第18話 敵。


 イヴが全裸でこちらを見ている。


 「きゃあ」と言って、その場でしゃがんだが、あくまでミミルとカルアの女2人に対する反応だろう。


 俺(箱)がいると分かったら、どんなことになるか。知らない方が幸せなこともあると思う。


 イヴが着替えた。

 やはり、美しい。このまま社交界デビューできそうだ。貴族というのは本当っぽいな。


 カルアはイヴに事情を聞いた。

 すると、イヴは心細そうに手を体の前で握り合わせた。そして、何度も手を組み直すと、俯きながらも話してくれた。


 「さきほどはありがとうございます。わたしの家はサースの前王妃の縁戚にあたる血筋で、王国の剣とも言われるフォーナイト侯爵家、……いや。元侯爵家の者です」


 カルアはイヴの肩を優しく抱く。


 「そんな家柄の人がどうして奴隷なんかに……」


 イヴはミミルとカルアの2人を見ながら続けた。


 「お2人には気分が良い話ではないかも知れませんが、現王妃のリリス様になってから、元王妃に連なるものの粛清があったんです。我がフォーナイト家もその対象でした。当主であった兄は抗ったのですが、力及ばず……」


 イヴの家は爵位や財産も剥奪され、残ったのは莫大な借金だけだけだったらしい。そして、イヴは奴隷になった。

 

 カルアから前に聞いた話では、現王妃リリスは、国政について発言力があり、獣人解放をはじめ、様々なリベラルな改革をしているということだった。


 しかし、それはあくまで一般市民向けの顔であって、内部からは違う見え方をしているようだ。


 カルアもミミルも、信じられないという顔をしている。


 イヴは続ける。


 「リリス様は、資源の開発にも積極的で、強引なやり方で、精霊の森を切り開き、ドラゴンの巣から鉱物を採掘したんです」


 えっ。……ドラゴン?


 カルアは、目を見開き口を押さえている。

 ミミルが口を開いた。


 「そのドラゴンって、黒いやつ?」


 「はい。わたしは実際に見たわけではないのですが、東の山脈でミスリル鉱山に棲みつく黒竜という話でした。転生者パーティーに頼んで、かなり強引なやり方をしたらしいです。棲家を追い出された黒竜は怒り狂って、どこかに飛んで行ったということでした」


 ミミルは歯ぎしりしている。


 この話が本当だとすれば、ミミル達の集落は、リリスのせいで襲われたことになる。


 カルアはめまいがしたのか、その場にへたり込んでしまった。ミミルが駆け寄って支える。


 ん?

 転生者? あいつらのことか?


 ミミルが呟いた。


 「リリスさま、……リリスのせいでわたしたちの集落が。だとしたら、絶対に許せない」


 黒竜が勝手に暴れたと思って、自分を納得させていたのであろう。それが、間接的だったとしても、人為的に引き起こされたとなれば、話は変わってくる。

 

 だが、カルアはミミルをなだめた。


 「あの日の悲劇にリリス様が関係しているとしても、わたしたちには試練がある。まずは、皆との約束を守ろうよ」


 そうだよな。

 俺もミミルに声をかけた。


 『悔しい気持ちは分かる。でも、まずは目的を果たそう』



 すると、イヴが上擦った声をあげた。


 「いまの、男の人の声。男の人いるの?」


 しまった。

 俺は性別のない箱の設定だったことを忘れてた。


 ミミルが答える。


 「えっ、いまのツバキくんの声だよ?」


 すると、イヴがこっちを凝視した。

 そして、数秒あけて、何かを理解したらしく、「キャー」と大騒ぎして、身を守るように両手を組み、座り込んだ。


 こちらをジト目で見ている。

 イヴは口を尖らせた。


 「わたしの裸。わたしの全部見られた……」


 いや、そんなこと言ったら、大男にも結構見られたと思うんだが。


 「責任とって。結婚して。フォーナイトの女子は、裸を見られたらその相手と結婚するか、殺さなければならない」


 おいおい。

 随分と物騒なしきたりだな。


 『まぁ。俺箱だし』


 イヴは話を止めない。


 「じゃあ、箱から出たら結婚して。できなかったら、お前を殺す」


 こいつやばいよ。

 女神様、オレやばいの引き入れちゃったみたいです。

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