あいさつしたら『こんばんは』とか、『元気野郎』とか」
「はあ……」
「今日から、急にそういうことが、起きましたか? えーっと、頭痛と同じタイミングで」
医師は言葉と言葉の間が詰まるようになってきた。
「ああ、言われてみれば頭痛と一緒のタイミングです」
医師は長い息を吐きながら指で机を等間隔のリズムで叩いた。
「それはね城本さん、たぶん、逆転性反応症、ですわ」
「逆転性……」
聞き慣れない症状を言われ、城本は言葉に詰まった。
「逆転性反応症。これはね、心療内科に行ってもらった方が、いいんだけども……。えっとね……、まあ、簡単に言うと、周囲の人が発言する内容の意味が逆転して聞こえるというやつですわ」
そんな症状があるのか。だから「おはようございます」が「こんばんは」と認識し、「お疲れ様です」が「元気野郎です」と解釈したのか。
城本は目の前の医師と普通に会話できていることに気づいた。なぜ今は症状が出ていないのか。医師が適当なことを言っているのかもしれない。
「でも先生の言うことは全然逆の意味に聞こえないんですけどね」
「だって私、逆の意味の内容で話してますからね……。あなたに伝わるように」
先生の言葉が急にたどたどしくなったのは、城本に伝えるために発言の内容をひっくり返しながら話してくれているからだった。
「それって治療法あるんですか?」
「まあ心療内科に行っても、同じこと言われると思うけど……、明確な治療法はありません。ですがストレスを軽減すると症状が収まるケースは報告されています」
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